第3話 朝霧鈴亜 18歳 彼氏以外の人って…

「…具合いでも悪い?」


 ふいに、まこちゃんが顔をのぞきこんだ。


「えっ?うっううん。全然。」


 あたし、慌てて作り笑顔。



 神様、嘘つきなあたしを許してください。



 あたしは、昨日…誕生日を迎えた。

 そして、せっかく時間を作ってくれてたまこちゃんの誘いを。


「学校の友達がね、パーティーしてくれるって…高校最後の誕生日だし、いい?」


 って…断わって、むらさんとバイクで遠出してしまってた。



 まこちゃんのことは、もちろん大好き。

 だけど…邑さんはとっても刺激敵な人で…

 佐和さわの言う「青春謳歌」が、そこにあるような気がしたりして。



「18歳、おめでとう。」


 まこちゃんが、いつもの笑顔で言ってくれた。


「ありがとう。」


 あたしも、笑顔を返す。


 今日は珍しく…夜のデート。

 とは言っても、きっと八時には送られちゃうんだけど。

 キラキラきれいな夜景。

 むらさん、今度バイクで連れて行ってくれないかな…


 …あたし、まこちゃんと一緒にいるのに、むらさんのこと考えてる。



鈴亜りあ、進路、どうなった?」


 この間から、よく聞くなあ。


「まだ決めてないよ?」


「……」


 まこちゃんは照れくさそうにポケットに手を入れて。


「これ、プレゼント。」


 って…


「…まこちゃん…」


 あたし、目を丸くしてしまった。

 だって、まこちゃんが差し出したのは…ダイアモンドの指輪。


「結婚しよう。」


「……」


 どうして?

 以前なら、嬉しくてたまんなかったはずよ?

 なのに…何?


 この………絶望感。



「あ…あの…」


「?」


 あたしは、意を決して切り出す。


「まだ…早くない?」


「…鈴亜りあ、早く結婚したいって言ってただろ?」


「そ…そうだけど…その…」


「…イヤ?」


 まこちゃんの瞳が、曇ってしまった。


「イヤじゃない。そうじゃなくて…その…」


「何。」


「ほら、まだ若いんだし、そんなに早く青春を終えることもないかな、なんて。」


「……」


「ごめんね…せっかく、言ってくれたのに…」


 上目使いでまこちゃんを見上げると。


「…いいんだ。」


 少し、寂しそうな声。

 まこちゃんは指輪を箱にしまうと。


「じゃ、これは保留。」


 って、ポケットに納めてしまった。



 まさか、まこちゃんが考えててくれたなんて。

 すごく嬉しいはずなのに…


 あたし、すごく嬉しいはずなのに…。




 * * *




「ごめん、まこちゃん。テスト前だから、友達と勉強することになっちゃって…」


「ごめんなさい!友達とコンサートに行くことになっちゃって…」


「ごめん…クラスで日帰り旅行があって…」



 あたしは、誕生日以来、まこちゃんとのデートをいろんな理由でかれこれ五回キャンセルしてしまった。

 そして、むらさんだけじゃなく…Dで知り合った男の子たちと、遊んでいる。

 佐和さわの言う通り、楽しい毎日。


 で、今日は久々…まこちゃんとのデート。

 でも…

 なんだか、つまんない。



「…考えごと?」


 まこちゃんが、静かな声で言った。


「別に。」


 あたしは、そっけない答え。


 まこちゃんのこと、嫌いになったわけじゃない。

 でも、前ほど…ときめかなくなってしまった。



「最近、忙しそうだね。」


 相変わらず、まこちゃんは静かな口調。


「まあね。」


「結局、桜花の短大に進むんだって?」


「…誰に聞いたの?」


光史こうし君。」


 ハッとして、つい眉間にしわが寄ってしまった。


「お兄ちゃんに、言ったの?」


「何。」


「あたしたちのこと。」


「ああ…言ったっていうか、バレてた。」


「……」


 あんなにも、ばらしてしまいたかったのに。

 なぜか、疎ましく感じた。



鈴亜りあ?」


 まこちゃんが、無表情になったあたしの顔を覗き込む。


「…ごめんなさい…何だか気分が悪い…」


 何だろう…

 あんなに大事だったのに。

 今は、この時間すら惜しい気がしてしまうなんて。


 あたし…もう、まこちゃんとは無理なのかな。

 そうよね…

 だって、一緒にいるのにむらさんの事考えるなんて、きっともう…



 あたしが小さく溜息を吐くと、まこちゃんは。


「…送ってく。」


 沈んだ声で、あたしを車に乗せたのよ…。

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