第26話 背中から抱かれて。

 僕は理性をフルに働かせた。

 抑え込む。

 今にも優香さんを抱きしめかえしたいところだったが。


「優香さん。僕は…」

「ごめんなさい」


 優香さんが僕の背中から離れたところで彼女をあまり見ないようにして、着替えをササッと持って部屋を出る。

「ゆっくりビール飲んでってよ」

 そう言いながら。


 まずいだろ。

 あんな色っぽい子を目の前にしたら何しちゃうか分かったもんじゃない。

 優香さんはどういう気なんだよ。

 ドキドキした。

 恋人ごっこの延長上のことか。

 そうか。そうだよな。


 僕は琴美との失恋の痛みが少し和らぎ遠のいていく気がした。


 だけど僕だって男なんであんまり色気出されて近づかれると困るんだよ。

 僕は優香さんに翻弄されていく。


 小さな宿の小さな檜の風呂に身を沈めながらまだ僕の心臓は高鳴り続けていた。

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