第三章 わがまま王女の侍女

第一話 携帯ゲーム機

「姫様お待ちください。まだ身なりが整ってません」

「いや、ですの。今日はいっぱい遊ぶのです」


 私は逃げる姫様を追いかけ丁寧に話しかける。

 わがままを言って逃げる回る姫様。


 白竜と例えられるカッセダールの王城。そこの奥まった所にある王宮。

 更に奥のピンク色の家具に囲まれた私室。そこが私、フロードレアの職場です。

 侍女である私が仕えるのはエルバータ王女。御年六歳です。

 姫様は男の子並に活発で黙っていれば人形みたいに可愛い。

 髪はシルバーで瞳は青く、度々青月と呼ばれる。




「そっち行ったからお願い」


 私は職場の同僚のグラデリカに声をかけた。

 グラデリカは私より一つ若い十七歳。

 体つきはがっしりしていて美人ではないが、頼りになる相方です。


「任せて」


 グラデリカは返答すると共に、走りだした。


「捕まえたわ」


 グラデリカは柔らかく姫様を抱きとめて、私に話しかけた。


「姫様、走らないで下さい。はしたないですよ」


 私は姫様を優しくたしなめる。


「今日は教師が皆お休みだから、一時も無駄に出来ないですの」


 姫様はジタバタして逃げに掛かりながら、言い訳する。どうやら一瞬もじっとしてられないみたいね。


「姫様もう少しですから、我慢して下さい。後で一緒に遊んであげます」


 姫様を私はなだめながら、髪を結って纏める。そして、リボンをして完成。

 私ながら今日も良い出来ね。




「うーん、これは前に遊びましたの。これは面白くないです」


 姫様は玩具を前に何で遊ぶか長い時間、検討中。これは良くない兆候です。

 大体この後はとんでもない悪戯をしでかすのに違いない。


「えへへっ、フロードレア。一緒に遊んでくれるとさっき言ったですの」


 姫様が約束を持ち出して来た。

 この後とんでもない事になりそう。


「これを使ってみせて。お願いですの」


 姫様は私に懇願し、一枚の羊皮紙を差し出しました。

 私は受け取ると羊皮紙を読みに掛かる。これは古代語ね。

 実は私、魔法学院を卒業していて古代語は得意分野です。


 どうやらこれは神器のようね。

 欲しい物を神の眷属が売ってくれるみたい。

 神は契約を破ると喜んで呪いを掛けてくる危険だわ。

 なぜこんな物が姫様のもとに。


「姫様これはどこから手に入れられましたか?」

「何時も意地悪するソベラルドお兄様から頂いたの」


 私の少しきつい口調に姫様は素直に白状した。


 ソベラルド王子の母と姫様の母は側妃でとても仲が悪いと聞いています。

 これは多分嫌がらせ。呪いを姫様を掛ける為と、神器の処分を押し付けたのね。

 神器は扱いを間違わなければ、それほど危険ではないわ。

 捨てるのは論外ね。神に目を付けられ悪戯されないとも限らない。

 厳重に保管して置きましょう。


「姫様、これは危険です。私が預かります」

「嫌だ。使ってくれなきゃ嫌だ。欲しいものが手に入る魔法の道具なんでしょ」


 私の説得に、駄々をこね始める姫様。

 面倒な展開になったわ。どうしましょ。

 しょうがないわね。一回だけ神器を使いましょう。

 契約さえ間違わなければ問題無いと思うわ。



「姫様をお願い」


 グラデリカに声を掛ける。


「一度だけですからね」


 私は姫様に念を押し、神器を手に取る。


 私は決意を胸に起動の呪文を唱えた。


「デマエニデンワ」


 プルルルと奇妙な音が神器からする。奇妙な神器ね。

 姫様が、目をキラキラさせてこちらを見ています。

 グラデリカは不安そうに姫様をかばえる位置に立っている。

 ガチャという音と共に念話が繋がった。


 神は約束を必ず守るから、最初に契約を確認しないといけないわね。

 どうやらお金を払えば、商品を売ってくれるらしい。

 神の眷属が何にお金を使うのかしら。

 神がお金を受け取ったという話は聞いた事がないわ。

 何か事情があるのか、ただの遊びという事も考えられるわね。

 どちらにしろ、今日は無難に買い物する事に集中しましょう。


 眷属の名前はアイチヤ。

 商品の希望を聞いてくるアイチヤに、私は姫様に希望を聞くため話しかけた。


「姫様何が欲しいですか? おっしゃって下さい」

「最新の玩具が良いですの」


 姫様の希望をアイチヤに伝える。

 最新のゲームというのを売ってもらえる事になった。




 ガチャという音がして、念話が切れる。

 ふう、汗をハンカチで拭う。

 まだ安心は出来ないわ。配達が残っている。

 お金を用意しないと。姫様にお金を負担して貰いたいところだわ。

 だけど、契約は私がしたのだから、私が払わないといけないのでしょうね。




 姫様の気をそらす為に魔道具の人形を動かして遊ぶ。

 いけない、そろそろ配達に来る時間だわ。

 姫様にお茶を給仕しながら待つ。



 姫様の部屋に突然、光が溢れる。


「姫様危険です、さがって下さい」


 私は姫様に警告した。


「ちわー、アイチヤです。配達に来たっす」


 緊迫した場面に能天気な声が響く。

 これが神の眷属、男を見る目に定評がある私からすると駄目男だわ。

 組織の中では無難に仕事をこなすけど、上に立つと役立たずになるような感じがする。

 人は良さそうに見える、でも眷属だから油断は出来ない。

 手には紙の袋を持っている。あの中に商品が入っているのね。


「では商品をテーブルの上に置いて下さい」


 私がアイチヤに伝えるとアイチヤはテーブルの上に丸みついた不思議な箱と半透明なケースを置く。


「アイチヤとやら、早く遊び方を説明して」


 姫様が好奇心に耐えかねてアイチヤの方に歩み寄り、話し掛ける。


 グラデリカが姫様を引き戻す。

 姫様は見慣れない玩具に一刻も早く触りたいようだわ。

 私はアイチヤに遊び方を習って退散してほしかった。



「これ銀貨八十二枚です。アイチヤ早く使い方教えて下さい」


 私は銀貨を投げつけるように渡し、アイチヤに話し掛けた。


「紙に簡単な使い方を書いたんで分からない所があったら連絡するっす。リョウガエ。ありあとーしったー! デマエキカン」

 紙と謎の言葉を残してアイチヤは光と共に去って行ったわ。


 起動に少し手間取ったが、起動が難しい魔道具なんて物はありふれている。

 私に掛かればこんな物わけないわ。


 まずは、自分でゲーム機を試す。

 これってどうやって動いているのかしら、魔力の波動も神器特有の波動もしないわ。

 音も出るし高機能よね。

 ぐりぐり立体の絵が動く。

 まさか、小さい眷族がゲーム機に隠れているのではないでしょうね。

 すごく興味をひかれる。


 魔道具でこれを再現しようとしたら、とんでもない金額の魔道具になりそう。

 銀貨八十二枚は安いと思うわ。


 隙間にブロックを入れる遊びをやる。

 なるほど状況判断が試されるゲームね。

 面白いわ、癖になりそう。


「早く私に貸しなさい」


 姫様が焦れたようね。


 機嫌が悪くなっている。

 ゲーム機を渡すと懸命に遊び始めた。

 ゲーム機を上下左右に振り回す。

 私もゲームをしてる時はあんな感じなのかしら、ちょっとはしたないわね。


「他の遊びはないの。飽きた」


 姫様はゲームを辞めて尋ねる。


「後、一つございます」


 私は次のゲームを手に取り返答した。


 次のゲームはドラゴンを退治する物だった。

 姫様は戦士を操って剣でドラゴンを切りまくる。


「これは、面白いぞ。気に入った」

「口調が悪くなっています」


 変な口調の姫様に私はたしなめた。


「戦士になった気分でしたの」

「気をつけて下さいませ」


 元の口調に戻った姫様に私は注意した。

 うなずくとゲームの続きをやる姫様。


 昼食を挟み、一心不乱にゲームをする姫様。

 なんか嫌な予感がするわ。


「壊れたの! アイチヤを呼んで!」


 突然叫ぶ姫様。


「説明によると五時間ぐらいで動かす素がなくなるそうです。また遊ぶには三時間必要と書いてあります」

「仕方ないの」


 私の説明に姫様は納得した。


 アイチヤを呼び、動かす素を入れてもらう。


 姫様はお眠りになる時間になっても一向にゲームをやめようとしない。

 困ったわ。グラデリカと二人掛りで姫様からゲーム機を取り上げた。

 姫様は泣いたが疲れたのか、ぐっすりとお眠りになられた。




 これは悪魔の発明ね。やっぱりアイチヤは神の眷属だわ。

 駄目男の雰囲気にもう少しでだまされるところよ。

 姫様から完全に取り上げたら何をしでかすか分からないから、ゲーム機の使用は一日一時間に徹底させよう。

 やっぱり、神の関係者はろくでもないわね。



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商品名     数量 仕入れ   売値    購入元

携帯ゲーム機  一台 二万五千円 五万円   玩具店

充電器     一個 九百円   二千円   玩具店

メモリーカード 一枚 千七百円  四千円   玩具店

ソフト     二本 一万二千円 二万四千円 玩具店

ソフト入れ   一個 千円    二千円   玩具店

充電代     一回 一円    百円    電力会社

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