神殺しの獄卒少女

弐護山 ゐち期

前日談:悪魔さんのささやき

 世界には二種類の人間——『見える者』と『見えない者』がいる。

『人外』が見える者、見えない者の二種類がね。


 したがって。

 人ならざる者の世界が見えたとしても、なんの問題もないのさ。


 僕たちからしたら——そちら側を知っている者からしたら、問題はない。

 そうなのだけれど。

 悲しいかな、事実として見える者は圧倒的に少ない。

 それ故に、周囲がどう見るかは別問題となるのさ——。

 

 影切桐花かげきりとうかは人間じゃない。

 正しくは人間とバケモノのハーフといったところかな。

 

 何故、そんなことが言えるのかって? 

 

 それは至極簡単なことで、考えるまでもないことで、この僕が物語の当事者だからに他ならない。

 そう。

 僕が彼女をんだ。

 

 影切桐花は幼少期から僕たちのような存在——いわゆる『妖怪』や『神霊の類』が見えていた。

 彼女はそれを普通のことだと思っていたし、逆に見えない周囲の方をと思っていたんだ。

 そんな彼女も、中学生になる頃には自分の異変に気が付いた。


 自分は普通じゃない。

 自分の方がおかしいんだ、ってね。

 

 自分が他人と違うと認識したとき、人間は大きく分けて二つの行動をとるらしい。

 

 周囲に合わせるか。

 周囲を拒絶するか。

 

 彼女はどうだったかって? 


 結論から言えば、後者かな。

 彼女は周囲を拒絶し、孤独となった。

 誰も私を理解してくれない、ってね。

 

 そんなとき、母親が何者かに殺されたんだ。

 世間では『突然死』で片づけられたけれど、彼女だけは『殺された』と知っていた。

 だって、紋章が、母親の亡骸に刻まれていたのだから。

 

 助けを求めようにも、誰かに訴えようにも——ただの戯言、ただの変人扱いしかしてもらえない。

 

 彼女は犯人を恨んだ。

 犯人が——人外が見える自分さえも恨んだ。

 恨んで、恨んで、恨んで……そして、悪魔と契約を結んだんだ。

 

 ——自分を邪魔するのなら、妖怪でもバケモノでも、神でさえもこの世から消す——

 

 だから、その為の力をくださいってね。

 

 一応言っておくと、妖怪もバケモノも僕も『神様』なんだけど。

 ただ神格が違うだけ。

 周囲への影響力が違うだけのことさ。

 

 ……おっと、話がれた。

 失敬、失敬。

 

 僕も神様には逆らいたくなかった。

 けれど、これが悪魔の性というものなのだろう。

 面白そうだから、『魂』と引き換えに願いを叶えてあげたんだ。

 

 そんなこんなで彼女はバケモノになった。

 人ならざるものを斬る——『神殺しの少女』にね。

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