第19話 詩とユーモア

 最近、めっきり詩を書いていない。習作は書いたがピンと来ない。『ひとりぼっちの、歌』を書いてその先が見えずに途方に暮れている。ある人から言われた。もっと自由に言葉を接続して書かないのか、と。同じ事を繰り返していて楽しいのかと。色々と考えた、ヒップホップだラップだとあれやこれやと聴いて凝り固まった脳と身体を解さなければとやってみた。しかし、どうにも変わりもないし、何かみえそうでもない。


そうして疲弊していたとき本棚を整理していたら井伏鱒二の全詩集岩波文庫が出てきた。井伏鱒二の詩は軽やかで深い。なだれに熊があぐらをかいている、ユーモアあふれる詩に触れると考えていたのが馬鹿らしくなり思わず笑いが込み上げてきた。そういえば、そろそろ春だと柔らかな陽射しをみて気づいた。雪のとけた山で山菜が芽吹く頃だ。こごみの天ぷらはさぞかし美味いだろう。山で熊にあったら礼でも言おうか。そうは言ってもまずは逃げるのだろうけど。


「なだれ」(井伏鱒二)


峯の雪が裂け


雪がなだれる


そのなだれに


熊が乗つてゐる


あぐらをかき


安閑と


莨をすふやうな恰好で


そこに一ぴき熊がゐる

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