17話 ダンジョンに行こう


ルノリックと別れた後、慌てて集合場所に向かった。

時間に余裕を持って出たはずだったが、階段での立ち話に時間を思いのほか取られたらしい。

集合場所に行くと既にクラスメイト達が集まっていた。


「遅い!これから向かうところはいくら私達精鋭が集まっていても万が一ということもあるんだ!1人でも気の抜けた者がいては皆の命に関わるんだ!やる気がないなら置いてくぞ」


うるせぇ

大体、文句なら立ち話をおっぱじめたルノリック殿下に言って欲しい…

溜息を堪えながら、適当に謝罪しておく。


「あー、すんませんっした。ちょっとルノさまに呼び止められたもんでー」


ルノリックの名前を出しながら、文句はそちらに、と言っておく。

すると、グレンの勢いが勢いよく萎んだ。


「そ、そうか。では時間も差し迫っているし出発だ」


お前は謝らないんかーい

と心中で盛大にツッコミを入れる。

まあ、馬鹿を相手にするのも疲れるからほっとこ…


ゾロゾロと歩き出した軍団の最後尾に移動する。

移動と言っても、ノロノロと歩いていれば自然と最後尾につける。

途中、「チッ、鈍間が」とか蔑んだ目を向けられたが、気にしない。

むしろその眼差し、ご褒美です!

なんて感じにふざけているとさらに蔑んだ眼差しをちょうだいしつつ、目的のダンジョンがある村までたどり着いた。


「では、これからダンジョン探索にうつる。我々が指定したグループになり進むように、では発表する。まず、サクラゴロモサクラ・アオヤマコウキ」


「はは、結局このメンバーかよ」


「代わり映えしねぇな!」


「はあ、ちゃんと言うこと聞きなさいよね」


「よろしくね」


などと言いながら、和気藹々としている4人と指定されたグループを作りながら、友達が居たら喜び、正直お荷物が居たら舌打ちとともに歓迎している。


いや、お前らわかりやすすぎるだろ


「リアちゃーん!そんなお荷物と一緒じゃなくてこっち来なーい?」

「そーそー、俺らならリアちゃんの事守ってあげられるしぃ?」

「いくらレベルカンストってても女の子なんだしモンスターとか怖いでしょ?」


ここぞとばかりに、格好付けてリアを自チームに誘うモブどもがど直球に俺をお荷物呼ばわりする。

むしろ潔さすら感じる。


「ふん、妾は守られるほど弱くないわ」


ハッと鼻で笑ってモブを一蹴して俺の組まされているチームに戻る。


「失礼な奴らめ、妾が怖がるわけがなかろうに」


ぶつくさと文句を言いながら、腕を組む。


「よーし、ここからはチームごとに探索を始めてもらう。1チーム1人騎士を付けるから安心して探索するように、では始め!」


一本道をチームで進んでいく。

道中たまにゴブリンやスライムが出てくるだけであまり難なく進んだ。

途中、ゴブリンを切り倒した際に出た血に顔色を青くさせたり、えづいたりしていた生徒も居たが、徐々に徐々に慣れてきたのか攻撃していた。

流血沙汰の事件などニュースやサスペンスの中の出来事だ、と言えるくらい平和な日本から来ているのだ、最初はこんなもんだろう。


かくいう俺も最初はゴブリン倒すのにめちゃくちゃ時間かかってたし。

慣れるまではそんなもんだろう。


「お、良いのがあったな。みんな一回止まれ」


1時間くらい歩いたところで、先頭を行くクレイブがある宝石の前で止まった。

薄暗い岩のむき出しな洞窟に不釣り合いな、綺麗なうっすらと輝く宝石。

あからさまに罠だとわかる代物だ。

どうせ、このようなトラップがダンジョンのあちらこちらにあるから惹かれても不用意に触るな、とか注意換気するんだろうな〜なんて思いながら言葉の続きを待つ。


「この宝石は一見ただの綺麗な石だが、触ると、一度でここではない、どこか別の世界に転移するトラップだ。一見すると何も変わらないがダンジョンに出てくるモンスターの強さが段違いで強くなる。興味を惹かれても迂闊に触るなよ〜」


当たり前な事をドヤ顔で言われましても…

こんな薄暗い洞窟で明らかに罠と分かる代物触る奴がいるか?


「ちなみに、君たちの前勇者は罠だと説明したにもらかかわらずこの宝石に触って裏層に飛ばされてあわやパーティー全滅になりかけた、なんて事もあったなあ」


はあ?


いやいや待て待て。

この宝石が罠だと説明されたにもかかわらず当時片思いしていた相手に宝石を渡したくて採取しようとして裏層に飛ばされたのはお前だろうが!

あわや死にかけてるとこに俺たちが駆けつけたんだろうが!

うーわー、でたよ人のせい

こいつこうやって俺に罪なすりつけてたのかよ。

罪と恥を人になすりつけんなよ、こいつ本当に騎士かよ


「え⁉︎俺たちより前に勇者がいたんですか?」


「知らなかった〜」


「なら、私達を召喚しないで経験者に頼めば良かったのに…」


などなど、クラス中からやんややんやと言われてから、やらかしたことに気がついたクレイブは、ううん、と言葉を濁しながらも続けた。


「言っていなかったかな?すまんすまん。前勇者だが、強大な力を手に入れた事で傲慢になり陰で色々と悪い事をしていて処罰されたんだ。私達も彼を弟や無二の仲間だと思っていたからショックが大きくてね、この話をするのは禁忌みたいな雰囲気なんだ。だから説明していなかったんだろうね」


つらつらと語られる虚言に、ツッコミを入れていると、ふとクレイブと目があった。

俺の後ろにいる騎士に目配せをしてから、またもう一度目を合わせている。

訝しく思っていると、背中に強い衝撃を感じた。

肩口あたりを力一杯に突き飛ばされた。

クレイブの虚言に無意識にイライラしていたのだろう、気がつくのが遅れた。

どんどん体が傾いていく。

手をつく場所を確認するために、壁に視線を向けると、視線の先ではあの宝石が光っていた。


あ、やばい触る…


そう思った時にはすでに指先が触れていた。

引き込まれる感覚を指先から全身にかけて感じる。


「うわああ!」


悲鳴を聞いたクラスメイトや騎士がこちらを振り向く。


「「アマネ!」」


リアと柚姫が叫ぶ声が聞こえるが、内臓がふわりと浮く感覚がして返事が出来ない。

口から出る言葉は、益体の無い言葉未満のものだけで…

そんな状況の中で、吸い込まれる瞬間見たのは、薄らと笑っているクレイブだった。




視界が暗転する。

右も左も分からない。

数秒か数分か分からない時間が経つと

ただただ闇が広がる空間に放り出された。

周りを見渡すと、先程までいたダンジョンと寸分違わず同じ場所。


ただ、違うのは……


先程まで、そこに居たはずのクラスメイトも騎士も居ない事だった。










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