異世界のプロが教える、実践!異世界転移を見破る3つの罠
シャル青井
プロローグ 探偵役の時空のおっさんは事件を発見する
『しかし行方不明になる直前の夜、マネージャーに引っ越しをしたいとの連絡があったそうなのです。これは何らかの事件に巻き込まれた可能性も』
『行方不明になった日の帰宅の際、隣人と挨拶を交わしたそうですが、以降の目撃情報もなく、部屋には靴も残されたままでした。どうもまるでつい先程までその部屋にいたかのように』
『行方がわからなくなってから既に3日。不安は高まるばかりです』
狭いワンルームのボロアパート。
垂れ流される昼のワイドショーにも目をくれず、一人の青年がタブレット端末を睨んでいる。
「うへえ、これは見れば見るほど、思ったよりも
彼の名前はイフネ・ミチヤ。
彼の仕事は異世界に迷い込みそうな人間を食い止めて引き戻すこと。
その手の界隈ではいわゆる『時空のおっさん』と呼ばれているものだ。
もっとも、最近では境界線が薄くなったのか引き戻す間もなく対象が異世界に深入りしてしまい、彼自身が異世界まで説得に赴くことも多いのであるが。
「それよりミチヤ、タイマー鳴ってるよ。貴重な貴重なカップラーメンが伸びちゃうんじゃない?」
そう声をかけるのは彼の相方兼監視役であるフェアリーのエリアリ。
一般的な人間の手のひらほどの大きさで、ラーメンの前に座り、箸を両手に持って振り回している。
しかしそんなフェアリーの言葉を無視して、イフネは今度は垂れ流されていたテレビに目を向けている。
どうやら3日前、とある巨大芸能事務所の国民的男性アイドルが失踪したらしく、今なおどこもその話題で持ちきりのようであった。
現代の日本であれ程の有名人が突如失踪するというのは相当困難なはずで、警察は事件事故両面で捜査しているが未だ進展なしだという。
だが、そんな困難な状況だからこそ、イフネには心あたりがあった。
顔をしかめ、再び手元にあったタブレットの方へと目を向けている。
「間違いなく、
テレビの顔と見比べる。
タブレットに映っているのは、次のターゲットである異世界転移者の顔だ。写真写りもあってずいぶんと雰囲気が違ってみえるが、どうにも同じ人物のようである。
つまり失踪先は、イフネの仕事先。そう、異世界。
「いいじゃない、今回の報酬、高いんでしょう?」
「まあ流石に
どうやらあの規模のアイドル事務所ともなると、こちら側の仕事に対してもツテがあるらしい。
イフネの元に持ってこられた仕事は、同じ規模の他の仕事に比べてもずいぶんと報酬額が上乗せされていた。もちろん、日本円でだ。
「断るほどの余裕、今のミチヤにあるの?」
「まあそこは
そしてその言葉を口にして、大きくため息。
B案件。
それは彼ら時空のおっさんを含めた異世界移動者たちの間でまことしやかに語られる、名前を出してはいけない黒幕の関わる転移。
その黒幕である通称『B』は、膨大な魔力を持ち、様々な世界にネットワークと張り巡らせて日々その勢力を伸ばしてる。
彼の目的は、すべての次元を自らの支配下に置くこと。
それは自らの手駒を増やすべく、異世界転移に強い適性を持つ人物をそそのかしてはチート能力を与えた上で他の世界へと転移転生させて、そこで恩を売り、戦士として作り上げて自分の手駒に組み込むのだという。
その正体は次元の狭間で実態なき意識体になった次元移動者の影とも、あらゆる邪悪の根源である竜の化身ともいわれているが、詮索するものはまずいない。
時空を行き来する者たちがその名前を出さないのは、彼に嗅ぎつけられたら間違いなく厄災がその身に降りかかることがわかっており、それを嗅ぎつけるだけのネットワークを持っていることを知っているからだ。
ゆえに、B案件の転移には極力関わりたくないというのがイフネの本心である。
実際、イフネの知人でもその『B』に迂闊に関わってしまったがために行方をくらましてしまった同業者もいた。
風の噂よればそのまま『B』の配下となったらしいが、悪の組織の尖兵として異世界中を飛び回る未来というのはあまり明るいものではない。
「とはいえ、仕事は仕事だし、なかなか
そしてイフネは、ようやく伸び切ったカップラーメンに目を向けて、仕方なくそれをすすり始めた。
「くそ、
「自業自得でしょ、あらゆる意味で」
それでもこれが彼の昼食であり、現状、これより食事が改善される見込みはない。
ようするに彼は今、仕事を選べる立場にないということであった。
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