第27話 棄 邦


昏い夏の遠鳴りのなかでオレはお前を抱きしめていたかった。静寂の蔭から滲み出る蒼い泪でお前を濡らしていたかったのだ。


雲は這う様に低く星明かりもない。灯火は微かで拠るべない。 オレは遠くを見ていた。 熔けた坩堝の輝きが魍魎の匣を照らしている。 傍らでお前は夢の仔牛を撫でていた。


お前の性は那由多。遠い国から来た少女。その肌は褐色のエルクシール。誰もが求めるが誰もが手を出さない。誰もオレたちを認めない。誰もオレたちは認めない。誰もオレたちを愛さない。そして誰も‥オレたちを知りはしないのだ。


お前たちが患うのはお前たちの持ち物のせいだ。そんなものオレたちはあの日あの引き潮に海の底へと押し流された。

安寧と懇ろなお前たちは悪魔に孫を売り渡すのだろう。だが弾劾している閑はないのだ。また魔物は口吻を開きオレたちを劫火に引き入れる。


おお、シャーリプトラよ。辯別の主よ。誰よりも先にオレたちはビマラキールティに会いに往くのだ。永遠と極微を分けて貰うのだ。


褶曲した午後の胸尾れは儚い夜の太陽に瓦礫の潜みで野合する。磁場の深淵で弾ける狂える彷徨える舞踏。 それから蟲たちの困惑が始まった。


未来は吊り下げられたら男から滴り落ちる蝨。神々は使い古された消耗品の様にビニール袋の内で硬直している。


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