Let's talk about love.

ありふれた言葉、気の利いたセリフ、 声にならないため息、笑い声、歌。少しだけひねくれた物言い…

独り言、そら言。


彼女と交わすたくさんのことば。


耳で聴きながら眸で読みとりながら、

彼女のこころの裡を解こうとしている 。


「あのね…」「でね…」彼女がことばをつなぐ。


「うん…」みつめた先の睫毛が瞬きにゆれる。


そしてそれがぼくのこころもゆらす。


ほんのわずかな空気の振動が、飛ぶ虫の羽なんかよりも薄い鼓膜を叩いて、気持ちの水面に雫を落としてゆく。


でも時にそれは、突然に鳴りだすティンパニの響きよりも、 強く烈しくぼくを動揺させる。


なにげない言葉、かわいたセリフ、熱に腫らした喉、なみだ声、虚ろな返事 、

No reply…


ふたりのこころを今、紡ごうとしている。 

彼女のことばで。ぼくのことばで。


つたない糸はこびで。糸をからめながら。


傍らにいてくれるだろうか。 笑いながら。怒りながら。やきもきして。うんざりして。


「貸してみなさい。へたくそね。ここはこうするの。」


近くにいる彼女の遠くから聴こえてくるひそやかな歌声。


「愛について語りましょう。 ずっと捜していたもの。 ずっと望んでいた愛について語りましょう。 傷つきながらも求めていたもの。 そしてそれを癒やしてくれる力。 愛について語りましょう。」


「セリーヌ・ディオン?」


ぼくは肩肘を膝につきながら、 彼女の少し翳りのできたほおをながめている。


「わたしの歌よ。おかしい?」彼女の瞳がぼくの応えを待っている。


でも、すぐに指の先に眼差しをもどして、 それから、ぼくに聴かせるように口ずさむ。


愛について語りましょう。 夜も、朝も、明日も未来も。 気づかない大事なもの。


そう、空気がここにある限りそれは伝えられる。


ちがう場所にいても こころが離れないように。


ちがう時間を過ごしていても想いが満たされるように。


愛について語りましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る