第7話 壊滅の危機


 正確な数字は不明だが、おそらく蜂起している暴徒は四十名を上回るだろう。未だに混乱は収拾されていない。

 銀林の反撃演説から活発に風紀委員会が動き出したが、如何せん人数が違う。

 教師も風紀委員会も手がまわらない。チョコ回収もだんだん前島・後藤だけでは手が回らなくなり、俺と凛ノ助も動いた。

 チョコ回収にもう少し人数を割きたかったが、情報漏洩を防ぐためこの四人しか防空壕の場所を知らせてはいない。

 俺と凛ノ助は暴徒を見つけ、チョコを回収し防空壕に戻るを繰り返す。

「計画以上に暴徒が多いな」

 校庭でたまたま前島と会って、お互い少しだけ息をついた。このままなら一人一個のチョコレートという目標は十分達成可能だろう。

「共栄党の回収と護衛の人員がもう少し欲しい」

 前島が頷いた。

「応援を呼ぼう。剣道部は?」

「それでいこう」

 その時だった。場違いなチャイム。嫌な予感がした。銀林のことだ、必ず何か大胆なことを仕掛けてくる。


「生徒会の臨時放送です。今回はこの騒ぎについて一般女子生徒の意見を伺いたいと思います」

 一瞬、俺の頭が真っ白になった。何を放送する気だ。

「今回、共栄党が騒ぎを起こしていますが、共栄党に対しての素直な意見をお願いします」

 進行役と思われる男子生徒が尋ねる。

女子A 「共栄党とかそういうことやってるからモテないんだよねえ」

女子B 「てか共栄党って何? ネーミングセンスださすぎ……」

女子C 「ないわー。いろんな意味でないわー」

女子A 「私らが作ってきたチョコを奪うとかIQ二桁達してるの? お猿さんな      の?」

女子C 「共栄党みたいなクソダサ非モテ行為に走った人間の名前は記憶しとかな     きゃね」


「お前ら耳を防げ!! 放送を聞くな! 聞くんじゃない」

 思わず俺は校庭であらん限りに叫んだ。

 が、俺の忠告は一歩、遅かった。

「ぐああぁぁぁ」「や、やめろぉぉ」

 俺がいる校庭へと校舎から苦悶の声が漏れ出てくる。共栄党に参加していた暴徒たちが悶え苦しみ初めているんだろう。

「何だよ、確かに『チョコレート共栄党』ってなんだよ……」

「ネーミングもうちょっと何とかなんなかったのかよ……」

 いかん、暴徒たちが冷静さを取り戻してきた。

 勢いを失えば、終わりだ。

 ついに暴徒の一人が口にする。

「お、俺は共栄党なんてやってねえし、名前だっさいし」

 何度も言うんじゃねえ!!

 名付けたの俺だからちょっと傷つく……うるせ、いいだろ、別に、かっこいいだろ「共栄党」……!

 こういうことをやるのは銀林か? いいや違う。こういう陰湿なやり口は銀林らしくない。

 一人だけ心当たりがある。

 こういうことを行うのは黒崎琴音。何かと頭脳戦を挑んでくる一人の女子生徒。

 そして厄介なことにおそらく、頭脳戦だけ見れば俺よりよっぽどキレ者だ。

 その黒崎が生徒会に味方している。

 このままでは、負ける……。予想ではなく実感が、俺の胸に訪れた。

 奴らに、崇高な目標を達成する前に敗北することになる……!!

  


「共栄党の暴徒ども、続々と戦意を喪失しています!!」

 生徒会執行室にはスマホを通じて、次々と作戦成功を告げる報告が入ってきた。

「間髪をいれるな。奴らを捕縛して、職員室ブタ箱へぶち込め」

 銀林の号令が飛ぶと十三名の風紀委員の

「「「「了解アイサー」」」」

 が返ってきた。

 これより生徒会執行部は追撃に移った。逃げ惑う共栄党員たちを連行し、戦果の拡大に勤しむ。

「共栄党を徹底的に潰す。これは勝てるぞ」

 主犯である凛ノ助、マキト両名も未だ現在位置を掴めず取り逃がしてはいるが、それも時間の問題だった。所詮は「共栄党」というよく分からない組織に属していたのだ。団結もクソもない。

「さすがだな、黒崎。まともにやってたら鎮圧に一時間はかかった」

「いえいえ、それほどでも」

 口では謙遜していたが、黒崎の顔は「ドッやァァァァ」というものであった。

「そういえば総指揮を銀林君が執ってるんですか? 飯尾先輩は?」

「飯尾先輩は前線に出たよ。あの人は元々、後方指揮官というより一番槍に向いている人だからな」

 まあ、だからこそこの戦いは俺らの勝ちだよ、と銀林は言った。

 野犬より鼻の利く飯尾先輩のことだ、主犯連中二名の捕縛にそうは時間はかからない、と銀林は踏んでいた。



「だめだ、皆、チョコを捨てて風紀委員会に投降してるぞ、おいッ」

 一旦、例の防空壕に共栄党四名が退避し、作戦の立て直しを行う会議の第一声は前島の悲痛な声だった。

「どうするんだよ、マキト!! この計画、失敗するぞ。お前立案者だろーが、お前が何とかしろよ!!」

「うるっせ、わかってる、今、考えてるんだよ」」

 ちっくしょう。この計画の肝はいかに、暴動を起こし、その状態を長くキープできるか。全てはそこにかかっている。計画では、少なくとも同時に二十人の暴動が起これば三十分は鎮圧出来ないとふんでいた。

 が、それがまだ十分とたたないうちにこの有様だ。今回の計画は限りなく失敗に傾いている。

 この作戦の肝を潰された以上、限りなく敗北は近づいている。

「うろたえるな、お前ら」

 今まで黙っていた凛ノ助が口を開いた。

「けど、どうすんだよ、凛ノ助」

 後藤が問う。

「心配するな、お前らには俺がついている。まだ負けと決まった訳ではない」

 凛ノ助が大見得を切った刹那。

「いいや、お前らの負けだな」

 その声は四人のうちの誰の声でも無かった。

 声の持ち主は防空壕の入り口に立っていた。

 飯尾透。

 敗北は目の前まで迫っている。

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