序章 試練の遺跡 7

 ***

『窮地至って理を得たり』


 こんな言葉をどこかの武術の達人が言っていた気がする。

 窮地とは己の危機的状況であり、武を前提に例えるのなら、窮地とは死を目前とした場所である。

 そんな時に理を得た所で、ある限られた状況を除くほとんどの場合は意味が無い。

 そんな最後の最後に分かったところで、自身が窮地であることには変わりがなく、仮に偶然新しい力に目覚めたところで付け焼刃程度にしかならないだろう。


 危機的状況は変わらず、それを実現できるだけの体力も、力も残っているとは到底思えない。


 どこぞの漫画の世界のような主人公でもない限り、そのような奇跡的な逆転劇などある訳がない。

 故に、この言葉は単なる負け犬の遠吠えであり、敗者の悔し紛れの戯言であり、こんな言葉を使う奴は到底強者足りえない。


 ただ敗北するのが嫌だから、新しいことが分かったと自らを褒めて安心させて終わらせる負けず嫌いの戯言だろうと考える。


 では、本物の強者というのは何だろうか?


 それは死を目の前にして手持ちのカードで挑み続ける者の事だと考える。

 考え、挑み、泥にまみれながらも思考し続ける。

 そして、偶然ではなく必然の逆転をやり切った者として、生き残った自身の実力を胸にようやくその言葉を口にする権利が与えられる。


 ──『窮地に至って理を得たり』と


 ***


 砕けた左腕。潰れた内臓。ボロボロの体。

 どうあがいても逆転の目は無く、ただ死を待つのみだった。──その言葉を聞くまでは。


「俺に本気を出させたんだから、胸を張って仲間の元へと行くといい」


 …仲間? 胸を張る?


 その一言が、冷え切った体に一点の熱を与える。虚ろな瞳に再び光が灯った───


 その動きは完全に無意識だった。

 振り下ろされる刀剣に合わせて前に出ると、使えない左腕を前に突き出して剣を止めようとする。


 愚かだなと、ディオスはそう思った。

 油断、慢心。傷だらけの戦意喪失した相手にとどめを刺す段階で、最もやってはいけない事をディオスはやってしまった。

 久しぶりの戦闘だったからか、興が乗りすぎたためか。

 いずれにしても、手負いの獣を前に気を抜いてしまったのだ。


「だあああぁぁぁぁぁッ!」


 突き出された左手は剣に抉られようが落ちることなく、僅かに動く指先は白帝を握るディオスの右手を確かに掴んでいた。


「なに!?」


 突き出した左腕の手首から肩にかけて大きな裂傷が刻まれたが、ディオスの右手を掴む力が揺らぎはしない。むしろ強くなっているようにすら感じる。

 運よく分泌されていた脳内麻薬と一点の怒りという熱が、ロウから痛みの概念を消失させたのだ。


 落ちていた折れた剣の破片を掴むと、掴んだディオスの右手を自身の左手ごと突き刺して固定する。

 唐突な痛みに思わず握る手が緩んでしまい、白帝と呼ばれた剣が音を当てて地面を転がり、そして──


「────」


 間髪入れずにディオスの顔面を、ロウの右拳が捉える。

 グチャリという肉が肉を打つ音が響き渡り、撃ち抜いた拳を返してロウの裏拳がディオスの反対の頬を打ち付ける。


「胸を張れる?」


 よろめいたディオスを繋げた左手を引くことで近くに寄せると、力任せに左ひざを相手の腹部へと突き刺した。

 予期せぬ反撃にあうディオスはロウが手繰る腕により体勢が崩れたままとなり、反撃に転じることが出来ない。


「諦める──?」


 そして、ディオスの胸ぐらを掴むと、一気に引き押せて自身の額を相手の眉間に叩き付けた。


「こんな事であいつ等に──会えるかァァッ!」


 ──頭に鈍い痛みが走り抜ける。

 互いにふらつきながらも倒れる事は無く、二人の手を繋ぐ折れた剣を深く差し直し、互いの手は赤く染め上げられた。


 たまらず繋げられた剣を引き抜こうとディオスが手を伸ばすが、それはロウによる腹部への一撃に止められる。


「ごぅ…ッ……!?」


「こんな事でよぉ…会えるかぁ!!」


 苦悶の表情を浮かべているが、吐き出される血により口元が濡れたロウの瞳には欠片の影も見えない。

 振り下ろした拳を額で受け止めたディオスは、口に溜まった血の塊を吐き出して、真っ直ぐにロウを睨む。


「この死にぞこないがァ…!」


 ロウの顔を目がけて突き出された拳を首を傾ける事で直撃を免れると、そのまま空いたディオスの腹部へと再び左ひざを叩き込んだ。


「「ごフッ!」」


 折れた肋骨がロウの体の中で動いたらしく、ねじれた臓腑から大量の血液が吐き出される。一方で、ロウの蹴りを受けたディオスも同様に、ようやく傷らしい傷がつけられたのか苦悶の表情を受けて血を吐いた。

 互いに口の中に感じる血の鉄臭い味を噛みしめながら、互いに向き直って拳を握る。


「テメェがその気なら──」


 一手早かったのはロウだった。すぐさま殴り掛かろうとしたが、体を回された事で空を切る。虚空を殴ったロウの腕はディオスの脇でガッチリと固定されてしまった。


「とことんやってやらァ!!」


 仕返しと言わんばかりにロウの眉間へとディオスの頭突きが食らわせられる。

 あまりの衝撃に僅かに意識が飛ぶ。消え失せてしまいそうな意識を引き戻したのは、続けてのディオスの膝蹴りだった。


「──────ッ!!」


 常人では考えられない一撃の重さに、ロウの意識は蹴られる度に何度も落ちるも、その度に激痛により現実へと引き戻される。


 そして、三度目。

 タイミングを合わせて叩き付けられた膝を脇で挟むと、ディオスの片足を払いって挟まれた腕を使って後ろへと引き倒す。

 倒れたディオスへと馬乗りになると、倒れた拍子に解放された腕を振り上げて、ディオスの顔面へと叩き付ける。


「うッラァァア!」


 立て続けに殴ったロウの拳は既に砕けており、激痛により握れなくなった手を物のようにただ叩き付ける。

 何度叩いたか、ロウが腕を振り上げた瞬間に力任せに押しのけると、今度はディオスが馬乗りの形となる。


「オオオオおォォォォぉオオオ──!」


 まるで獣の咆哮だ。見開かれたディオスの目は未だに死んでおらず、血だらけとなっている自身の体の傷はディオスの動きを制限するには至っていない。

 固く握られた拳はロウの顔面目掛けて振り下ろされるも、繋げられた手を引くと同時に体を無理やり動かして一撃を躱す。


 ディオスの一撃は床を砕く威力で、巨大な蜘蛛の巣状に地面が砕ける。

 割れた地面とロウの体の間に出来た隙間を利用し、反動をつけた勢いでディオスを押しのけて、互いに膝をついたまま目の前の相手へと殴り掛かる。


 ロウは意識が飛びながら、ディオスは血をぶちまけながら繰り返す。

 舞い散る鮮血は、さながら踊る二人を彩るイルミネーションのように美しい。

 技も技術も何もない、ただの力任せの殴り合いを美しいと表現するのは変かもしれない。けれども、一歩も引かずに繰り返す二人のただの殴り合いは、何故だかとても清々しかった。


「「おオオオおォぉぉォぁァアアぁッ!!!」」


 斜め上から振り下ろされるディオスの裏拳をしゃがんで躱し、そのまま上に跳ぶようにして顎を撃ち抜いた。


 フラいて離れたディオスの腹部を前蹴りで蹴りぬくと、ブチブチという音と共に二人を繋ぐ剣が外れてしまった。

 ここまでの攻防で緩んでしまっていたらしいが、ダメージの入っているディオスは右手が解放されたことに気が付かない。


「俺ハ───」


 大きく踏み込み、砕けた右手を握る。メキメキと骨を伝って嫌な音が聞こえるが、今はそんな事はどうでもいい。ただ目の前の男を殴ると、強い思いと共に吐き出せない感情を込めてただ強く握る。


「───俺、わァ──」


 ロウの叫び声に顔を上げた瞬間、ロウの全体重を乗せた拳がディオスへと突き刺さり、たまらず後方へと転がった。


 まだ動けるディオスはすぐさま起き上がろうと頭を上げる──そこには左手に突き刺さっていた折れた剣の破片を引き抜き、ディオスの喉元へと突き付けるロウがいた。


 肉が肉を、骨が骨を打ち合う打撃音が止まり、静寂が訪れたこの部屋に二人の粗い息遣いだけが聞こえる。


「俺の……負けだな」


 そう言い放ち、口の中に溜まった血を吐き出して盛大に寝転がる。


「…答えろよ」


 寝転がるディオスに跨ると、手に持っていた破片を打ち捨てて胸ぐらを掴む。


「俺の───」


 痛みからではない。心の底から溢れ出る恐怖がロウの口からその言葉を吐き出させようとはしない。


「俺の、何だ? 言葉にしろよ。…分からねぇだろ」


 挑発的なディオスに頭突きを食らわせると、大きく息を吸い込んで、叫ぶ。


「俺のォ、仲間は何処にいる! 答えろよ!」


 ゴホ、と大きく血の塊が口から零れ出る。

 血を吐き出したことにより連鎖的に体の各部が悲鳴をあげる。その後何度もむせ続け、ようやく収まりだした頃、ディオスは淡々と告げる。


「居ねぇよ」


「な…に……?」


「ここにはお前しかいないって言ったんだよ」


「嘘だ!」


 カチカチと歯を打ち鳴らしながら震えるロウは、泣き出しそうな顔で、すがる様にディオスを詰める寄った。


「確かに、見たんだ。…壁に、映る…あいつらの姿を……」


「映像に決まってんだろ。あの中の誰か一人でもお前に声を掛けたか? 返事すらなかったはずだぜ、ありゃぁお前にやる気を出させるための映像でしか無いんだからな」


「……嘘、だ…」


 思い返せば、確かにその通りだ。あの壁の向こうに誰かいる訳がなく、こちらの呼びかけに一切の反応を示さなかったのも、映像だからだ。


 ディオスの言葉を心が認めてしまった事により、全身から一気に力が抜けていく。苦痛も怪我の痛みも通り越し、手足から毛の一本に至るまでが鉛の重さを獲得する。


「この遺跡は通る者の心を映し出す」


 胸ぐらを掴むロウの手が緩んだのを見ると、押しのけて立ち上がる。体の汚れを払ったディオスは、顔の血を拭ってコキリと肩を鳴らした。


「最初は『罪』を、次に『あり方』を見せる。最後に『ありもしない希望』を見せて対象の心を壊して世界に送る。…よくできたシステムだ」


「何を…言ってる?」


「お前の場合、のっけからハードだったな。お前の『罪』は無数の骸の上に成り立って、お前の『あり方』はただただ孤独。暗く狭い部屋にただ一人で放り出されたんだ。さぞ『希望』は明るく見えただろうな」


「ふざけ…るな」


 言葉に力はない。生きていくために呼吸をするような無意識さで、零れた言葉は力なく地面に落ちる。


「あり得ない…そんな事は、無い…はずだ」


「認識しろ。ここにはお前しかいないんだ!」


「ここが地獄じゃないのなら───」


 ディオスを見上げた顔は涙と恐怖に彩られ、絶望がロウの瞳を埋め尽くす。


「───俺しかいないのはおかしいだろうが!」


 言葉の裏に込められた絶望は、自身が存在していることを許していないようだ。

 祈るように、嘘だと言ってくれと願う様に、ディオスを見上げる。


「ここにはお前しか来ていない。お前ただ一人だ。この場所の王である俺が断言してやる、何度だって言ってやる、聞きたくなくても言ってやる! ここには! お前、ロウ・ガーウェンが! ただ一人でここに居る!」


 けれど、ディオスは真っ直ぐにロウの目を見てハッキリと告げる。ここにはお前一人しか居ないのだと。


「嘘…だ……。…そんな、…嘘、だろ……」


 全身から魂が抜けたように項垂れるロウは、抜け殻のように生気が感じられなくなっていた。


「……てくれ」


「何?」


「俺を……殺してくれ…」


 虚ろとなった目は虚空を見つめ、抜け殻となった体は無気力に死を望む。


「もう、生きたくない」


 掠れた声は静かな部屋の中でも聞き取りづらい。生きる目的を失った抜け殻は、ただただ死を懇願する。…だが。


「そりゃ無理だ」


 ハッキリと断るディオスの言葉に、ロウの願いは聞き捨てられる。


「俺に勝利した奴がここから出て行くって話なんでな。残念ながら、そのお願いは聞き入れられねぇな」


 ロウの横を通り過ぎたディオスは地面に転がる白帝を拾い、鞘へと納める。


「苦しい…苦しいんだ。生きる事がこんなに苦しいなら…もう楽になりたいんだ」


 その後は、何の物音もしない静寂が訪れる。


「一番助けたかった奴が真っ先に死んでいく。俺は…誰も守れない」


 協会にて、神父に悩みを告白する教徒のように静かに語る。


「全部…全部落ちてくんだ。…もう俺には…何もない。だから…生きていても……周りに迷惑をかけるだけで…意味が無いんだ」


「ほう? お前は意味を、理由を求めるのか。なら俺がお前に理由を与えてやる。…俺の娘を守ってくれ」


 言葉の意味が理解できなかった。何を言っているんだろうと、素直にそう思った。


「生まれたのは大体10…いや、16年ぐらい前か? 今生きてたら17、8ってところだろうな」


「…な……にを…?」


「そりゃもう可愛いの可愛くないのなんて議論が意味ねェくらいに美人でよぉ。ありゃ親の顔が良かったんだろうなぁ、これだからもてる男は辛いぜ」


 ロウの後ろで一人笑う姿が瞼に浮かぶ。             ─止めろ

 思いだした娘を可愛がるように、楽しそうに笑い声が聞こえる   ─止めてくれ


「だからこそ心配なんだよな、クソみてぇな虫がよりついてんじゃねぁかってよ。心配で気が気じゃねぇんだ。だから…頼むわ」


「だったら、自分で行けばいいだろう。俺は…何も出来ない、何も…守れないんだから」


「生憎と、そう簡単な話じゃないんだよなぁ」


「何を──言って…」


 ディオスの口ぶりが急に冷たくなったことに違和感を覚えたロウは、不意に後ろを振りむいた。

 鞘に納めた白帝を抜き放ち、襲ってくる骸を切り払ったディオスが静かに、剣を担いでいた。


「言ったろ。俺はここの王だって。王が倒されれば国が滅ぶ。国が滅ぶ事で一番怒り狂うのは民たちだ。王を名乗るなら、民たちの怒りを請け負うぐらいはしねぇとな」


 ディオスの体の一部が靄となって霧散し、もとの骸骨へと戻り始めていた。


「────頼むわ」


 顔の半分の肉が消えて無くなり、もう半分だけ残った顔とロウの視線がぶつかり合い、感じてしまった。

 一つしかない蒼玉の瞳の圧は消え去り、父親のような暖かく優しい視線が真っすぐにロウへと向けられる。──本能が、拒絶する。


「ふざけるなぁ!! 何だよソレ、何なんだよ! 俺は何もできない、何も守れないって言ってんだろうが! 俺に、俺なんかに──!」


「…ロウ」


 襲い来る骸骨を淡々と薙ぎ払いながら、ディオスは背中越しに名前を呼ぶ。


「お前の仲間は凄いよな。何のためらいもなく、誰かの為に命を賭けられるんだからよ」


「…………」


「所詮自己評価など、結局は自己満足でしか無いんだからな。だが、あれだけの凄ェ仲間が信じた自分まで見限っちゃダメだ。それは自分だけじゃなく、自分を信じてくれた仲間まで見捨てる事に繋がっちまうからな」


「お前が…あいつ等の、俺の何を知ってるっていうんだよ」


「知ってるさ、当たり前だろ。ここに呼んだのは俺たちなんだから、お前がどんな経験をしてきたかぐらい知ってるさ」


 無数に起き上がる骸の波を、ロウの後ろでディオスはただひたすらに切り払う。

 けれども多勢に無勢、次々と起き上がる骸の数に、だんだんと押され始めていた。


「お前がどんな経験をして、どれだけ血泥にまみれてきたかを知ってる」


「なら──」


「だからお前に頼むんだ。──頼む」


 一番近い骸を薙ぎ払うと、ロウの方へと向き直って頭を下げる。

 見せた顔は悲し気な顔だった。元々厳つい顔つきであり、近づきがたい雰囲気があったというのに、何故だかその瞬間だけは誰よりも弱々しく見えてしまった。


 ──本能が、揺さぶられた。


 虚ろだったロウの瞳に、微かだが光が戻ったのをディオスは見逃さない。

 傷だらけのロウの体に触れると、触れた部分か優しい光を放つ。不思議と、体が軽くなったような気がした。


「コレである程度は動けるはずだ。…お前になら見えるだろ。この部屋の出口がよ」


 白帝が指し示したのは階段の上にある玉座だった。砕けた玉座のその後ろに、いつの間にかぱっくりと暗い孔が口を開けていた。


「良いか、チャンスは一瞬。…見逃すなよ?」


 いつの間にかロウとディオスの二人を大量の骸が取り囲んでおり、出口まで繋がる階段前までもすでに骸に埋め尽くされていた。


「──そぅら、行けェえ!」


 力一杯に振り下ろされたディオスの一太刀は、眼前に広がる骸の山を一気に薙ぎ払う。

 一直線に生まれた道を、誰かに背中を押される感覚と共に走り抜ける──。


「ああああああああああああああ───」


 周りは見ない。ただ真っすぐに。

 背中を押す風に身を任せるようにひたすらに走り抜ける。


「向こうについたら『ドレッドノート』の名前を確認しろ! 俺は有名人だから、なにかと役に立つだろうよ!」


 走るロウの背中へと投げかけた言葉が聞こえたかどうか分からない。もう姿の見えないあの人間が何処までできるかは、アイツ自身にしか決められないから。

 けれど、あいつならきっと大丈夫だろうと、理由のない確信がディオスの中で芽生えていた。


「『先行く君に、あらん限りの幸運を。降りかかる不幸をわが身に預け、ただ前を見て進むがいい───』」


 360度を骸に囲まれたディオスは、ありったけの力を持って天井へとその刃を振るう。

 白帝の剣圧は部屋の天井を崩し、崩落する瓦礫が骸の全てを圧し潰す──


「『──汝に、幸あれ』」


 最期にそう言葉を残し、笑い、そして──

 ──部屋は闇に包まれた。


 ◇◇◇


 ロウは出口に向かって歩いていた。


「何で…、何故…」


 一人で答えの出ない問いを呟きながら、動かぬ腕を抱いて、確かな一歩を踏み出し続ける。


 この先に待つ多大な困難の事を知る由もなく、ただただ歩き続ける。──そして。


 暖かな日差しは冷えた体に熱を伝え、優しい風は傷だらけのロウの体を優しく包む。


「そ、と…? やっと……出て──」


 鳥のさえずりにも似た音を聞きながら、ぼやけた視界は静かに黒く塗り潰された。

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