10話 嵐
衝撃のステータス発表会の後。
リアはクレイブに平身低頭されてどっかへ連れていかれた。
俺たちは指示があるまでは城内にある自室で待機していてほしいと言われた。
それにしてもあんの馬鹿。
これでは早々に勇者業からフェードアウトしようと思っていたのが台無しだ。
多分今頃俺の計画が頓挫してしまったのをほくそ笑んでいることだろう。
全く…
「全く…どうしたものか」
ベッドでゴロゴロしながら考えていると不意に控えめなノックの音が聞こえてきた。
リアかと思ったがこんなに早く話が終わるわけがないだろうし、第1あいつならこんな控えめなノックなんてするはずがない。
じゃあ、セラか?
いいや、あいつもこんなに控えめなノックなんてする性格はしていない。
なら一体誰が…?
そんなことを考えていたら応えるのに何拍か遅れた。
そうこうしているうちに痺れを切らしたのかもう一度、今度は強めに扉が叩かれた。
「どうぞ」
扉に向かって歩き出しながらノックに応える。
「あ、お邪魔します」
「代音君、お邪魔するわ」
「よお、邪魔するぜ〜」
「突然悪いな代音。少しいいか?」
開いたドアからゾロゾロと入ってくる4人組に思わず驚きドアに向かっていた足を止めてしまう。
それほどに今目の前にいる人物の登場に驚いたのだ。
「……どうかしたの?青山くん達が僕に話しかけてくるなんて珍しいね」
瞬時に猫を幾重にも重ねて被る。
外面よく人が良さそうな雰囲気をまとい青山たちを見据える。
「ああ、実はさっきまで俺たちもクレイブさん達の話し合いに参加していてね、俺たちとヒマリアさんでパーティーを組んでほしいと言われていてね。でもヒマリアさんは…」
先程の話し合いの場でリアの事で何か困った事があったのか青山は言いづらそうに一度口を閉じ、なんと言ったら角が立たないのか考えているのかなかなか口が再び開かない。
それを見て痺れを切らしたのか、青山の隣にいる滝川が代わりに口を開いた。
「確か、『妾は普と柚姫以外の者とパーティーを組む意思は全くこれっぽっちも小指の甘皮ほどもない』って言ってたな」
なるほど、話が見えてきた。
先程のステータス発表会で抜きん出た能力だかレベルだかを発現させたらしいこの4人組とリアでパーティーを組ませて、魔族を倒させようとしたのだろう。
しかし、リアが俺と柚姫以外とはパーティーを組むのを断った。
なら、世界平和の為とか謳ってこの4人組にリアからのパーティー申請を俺に断らせるか辞退するように促す役を仰せつかったのか。
「そういうわけで、ヒマリアさんは断ってた。しかし、たかだか個人の感情だけで救えるはずの命が救えないなんて話がまかり通るなんて事があって良い訳がない!ここは代音からヒマリアさんに断りを入れるべきだと思うんだ、人を守るすごい力がある人を代音の我儘で縛り付けるのは違うだろう!」
いや、話が見えてはいたがまた思っていたのとはだいぶ違う方に飛躍したな。
青山たちとのパーティー申請を断ったのはリアであって、何も俺が断らせたわけではない。
しかし、どうやら青山の頭の中では俺という自己中な奴が自身の我が身可愛さにリアという最大戦力を縛り付けていると思っている、というか決めつけている。
「そ、そうです!代音くんも私たちと一緒にパーティーを組みませんか?」
青山の言葉を遮り、間を取りなそうとしたのは衣桜和(ころもざくら なごみ)だった。
良い案を思いついたと両手をパンッと合わせてニコニコしている。
「そうね、確かにそれならユースティルさんも納得してくれるかしら」
女子2人はそれでどうかな?といった顔をしてこちらを見ている。
一方の青山はといえば、とっても不本意そうな顔をしながら
「本来なら断るべきだと思うが、和の優しさに免じて一緒にパーティーを組むことを許してやるよ」
と、それはそれは上から目線で宣った。
普段からリア以外には丁寧な口調で接していて落ち着いた雰囲気を醸し出すことを意識している普だが、本来の彼は喜怒哀楽がはっきりとしていて、ともすれば子供っぽいと言われる事も多かった。
お気楽で正義感が強い…
それが代音普だ。
そんな、普段は努めて冷静に振舞っている彼にこんな態度を取った。
もはや、青山聖は天音にとって丁寧に接するべきクラスメイトではなくなった。
「悪いけど、俺はお前らのパーティーに参加する気は無い。これ以上話がないなら出て行ってくれないか」
はっきりきっぱりと断り、扉に向かって指差した。
「はあ⁈俺たちがこんなに、お前なんかに頭下げてお願いしてるのに断るのか?」
青山の中では、あれは頭を下げている事になるらしい。
あんなに高圧的で上から目線でものを言っておいて、頭を下げた?
どんな感性してんだこいつ?
「お前の中では、譲歩したつもりなんだろうが、俺にとっちゃそもそも根本が違うんだよ、だから俺はお前らのパーティーには入らないし勇者業をするつもりもない、分かったらさっさと出て行ってくれ」
呆れ半分、苛立ち半分でさらに詰め寄りながら出口の方へ誘導する。
すると、拳を握りしめブルブルと震わせながら語気を強めた青山がさらに怒声を浴びせてきた。
「お前は!この国の人達が可哀想だとは思わないのか⁈異世界から来た俺たちには特別な力があると、国王が言っていた!なら俺達の特別な力で魔族に脅かされているこの国の人達を救うべきだ!それとも何か?お前は自分が助かれば後の人はどうでもいいとでも言うつもりなのか!」
ヒートアップした青山は一息に言い募ると、肩で息をしながら顔を怒りに赤く染めて俺を睨んできた。
青山の物言いにカチンと来た俺はほっとけば良いものをつい言い返してしまった。
「そもそも、お前に俺の何が分かるんだよ?日本にいた時は全然話しかけても来なかった奴が都合のいい時だけ押しかけてきてあーすべきこーすべきだと自分の理想をベラベラと…」
「なっ、んだと!」
今までこんなにキレてる青山を見た事ないのか桜衣がびっくりした顔をしてプルプル震えていた。
滝川と天笠はやれやれと言った顔をしている事から知っているらしい。
知っているなら、俺としては早々に青山を連れて帰って欲しいところなのだが…
天笠を見ると、はぁーと長いため息をついてパンパンと手を叩きながら間に入ってきてくれた。
あれだけで察したのか、すごいなーなどと思っていると、事態の収拾をつけ始めた。
「ストップ。聖落ち着きなさい、代音君の言う通りだわ。これ以上話してもお互いにいい事はないわ。頭を冷やしてまた話し合いをしましょう。代音くんもそれでいいかしら?」
青山を出口までおしやりながらこちらを振り向き聞いてくる天笠に大変だなーなどと思いながら返事を口にする。
「別に構わない」
話をするくらいなら構わない。
ただ、俺の意思は変わらないが…
「ありがとう、聖が迷惑かけてごめんなさいね」
と言い天笠と青山は部屋から出て行った。
「代音くん!聖君が失礼しました。そうですよね、全然関わりもしなかった相手から急にこんな事言われて、断るのは当然の事ですよね。無理を言ってすいませんでした。」
その2人に追従しながら、扉を出る直前にこちらに向き直り頭を下げながら謝罪をする桜衣に逆にこちらが罪悪感を感じてしまう。
「気にしてないから大丈夫だ」
すると、下げていた頭を上げてこちらを見ながらふわりと微笑んだ。
「ありがとうございます。代音くんは優しいんですね」
ふふっと笑いながら、前の2人を追うように歩き出した桜衣をついつい見入ってしまいと、最後に滝川が
「邪魔したな」
と言い出て行った。
パタンと扉が閉まると同時。
「嵐が去った…」
と、呟いた独り言はあまりにも疲れきっていて。
静まり返った部屋で虚しく響いた。
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