第24話 作中:合法麻薬の発見

 夜中の、これは十二時を過ぎた頃だろう。自室からローザが出てきた。彼女はこの時点ではまだ生きていたのだ。周囲を窺い、誰も居ないことを確かめてからそぞろ歩きで移動し始める。どこへ向かうのかと思えば、広い屋敷の奥へ奥へと進んで、物置のような小部屋へそっと入っていった。部屋の中で彼女は雑多に詰め込まれた古い道具類のうち、衣装ダンスの小引き出しを開けて、中を探っていた。

 お目当てのものらしきを取り出し、小さなストローを使って鼻から摂取した。……よく知られた麻薬の類いだということはすぐに見て取れた。


 薄く目を開いて、クリスティーヌは術を中断した。

「……警部、館の二階奥にある物置部屋に、常用していた麻薬があるようです。もしかしたら、彼女は麻薬中毒によるショック死かも知れません。」


 ほどなく物置が調べられ、トレースの通りの麻薬が発見された。しかし、その薬は効果の抑えられたギリギリ合法のものであり、今回のようなを引き起こす可能性は低いと思われた。

 ホワイ警部は部下の報告を聞いてクリスティーヌに答えた。


「吸入器や麻薬そのものから毒物は検出出来なかったよ。また、この麻薬だけではショック死など起きないそうだ。特に他薬との競合を注意すべき成分もあるにはあるが、例の魔法薬の治験データでは問題ないということになっている。」

 捜査はすでに被害者の使用していた魔法薬に何か問題がなかったのかという視点に移りつつあった。関係者による委託殺人も念頭に置きつつ、事故の線でも調査が進んでいる。トレースの結果でも、この夜にローザの部屋へ近付いた者は誰も居なかったことが判明した。ゴーレムも動いてはいない。


「申し訳ありません、警部。私の力では昨日より前に遡ってのトレースは無理なようですわ。おまけに、各人の行動についても断片的で……」

「いや、トレースを自在に駆使出来る術者となると非常に少数だと聞くよ。負担が恐ろしく掛かるんだろう、その魔法は。」

「ええ、まぁ……」


 頭痛が起きて、こめかみを指先で押さえながらクリスティーヌはかぶりを振った。仕組みとしてはごくシンプルな術ではあるが、他人の過ごした時間をトレースするということは、口でいうほど易しいものではなかった。

 人の頭脳の処理能力を大きく上回ってしまうのがこの術なのだ。他人の二十四時間は術者の脳内でリピート、早回し、圧縮、という行程を経て、必要部分だけが編集されて意識の上に上る。クリスティーヌが先ほど瞼の裏に映しだしていた映像は、そのような過程を経た上で流れていたものだった。バックグラウンドにあたる脳内では膨大なデータ処理が行われたのだ。非常に術者を疲弊させる魔法だった。


 しかも、ということは、の中にこそ重要な場面が含まれていたというケースさえも考えねばならなかった。


 クリスティーヌは憂鬱にため息を落とした。

 今回の事件に関して、見落としがないという自信はまったく持てなかった。

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