3話 友達の好きな人


―――


――次の日


 朝、いつもより早く来てしまった。どうしよう(汗)

 高崎先生は毎日この時間に教室にいるらしい(情報元はよくわかんない)けど、それに合わせてか無意識の内に早起きして何故か教室のドアの前にいる。


「入ろっかな、どうしよっかな。」

「何してんの?千尋。」

「あわわわ……桜!」

 変な動きをしていたら後ろから桜が声をかけてきた。


「どうしたの?こんな早く……珍しいね。」

「そ、そっちこそどうしたの?」

「あ、その…ん~千尋ならいっか。いつか話すつもりだったし。…実は……」

「実は?」

 しばらくモジモジしていた桜だったが、意を決したように顔を上げてこう言った。


「実は…最近私、早く来て先生を待ってたんだ。」

「先生?」

 え?先生って、もしかして高崎先生の事…?あれ?何だか……


「それって…まさか……」

「うん。藤堂先生。」

「藤堂…先生?って二組の担任の?」

「そう。」

「何だ…良かった……」

「ん?その言葉、どういう事かな?」

「ううん!……何でもないです。」

 疑ってるよ~……何か薄目開けてこっち見てる。

 でも何で私、高崎先生じゃないって聞いた時安心したんだろう……?


「まぁいいや。それより中入ろ?」

「あ、うん…そうだね。」

 私達が中に入ると教室にはまだ誰の姿もなかった。


「あれ?先生は……」

「先生?高崎先生ならもう職員室に行ったんじゃない?私ちょうどスレ違ったから。」

「ふ~ん……」

(何だ…変に気遣って損した。)

 そんな事思いながら自分の席に座る。すると同じように自分の席に座った桜が身を乗り出して思いがけない事を言った。



「ねぇ、千尋。お願いがあるんだけど……」

「お願い?」

「藤堂先生の事、協力して!もうわかったと思うけど、私藤堂先生の事…その、す、好きなんだ。」

「へぇ~」

「何、その『へぇ~』って気の抜けた返事は!」

「ひっ!ご…ごめん……」

 慣れない早起きをしたせいで突然眠気に襲われ、いい加減な返事をしちゃった……

 可愛い顔を般若のように変化させた親友の顔を見ながら、椅子ごと後ずさった。


 私の親友大神桜は私と違い頭が良く、いつも学年のトップ10の成績を維持している。

 顔も可愛くて小柄でスタイルも良く、声もアニメの声優さんばりに可愛らしい。

 まぁ要するに、私とは正反対っていう感じ。自分で言ってて悲しいけど。

 でも一つだけ欠点というか、ウィークポイントがある。

 それは怒った時の顔が超絶恐い事……

 綺麗な人ほど怒ると恐いって良く言うけど、その通りだ。


「聞いてんの?千尋!」

「は、はい!聞いてます!」

「もう一回言うよ?藤堂先生の事協力して。ね?お願い。」

 ニコッ♪と音がつきそうな笑顔で微笑む。でも目が笑ってない……


「うん。わかった。他ならぬ桜の頼みだもんね。」

 知らず棒読みになってしまった。ヤバいって一瞬思ったけど、ラッキーな事に桜は気づいてなかった。密かにため息が出た。


「ありがとう!さすが私の親友。」

「おだてても何も出ないわよ。」

「あはは!」

 とまぁこんな感じで元に戻った桜と喋っていると、突如ドアが開いて誰かが入ってきた。


「藤堂先生!」

「おぉ、お前ら早いなぁ。珍しい。話し声が聞こえたからこんな早く誰が来てるのかと思って来てみたら。明日は雪が降るかもな。」

「ひどーい……」

 とか何とか言って顔は嬉しそうだぞ、桜。


 藤堂先生は隣のクラスの担任だが地学の先生でもあり、私達のクラスも教えてもらっているのだ。


「さーて、私はお邪魔みたいなので退散するね。」

 何となく空気を読んだ私は桜に耳打ちすると、教室を出て行った。

「え?ちょっと待って……」

「ん?どうした?」

「いえ…何でもないんです。」


(千尋…!……でもありがとう!)




―――


 桜と藤堂先生を教室に残してきた私は、廊下をぶらぶら歩いていた。

 まだ登校時間には早い為、当然のように誰もいない。


「朝早く来ても楽しい事なんてないな~。何が早起きは三文の得よ!」

「あれ?風見さんじゃないですか。」

「あ、高崎先生!」

 やっぱりさっきの取り消し。早起きは三文……どころじゃない。何万文の得!……ん?どうしてそう思うんだろう……

 朝から先生に会えて私、ウキウキしてる?


「どうしたんですか?風見さんがこんなに早く来るなんて……。明日は雷が鳴るか槍が降るかも知れませんね。」

「先生酷い……私だってたまには早起きくらいします!」

 そう言って泣きマネをした。っていうか何気にさっきの藤堂先生より酷くない……?


「え?あ、その…すみません。言い過ぎました……」

 先生ってば慌ててる。私は手で顔を覆いながら見られないように舌を出した。


「…なぁ~んて、嘘!」

「あ!騙したんですね!」

「ごめんなさ~い」

 笑いながら手を合わせると、先生も笑顔を見せた。


 ドキッ!あ、あれ?何で心臓が跳ねるんだ……?

 もしかして私病気?うわー、まだ17才なのに初恋もまだなのに~~!


「風見さん?」

「へ?」

「どうしたんですか?百面相してましたよ。」

「い、いえ…何でもないですよ?」

「そうですか。……あ、そうだ!風見さんに頼もうと思っていた仕事があったんですが、ついでですので今伝えてもいいですか?」

「え?仕事?それは例のHR委員長としての仕事ですか?」

「はい。」

「えー……」

 仕事と聞いて急にテンションが下がる。何が早起きは三文の得よ!(本日二回目)


「もう……今度は何ですか?」

「それはですね……」

 誰もいないのに急に小声になる先生を不思議に思いながらも、耳を傾けた。



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