自我の行き着く先

 一体誰を責めたらいいのだろう。本作には邪悪な独裁者も呪いの大魔王も全く登場しない。にもかかわらずああした成行になった。かつて私の知人のそのまた知人が、『太宰治の人生を鑑みるに、走れメロスは皮肉としか思えない』と述べたことがある。私には、本作に出てくる彼女の存在自体が皮肉としか思えない。そんな思いが行き交う傑作悲劇。