第2話「お調子者と勉強」

なんでこうなった? 


 黙々と現代文の問題を解くお調子者の顔を眺めながらそんな事を考える。そんな俺とお調子者はどこにいるかと言うと自分達の教室である。


 事の始まりは、HRが終わり、俺がいつもの様に帰ろうとすると、ガシッと腕を突然掴まれた。


 どうしたのだろうと振り向くと、女子のような綺麗な顔が目の前にあった。

 コイツか……。と予想はしていたものの、つい溜息をつきたくなる。


「何?」 


「勉強教えてくれ!」


「勉強?」


 教えるほど俺は頭が良いわけではないし、近々テストがある訳ではない。それに、普段の、コイツの行動を見ていても勉強している素振りはなかったはずだ。



 不思議に思って聞き返してみると、来週の土日に友人達と勉強をしようと約束したらしいが……どうやら、勉強会と称してクラスメイトの女子も何人か誘ったらしい。要は、女子とお近づきになりたいと言うのが本音。



 「女子目的ねー。ふーん。」とワザと冷たい目でそいつの顔を見ると、全くこちらの反応を気にする素振りもなく話を続けてきた。



 「でさ、その勉強会で、他の奴らより出来る俺を見せたいんだよ! 頼む、この通りだ!」


 いや、既に今のその発言が格好良くない。

まあ、この間からずっと彼女が欲しい!と騒いでいた男が急に、理由もなく勉強にひたむきになるわけ無いか。


・・・・・・


という訳で、今に至る。

今は、「この作者の意図〜?」

とブツブツ言いながらイケメンというより美人と言った方がいい顔を歪ませていた。


 因みに、俺が勝手にお調子者と呼んでるコイツの本名は、望月賢也(もちづき けんや) 

賢いという文字を入れたのは、親の望みだろうか? と心の中でイジってみる。

 コイツが、解いているのは問題は、さっき、俺がスマホで調べたものだ。


 さっきから、ずっと同じ問で止まっている。俺はというと、暇なので本を読んでいた。ふと、賢也が俺の顔を見てきた。

 なんだ?と首を傾げると


「俺さ……天才かもしれない」


「何で?」


「この問題が、なに言ってるかさっぱり分からん」


「だから?」


「つまり、俺は作者と思考が違うから、答えが分からないんだ!」


 ハッハッハとワザとらしく笑うコイツの名前は賢也でも、天才でもなくバカ也だ。


「そうだな。俺もそう思う。」と適当に返せば、お前今、馬鹿にしただろ! と騒ぎ出した。



「でもさ、ぶっちゃけこの小説難しくね?」


「あぁ、その小説な……、小一レベル」

「え…」

と言ったまま硬直したそいつの笑みは引き攣っていた。 


 冗談でネットから探し出した小一の国語のテスト問題をかれこれ一時間以上悩むとは思わなかった。



…………

後から聞いた話だが、本来国語を行うはずだった勉強会は、急遽数学に変わったらしい。

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