●推敲版「世界で一番あなたがきらい」作者:湊波氏



・第1話 火の国の銀の騎士


※湊波 様、『推敲』と言うより『改竄』に近い事になりました。

 多分 第2話以降のエピソードで明確になっていくであろう設定を、私が『勝手に』模造してしまいました(確信犯)。

(言い訳:次話以降を読んでしまうと、新鮮味か失われるので 敢えて避けています)

 当然ながら 本来の作品とは全く関係のないモノになっている事でしょうが、この企画内だけの事として ご笑納頂ければ幸いです。


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 『火の国』首都である この城塞都市は、四重の城壁で守られた巨大なものである。

 最外周の分厚く高い城壁と、厚い鋼で出来た東西の門扉は、並の城壁破壊兵器では歯が立たないほどの強度を誇り、住人の安穏な暮らしを守っている。

 その内側にある壁は それより遥かに低く、強度も さしてあるように見えない。

 ここは 豪商や、貴族が住まう場所であり、少し高台になっている。その高度差が この区域における防衛力の大半を果たしているからだ。

 そして、その奥の二重の城壁は 王家の住まいを守るためのものである。当然だが、最外周の城壁に匹敵、いや それ以上の強度を誇るものが、十メートルほどの間隔を空けて築かれている。内側の方が より高く頑丈に造られているのは どこの城塞都市にも共通する構造だ。


 近衛は別として、他の兵士や騎士が起居する兵舎は、王城の外壁から 貴族や豪商達の屋敷がある地域を貫くように造られ、平民街に近い区域まで伸びている。それは東西にある大城門の守備と、城下の治安維持を強化するための配慮である。

 兵は軍務と共に、行政機関の末端である 警察機能も兼ねているのだから。


 季節は初秋。

 まだまだ 昼間は残暑の残る季節であるが、夕方ともなると 流石に過ごし易くなる。

 どこの壁にも また建物にも、多種多様 大小様々な、多くの鳥が、巣から離れて飛翔している。新生の成鳥は 長距離の渡りを前に、飛行訓練をしているようにも思える。


 ここは西側の兵舎近くにある 西日が強烈に差し込む区域であり、騎士達の常設戦闘訓練場に当てられている。

 今日は もう常例の訓練は終わったが、何組かの騎士が鎧兜を装着したまま 真剣で対峙している。

 その中の一組は 何だか様子が可怪しい。その付近には人が、それも年若い女性の姿が多く見受けられるからだ。着飾った貴族令嬢の姿も 僅かながら伺える。城内の塔から覗いている ご婦人方も多い。


 大勢の人がいながら しわぶく音ひとつ聞こえない。西日が照らし出す訓練場では、剣を打合う音だけが響く。


 どちらの技量も高いようで 切迫した打合いが何合も続いた中、僅かの隙を見逃さず 片方の騎士が相手の喉元に剣先を充てた。その一瞬、周囲にも分かる程の緊迫した空気が漲る。

 やがて それも治まり、穏やかな静寂に切り替わった。


 「……参った」


 苦々し気な声を発したのは 膝を着いた男である。その瞬間に静けさは破られ 黄色い歓声が沸き上がった。

 その音に驚いたのだろう、闘技場の周辺や建物の屋根、窓辺にいた鳥達が群れを成して飛び上がった。

 その羽音は 歓声に紛れる事もなく、やけに明瞭に聞こえた。


 勝者が 優雅とも見える所作で剣を収め、兜を外した。

 そこには 雪よりも白い輝きを放つ銀色の長髪が零れ出し、白磁の肌と 切れ長の眼と蒼い瞳、そして退廃的にさえ見える 僅かに愁いを帯びた雰囲気を醸し出す青年がいた。「フェン様……」観戦客の誰かが、小さく嘆声を漏らした。


「すまないな 怪我はないかい」

 観戦客達の視線を浴びながら青年、フェンが差し出す手を、彼と同じように兜を外し 茶色い短髪を露わにした、如何にも戦う男といった雰囲気の対戦相手が 苦笑を浮かべ、叩き付けるように取り、立ち上がる。


「はっ、稽古で怪我してちゃ世話ねぇぜ」

「いや、君が何ともなければ それで良いんだ」


母親おふくろか、お前は。心配し過ぎなんだよ」

「だってさ。君が怪我をすると、夕餉の酒代を支払ってくれる者がいなくなるからなぁ」

 賭け試合であったようだ。


 当然だが 騎士団の規則では、金銭を賭けた試合は禁止されている。だが 奢りで、酒代程度であればと、黙認されているのだ。


 フェンが悪童のように笑むと、男は げんなりと肩を落とした。


「お前の、そういうところがだな……」

「さぁ さぁ、君は夕餉に遅れないように準備しなきゃね。僕は お嬢様方の相手をして来るからさ」


「へっ、言ってろ色男め。夕飯ゆうめしに遅れたら、酒は奢らねぇからな」


 投げ遣りに身を翻した男の言葉を背に 振り返ったフェンは、如何にも男性的な場所である闘技場だというのに 詰め掛けて来ている女性達に、優しく目配せした。少し離れた塔の窓からは 貴婦人達の、色鮮やかなドレスの端々が覗いている。


「フェンさま!」

 勇気を出して声を掛けて来る ご婦人方に、彼が微笑みを向けると、更に大きな歓声が上がる。


「こんにちは、お嬢様方。お忙しいのに、見に来てくれてありがとう」


 その言葉と共に 彼は女性達の群れに向い、その中に 呑み込まれていった。


*****


 フェン・ヴィーズ。

 銀の騎士と謳われ、美しく長い銀髪と蒼い瞳を持つ青年。

 剣を扱えば、まるで剣舞のように優美でありながら、彼の強さに比肩し得る猛者は、この国には 数える程しか存在しない。

 そして 何より女性に優しい。それ故 女性に限ってだが、王宮おいても非常に大きな人気を誇っている。

 遠征の出陣式に、戦闘訓練や剣術の稽古をしている現場にと、貴賤を問わず 大勢の女性が集まるのだ。


「……って事で この状況も珍しくはないってことさ」

 その訓練場を見下ろすように建っている塔、その窓に フェンの様子を窺う二つの人影がある。

 道化て見せたのは金色巻き毛の青年だ。片眼鏡の奥で 少し垂れ気味で軽薄そうな目を輝かせ、小さく口笛を吹いた。


「いやぁ。噂には聞いてたけど、大層な人気者だねぇ」

「……」

「顔だけなら、俺も負けてないと思うんだけどなぁ」

 自ら『顔だけ』というだけの事はある それなりに整ったかんばせである。だが、その目は 彼の本性を隠せないでいる。


「お前は 見境なく手を出す『クズ』だろうが」

「うっわ。ひっどいなぁ」


 巻き毛の青年を バッサリ切り捨てたのは、もう一人の若い男。

 年齢的には 隣にいる青年と大差ないのに、その雰囲気は既に『男』のものである彼は、窓辺に寄り、女性の群に囲まれているフェンを観察している。

 濃い朱色の短髪で 腰には大剣を下げ、簡素な 黒を基調とした服を纏っている。

 だが 彼を際立たせているのは、その瞳である。

 燃えるような 紅玉の如き瞳が表すのは、血の色、或いは 全てを焼き尽くす『火の国』の象徴となる色か。


「で、どうなの。あの子は? アッシュ様」

 その男、アッシュに 巻き毛の青年が問えば、彼は 氷のような小さ笑みを受けべて答えた。


「さあな 使えなければ、死ぬだけだ」

「これまた……。いやぁ 酷いなぁ」

「行くぞ!」

「はい はい」


 金色巻き毛の 軽薄を装う青年は、軽く肩を竦めて溜息を吐くと、素早く その身を翻して、席を外したアッシュの背を追って 窓辺を離れた。


*****


 この国には、絶大な人気を誇る二人の男がいる。


 一人は 彼の銀の騎士、フェン・ヴィーズである。

 そして もう一人は、アッシュ・エイデン その人である。人々は、彼の事を、畏怖を込めて こう呼ぶ。『金炎の王太子』と。


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