第6話 舘谷葵は趣味が広い

葵の家はごく普通の一軒家だった。


インターホンを押す。


『入りなよ』


玄関を開けて中に入る。奥のリビングからパジャマ姿の葵が現れた。


「ね、普通の家でしょ」


俺の考えを見透かしたような一言だ。くだりのプリントを渡しながら呟く。


「…普通だ」


「来なよ、上」


サクサクと階段を登っていき、目の前に現れた扉を開けて葵は俺を招き入れた。



「さて、問題です。ここは男の子の部屋?それとも女の子の部屋?」


壁には男性アイドルのポスター。


その隣には女性アイドルのポスター。


その上にはロックバンドのポスター。


その横に海を描いた風景画。


その下にはヨーロッパあたりの誰かの自画像。



「…葵の部屋だ」


「ピンポーン。ここは男の部屋でも女の部屋でもない、私の部屋だよ。的確ぅ」


両手を大きく広げて体重を壁に預ける葵。


葵は葵で、ブレてなくてなんだか安心した。


「親御さんは?」


「あれ、言ってなかったっけ?両親は海外で仕事中」


そうだったっけ。改めて部屋を見渡すと本棚には少女漫画と少年漫画。CDラックには男性アイドルグループとメタルバンド。



相変わらず多趣味だ。性別の幅がないのだから、その幅は2倍。ベッドの下を漁ればエロ本のひとつくらい出てくるかもしれないし、パソコンのフォルダには男同士の画像が保存されているかもしれない。そう考えると末恐ろしかった。



「謹慎あとどんくらいだっけ?」


「4日?…あー、謹慎明けテストじゃねーかー」


葵は愚痴りながらベッドにゴロンと横になる。俺の視線を受けてか、いたずらっぽく微笑んで自分のパジャマの首筋をつまむ。


「私と一緒にいいことしない…?」


「やめろ」


過去誰一人として葵と付き合えた物好きはいなかった。その服の下の秘部だって、誰も知らない。誰も葵の正体を知らない。さりとて、俺も例外でなく。



「ねえ、タンザニアの国旗ってどんなのだっけ?」


「どうした急に」


「いや。なんとなく気になった」


俺はため息をついて、無言で本棚から世界地図を引っ張ってきてやった。葵は申し訳なさそうだった。


「いや、そこまでするほどじゃ」


「ブチのめすぞ」


その後はなんだかんだで小中学校の卒業アルバムを見たり、世界地図を見てなんやかんや言ったりして長居してしまったのである。


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