第29話 穏やかな朝から始まる二人の気持ち
僕は目が覚めてからもしばらく布団で横になりながら、僕の腕まくらでスヤスヤと眠る優香さんの寝顔を見ていた。
リルも僕たちの足元で身を丸めて寝ていた。
長い
透き通るような白い肌にほんのりと
程よいピンク色の唇は柔らかくて弾力があるのを僕は知っている。
僕の気持ちはそそられる。
長い艶めく黒髪が優香さんの顔にかかっているからそっとどけてやる。
「んんっ…」と少し優香が反応すると僕はいたずら心が芽生えていた。
そっと口づけてみた。
僕は優香さんの柔らかい感触を確かめるように二度ほど口づけると優香さんが起きたようで細い指のしなやかな手を僕の頬に触れてくる。
「おはよう」
「おはよう」
そう言ってから優香さんは指で僕の唇にゆっくりと触れてから口づけてきてくれた。
はあ。
(どうしよう)
ざわっと心の中に優香さんとこの先を求める欲望が起き、頭をもたげるのを僕は感じていた。
抱きしめて優香さんと一つになれるものならそうしたい。
昨晩「自分を大事にして」と僕から優香さんに言ったくせに。
「抱いてくれる?」
僕の腕のなかの優香さんは潤んだ瞳で僕を見つめてくる。
そんなことをして良いのか?
僕は自分を叱責して抱きたい欲望を無理矢理抑える。
僕は優香さんからそっと離れようとした。
「智史くんが抱いてくれないことで彼女さんは辛い思いをしたのかもしれない」
「えっ?」
ドキリとした。
僕の胸に鼓動が大きく一つした。
まっすぐに僕を見つめる優香さんは強い光を放つ瞳をしている。
僕のなかの心や体に痛みが走った気がした。
海のさざ波の音だけが部屋に響いて聞こえていた。
僕と優香さんは見つめ合いながら少しのあいだ黙っていた。
「僕は確かに婚約者にずいぶん触れてなかったかもしれない」
琴美に最後にキスをしたのはいつだっただろうか。
手を繋いだり抱きしめたり。
夜に二人で愛し合ったのはいつだったか?
「彼女さんのほうは智史くんに抱きしめて欲しかったのかもね。
今の私みたいに。……寂しいもん。とっても。
それに悲しい」
切なげに僕を見てくる優香さんの瞳に
「抱いて欲しいだなんて言うのすごく勇気がいるんだよ?」
ここまで優香さんに言わせてしまった自分を後悔して恥じていた。
目の前の優香さんにも
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。