予想外の人物でした…
「よぉ、そこにいるのは分かってるから出てこいよ」
苦笑いで岩陰に向かって話しかける。
すると、一瞬びくりと身体を震わせた気配がしたが、少しするとおそるおそるといった様子で岩陰から出てきた。
「ご、ごめんなさい。普君が宝石に吸い込まれていくのが見えて、咄嗟に服の端っこを掴んだら一緒に吸い込まれちゃったみたいで」
困ったなぁ〜と言った感じであははと空笑いを浮かべる桜衣を「やっぱりな…」とちょっと遠い顔をする。
実を言うと、裾を掴まれたような感覚はあったのだが、どうせ近くにいたリアか柚姫だろうと思い気に留めていなかったのだ。
それがまさか桜衣だとは思いもよらなかったし、戦闘中に気配がリアでも柚姫でもなくてびっくりしたし、桜衣の気配だと気づいた時は苦笑いして現実逃避した。
「代音くんって実はすごく強かったんですね」
うーわ、これって絶対「強いくせに訓練では手を抜いてたのか?」って言わるやつだわ
いや、むしろさっきの言葉の中にその意味が含まれてるよ
しばらく俺が返事をしない事にキョトンとした顔をした後、気がついたのかあわあわと慌てだした。
「ち、ちらいます!」
あまりにも慌てていたのだろう。
噛んだ。
綺麗に噛んだ。
今は耳まで真っ赤にしながら両手で顔を抑えてプルプル震えている。
まあ、たしかに箱入りお嬢様で周りから持ち上げられても謙遜しながら微笑む、お人形さんは噛んだり慌てたりした事はあまりない経験だろう。
「ごほんっ!違います。確かに練習では本気を出してなかったのかな?とは思いましたが、ここまで強かったら本気を出せなくて当たり前です」
「岩陰に隠れてたんだし、見てなかったんじゃないかな?モンスターが怖くて無我夢中で剣を振り回してたら、たまたま当たって倒せただけだよ」
誤魔化すために、優しげな頼りない声を作り出す。
学校の理事長の孫娘として蝶よ花よと育てられたであろう和ならこれで言いくるめられるだろう。
「いいえ、私はこれでも桜衣家の娘として剣道を嗜んでいますから、少しは相手の力量も把握できます。その上で、練習では本気を出してないんじゃなく出せないのだろうと判断しました。違いますか?あと、口調は楽な方にしてください、さっきまでのように話していただけた方が私も嬉しいです」
そういうと、桜衣は余裕たっぷり微笑んだ。
逆にこちらは顔が引きつってしまう。
意外も意外。
剣なんて持った事もなさそうな、ほわほわしたお嬢様が剣道をやっていたとは。
「桜衣さんって剣道やってたんですね、以外でしたー」
「く・ちょ・う」
あははは、と乾いた笑いをあげながら誤魔化そうとすると、桜衣がジト目で一音一音はっきりと発音した。
どうやら、この作った口調が気に入らないようである。
「えっと…さ、桜衣さん?」
「口調、私にも崩してもらえませんか?」
ジト目から一転。
今度は潤んだ瞳をこちらに向けてくる。
さすがにここまでされたら白旗をあげるしかなくなる。
「あー、分かったよ。これでいいか?」
すると、本当に口調を素に戻すと思わなかったのか、少しびっくりしたように、そして嬉しそうに微笑んだ。
「はい、ありがとうございます。普くん」
「はいはい。どーいたしまして」
うわぁ
予定がずれた。
まあ、いざとなれば…ね
なんて考えていたら、すぐ傍まで寄ってきていた桜衣がふいに囁いた。
「私、実は聖君より強いんですよ?」
バッと振り返ると、やはりそこには穏やかに微笑む桜衣がいて。
「はあ、食えない奴だな」
余裕たっぷりの笑みに、苦々しいため息を吐くしかなかった。
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