第33話 晩秋

あの銀杏並木。

行き交う車。車道をはさんであの人とワタシはすれ違う。あの人と交わすものは何一つない夕暮れに向かう路。あの人ははらはらと止むことのない晩秋の停車場からバスに乗る。見知らぬ人たちの中に埋もれたまま見知らぬ街並へと運ばれてゆく。ワタシはいつも木陰からそっとバスを見送る。あの人にとってワタシも見知らぬ人の一人。

止むことのない晩秋。毎年のこと、あの日この日と幾つかの耀きとか、わだかまりとか解かれていない想いとか、ワタシの秋はやんわりと積み重なって埋もれて見えなくなる。

拾いあげた秋の一枚には、何か口にしたい言葉が記されているかと、儚い夢よりも寂しい期待。黄色い落ち葉はどれもこれも期待を抱かせる。黄色い道化師はかさこそと風に戯れて「言葉など虚しいものだよ」とかさこそと嗤って去っていく。その聲は鈍色の空へと。この路もやがて耀きを鈍らせる。でもワタシはこの路が好きなの。好きになったの。静かなほど静かなほどワタシの胸はときめいてゆく。明日に向かってときめいてゆく。あの人の通う路。ワタシの通う路。ほんとうに聴きたい聲は路の向こう。未知の……  。

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