樹上にて

 数年前、『ストックホルムでワルツを』という映画を鑑賞した。著名なジャズ歌手、故モニカ・ゼタールンド氏の伝記である。その中で、なにを犠牲にしようがジャズ歌手として大成しようとする彼女を見かねて、幼少時に木登りをしていててっぺんを目指し、枝が折れて地面に落ちたせいで死にかけた本人のエピソードを彼女の父親が語った。その時彼女はこういった。『父さんはとっくにてっぺんを目指すのを諦めているからそんな台詞を言うのよ! 私は諦めない!』……本作『スポットライトの下で』を読んでいて、そんないきさつを思い出した。『もし最終ラウンドまでたっていられたなら……俺は、自分がただのチンピラじゃなかったと証明できる』。『ロッキー』で主人公が語った台詞を地でいくようなご作品だった。