最終章 卒業に向けて

22話 高校三年生


―――


――四月


 それから数ヶ月が過ぎ、私達も晴れて三年生。

 クラス替えもなかったからクラスメイトも二年の時と同じ面子だし、担任も変わらないしで最高♪


「い~や~だ~!私は二組がいいの!誰か交換して~!」

 あ…ここに約一名問題児が……


「桜……落ち着いて!しょうがないでしょ?ねっ?」

「でもでも、私だって最後の一年くらい楽しく過ごしたいもん!」

 桜が駄々っ子のように首を振る。私は額に手を当ててため息をついた。

 と、そこへ高崎先生登場。


「大神さん……そんなに言われると僕も少し傷つくんですけど……」

「あ!先生!先生からも言って下さいよ。あのハゲ校長に!」

「な、何をですか?」

 桜の剣幕に後ずさりする先生。一方桜は鼻息荒くして詰めよっていった。


「私を三年二組にしてくれって!」

「そ…それはちょっとむ…り……」

「えー!何で~?」

「と、とにかく教室の中へ入りましょう。」

「嫌です!」

「こら!高崎先生の言う事聞けよ、桜。」

「藤堂先生!」

 天の助け!……と思ったのも束の間。


「言う事聞かないと今度の日曜日のデートなしにするぞー!」

「……はーい。良い子にしま~す。」

 リア充か!……っつうか普通の声量でそんなギリギリトークするなよ!


 私と高崎先生の二人は慌てて辺りを見回したが、入学式と始業式が終わったばかりの時間のせいで廊下は結構煩かった。そのお陰で誰も今の会話を聞いた人はいなかったみたい。ホッと一息ついた時、高崎先生がすぐ隣に来た気配がしたから顔を上げた。


「今年も一年よろしくお願いしますね。」

「こちらこそ。」

「またHR委員長に抜擢してもいいですか?」

「へ?」

 驚いて聞き返すと先生がふふっと笑った。

 くそっ……何か負けた気分。あ、そうだ!


「やってもいいですけど……」

「けど?」

「公私混同はなるべくしないで下さいね?」

 バチンッ!とウインクする。途端先生が固まった。


 あ、あれ?変だったかな……

 この間桜に教えてもらった通りにやったんだけど……


「せ、先生?」

「もう……」

「もう?」

「もう一度やってくれませんか!?さっきは不意打ちだったんでよく見れなかったんですが、今度はじっくり見たいので。さぁ!(心の)準備はできてます。どうぞ!」

「は……はぁ~!?」

 みるみる内に顔が真っ赤になっていく。頭から湯気が出そうだ。


「千尋声でかいよ。」

「そうだぞ。近所迷惑だ。」

 あんた達が言うな!


「先生……」

「はい?」

「教室入りません?チャイム鳴りますよ。」

「ホントだ。さあ皆さん!HR始まりますよ~!席について下さ~い。」

 時計を指差すと慌てたように廊下にいた面々に声をかける。そしてさっきまでの変なテンションは何処へやら、涼しい顔で教室に入っていった。


「ほら、私達も入るよ。」

「あれ?藤堂先生は?」

「もう隣の教室に入ってったよ。」

「あ、そう……」

 こっちもついさっきまで騒いでたのに何もなかった顔をしてしれっと言ってくる。睨んでもどこ吹く風。


「でも何か……」

「ん?」

「ううん、何でもない。」

 一人言が出てしまって慌てて口を閉じた。


 でも何か、こういう雰囲気嫌いじゃないな。みんなが笑顔でいられてとても嬉しい。


 隣のクラスの藤堂先生、親友の桜。大好きな高崎先生。そして私……

 この四人で過ごす高校最後の一年。前途多難な予感しかしないけど、とても楽しい時間になる事間違いなし!


 二度と戻らない青春を思いっ切り謳歌したいと、この時私はそう思った。




―――


「そういえばさ~、千尋って進路どうするの?」

「え、何?いきなり……」

「うちらそういう話全然した事ないじゃん?どうなのかなぁって思って。」

 三年生になって二ヶ月くらい経ったある日のお昼休み、桜が急に言い出したのは進路の話だった。


 言われてみたらそういう進路の事とか将来の話とかした事なかった。まぁ、去年はそれどころじゃなかったんだけど(笑)

 でもそろそろ考えなきゃいけない時期だもんね。進路かぁ~……漠然とこうなりたいっていう夢はあるけど。


「何かないの?将来の夢。」

「ん~……笑わない?」

「笑わないよ。何、何?」

 食いついてくる桜に後ずさりしながら小さい声で答えた。


「ほいくし……さん…」

「え?聞こえない。何、何、何?」

「保育士さん!」

「へぇー、千尋が保育士さん?いがい~」

 目を丸くして驚いてる。そんなに意外かな……


「何で?理由は?」

 今日はやけにぐいぐいくるなぁ~と思いながらも口を開いた。

「あのね、幼稚園の時の担任の先生がね、凄く良い先生だったの。優しくて笑顔が素敵で美人さんで、私憧れてた。高崎先生に会うまでその人以上の教師に会った事なかったんだ。」

「さりげなく惚気るね。」

「へへっ、いいじゃん。たまには(笑)それでね、幼稚園を卒園して小学校に入ると当然その先生とは会えなくなっちゃう訳じゃん?」

「当たり前だよね。」

「でもその当たり前がまだ小さかった私には理解できなかった。何で会えないんだろう?どうしていないんだろう?っていつも思ってた。」

「純粋だね。」

 桜が笑う。『そうかな、馬鹿なだけだよ。』と私は苦笑した。


「で、馬鹿なりに考えた。そうだ!自分も幼稚園の先生か保育園の先生になれば、その先生に会えるかも知れないってね。」

「あはは!千尋らしいね。」

「それが小三。その内それが本当になりたい職業になっていって、最近ではちょっと真剣に考えてる。」

「そうなんだ~。じゃあ進学だ。」

「うん。短大志望。」

「そっか、そっか。ちゃんと考えてんだね。」

「桜は?」

「私?私は就職しようかな、と。」

「えぇぇぇーー!!」

 桜の言葉に驚いて思わず立ち上がった。椅子が凄い勢いで後ろに転がっていく。


「何で!?桜の頭だったら結構良い大学行けるのに!」

「だって特に夢とかないし、勉強だって本当はそんなに好きじゃないし。何もやりたい事のない私が入るより本当に入りたい人が入った方が大学側としても喜ぶんじゃない?」

「そ、そう……」

 やっぱり頭の良い人の考え方は良くわからん……


「で?どういう職種を選ぶの?」

「んー、事務系かな。」

「そっか。じゃあこれからは目指す道が違っちゃうのか。何か急に寂しくなっちゃったな。桜と離れるなら卒業したくなくなった……」

「何言ってんの!卒業しないと先生とラブラブできないんだぞ!」

「桜……」

 自信満々に何を言う……


「確か来週に三者面談あるよね。急に進路の話したのってこれを思い出したから?」

「そうそう。千尋にドキドキするの?って聞こうと思って。」

「何で私がドキドキするの?」

「だって千尋のお母さんと高崎先生が会うんでしょ?想像するとドキドキしない?」

「…………」

 一瞬想像してみる。そして……


「ヤバい!ドキドキする!」

「あはは!千尋ってば最高ー!」

「ちょっと!からかわないでよ、もう!」

 腹を抱えて爆笑する桜の頭を軽く小突く。それでも収まらないから不貞腐れる事にした。


 今日は一日無視してやる!……そう決めた。




―――


 これで私達はそれぞれ違う道を歩む為に一歩足を踏み出すけれど、卒業しても何年、何十年経っても親友でいようね、桜――?



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