第5話




 軽く朝食を済ましてテントを出た俺は、蘭を残し1人でキャンプ場を散策する事にした。

 テントを出てすぐの駐車場の入り口には『奥多摩ダンジョン入口駐車場』と書かれていた。


「そうか、ここは奥多摩か。召喚された時にいたのが東京の世田谷にある自宅近くだから、まあ電車が動いてるなら2時間掛からずに帰れるな」


「さて、人が沢山いるな。大丈夫だとは思うが一応ステータスの隠蔽をしておくか」


 俺は自分のステータスを呼び出し異世界の平均的な冒険者程度のステータスにする為、闇魔法の隠蔽と偽装で数値を入れ替える。



 佐藤 光希さとう こうき


 職種: 勇者→無し


 体力:SS→D


 魔力:SSS→C


 物攻撃:SS→D


 魔攻撃:SSS→C


 物防御:SS→D


 魔防御:SSS→C


 素早さ:SS→D


 器用さ:SSS→C


 運:B→E


 取得魔法:最上級雷魔法、最上級空間魔法、最上級時魔法、上級結界魔法、上級水魔法、上級闇魔法、上級鑑定魔法、最上級付与魔法、上級錬金魔法→中級雷魔法、初級闇魔法、生活魔法



 このステータスは勇者召喚されたものは自分で見る事ができるが、それ以外の者は中級鑑定魔法を覚えるかダンジョンの宝箱から出る『鑑定の水晶』か『鑑定の羊皮紙』という物を使って確認する事ができる。

『鑑定の水晶』は上級ダンジョンから稀に見つかる程度なので貴重だが、『鑑定の羊皮紙』は低級ダンジョンからでも宝箱から10枚単位で出てくるのでそれほど貴重な物でもない。


 いわゆるレベルの概念はこのアイテムには無い。魔獣を倒した際、5メートル以内にいる者全てにその貢献度によって魔獣の魂とも呼ばれる物が分配される。それを人間の魂が吸収し、各ステータスが上昇していく仕組みになっている。

 より強力な魔獣を1人で倒せば、当然その分の魂を吸収し能力が上がりやすくなる。

 上位の魔獣を食すと魔力だけはランクアップする事もあるらしく、『魔力保有量=若さの持続効果』がある為お金持ちの婦女子はこぞって買い集めていた。


「まあ、余程上位の魔獣の肉じゃないと大して魔力上がらないんだけどね」


 各種ステータスランクはF〜SSSで装備や職業によって多少増減はあり、俺の場合は物攻撃がSSだが聖剣クラスを装備すればSSSとなる。ランクは上に行くほど上がりにくくなる為、予備のミスリルの剣を装備してもランクは上がらない。


 魔法に関してはダンジョンで宝箱に入っている魔法書で覚えるしか無く、初級程度の魔法であれば稀に初級ダンジョンから、中級ダンジョンの宝箱からちょくちょく手に入れる事ができる。

 適性がある者のみ、その魔法書を開く事ができる。魔法書自体は覚えたら消滅してしまう。


 ちなみに俺のアイテムボックスには、魔王城宝物庫からの戦利品として多くの魔法書がある。

 魔獣がいる世界ならかなりの貴重品なはずなので、目立たないよう初級や中級辺りの魔法書を小出しに売りに出そうかと思ってる。


「よしっ!ステータスはこんなものでいいか。地球のレベルがどんなもんかは分からないけど、その辺の奴らを鑑定して微調整していけばいいだろう」


 人に会う前に鑑定魔法対策しとかないとな。さて、あそこで食事してるいかにも冒険者っていう3人組に声を掛けてみるか。

 俺は手土産を持って朝食を作っている中年の冒険者風の3人組に向かって歩き出した。


「お食事中のところすみません。ちょっと観光で来てまして、この奥多摩ダンジョンのお話を少しでいいので聞かせて頂けませんでしょうか? あ、これ魔獣の蜂蜜酒らしくて、私お酒駄目なんで良かったらどうぞ」


 俺は異世界で手に入れたハニービーの蜂蜜酒を1瓶渡した。そうすると最初訝しげに見ていた革鎧を身に纏ったガタイの良いおっさんが、目を見開いて驚いていた。


「こ、これはもしかしてハニービーの蜂蜜酒じゃないか!? こんな高級なもんいいのかよ」


 おっさんがそう言うと仲間らしき周りの人間も驚きつつも喜んでいた。


「おお!これがハニービーの蜂蜜酒か!1本10万以上するってのに太っ腹だなー」


「お兄さんはマスコミ関係の人? 私達のような中堅探索者の話聞いてどうするのか分からないけど、まあここに座りなよ」


 俺と同じ年位で背が低く素早さに特化した装備の盗賊風の男が、ハニービーの蜂蜜酒の相場を教えてくれた。そして30代前半位のローブを纏った魔法使いらしき背が高く細い男性が、笑顔で席を勧めてくれた。


「ありがとうございます。ほんと観光に来ただけでして、探索者さん達のお話を聞ければ良い思い出になるかなと思いまして」


「おうっ、そうなんか? 観光ねぇ……ここは人気が無いダンジョンだからなぁ。俺たちはここにいる灰狼を狩る依頼を受けたから来ているだけで、普段は埼北のダンジョンに潜ってるからそんな詳しくないぞ?」


「ええ、結構です。ダンジョンのお話を伺いたいだけですので」


「まあ、私達で答えられる範囲ならいいですよ、こんな嬉しい差し入れして頂いた事ですし」


 魔法使いぽいお兄さんがニコニコしながら答えてくれる。


 その後、そんな事も知らないのか? と驚かれた事が何度もあったが、どこか良家の箱入り息子とか孤児だったのかと色々都合の良い風に誤解してもらえたようだ。なんだか最後は3人とも優しい眼差しでこっちを見ていて居づらくなり、適当なとこで話を切り上げた。

 まあ、うん、良い人達だったな。


 さて、次は先程の探索者から聞いた情報を元に、壁の入口の斜向かいにある探索者協会に足を運んでみる。

 この探索者協会は半官半民といった組織で、ダンジョンに入るためには必ずこの探索者協会の会員にならなければならない。ただ、建物の中には新規会員募集センターや資料センターなどある為、会員以外でも自由に出入りでき閲覧する事が可能との事。


「どうも元いた地球と微妙に違うところがあるんだよな。埼北ってどう聞いても埼玉の事なんだよなぁ」


 探索者達との話の中で、15年前の記憶と微妙に違うところがいくつもあった。俺は一抹の不安を覚えつつ、探索者協会へと足を踏み入れるのだった。



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