第19話 恋人同士を演じているから

 優香さんの唇はとても柔らかくて熱を帯びていた。いやもっと熱いのは僕のほうかな?

 軽く重ねた唇を何度も押しつけながら次第に僕たちは前からの恋人のように激しく口づけていた。


 僕たちの他には洞窟内には誰もいなかった。

 あんなに観光客がいたのに、だ。


 僕は優香さんを抱きしめた。


 さっき会ったばかりじゃないか。

 理性ではそう考えては抑えようとしたが僕ははっきり思ったんだ。


 この人をもっと知りたいと。

 もっと抱きしめてきつく抱きしめ合ったらいいじゃないか。


 傷の舐め合いのような関係でもいい。


 お互いの悲しみを癒やすことが出来るならと願っていた。

 今は恋人同士を演じているんだから尚更だ。


 僕は優香さんが求めてくれるなら何度だってキスをして何度だって抱きしめてあげたい。

 それほど深い悲しみが優香さんから僕に流れ込んできた。

 僕の悲しみも優香さんに流れ込んだのだ。


 僕たちはキスの熱がじんわり残る気持ちのまま江の島岩屋をあとにした。


 気持ちがたかぶっていた。


 優香さん。

 琴美にも感じたことがないほどにあなたに焦がれはじめている。


 僕は恋に落ちていた。

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