第4話 日本史の授業


入学式のあとの日程は自己紹介やら事務的な報告、クラブ活動視察などに丸一日時間を割いた。


そして今日からいよいよ本格的に授業が始まる。高校生活のスタートである。


今日の一時間目は日本史である。


ご存知の通り高校の日本史は縄文時代から近代に遡る形式をとる。




通学路を通って校門を入ったメグは朝から鼻息が荒い。


「おはようさん、メグ!昨日はよう寝たか?」


「あ、秀(シュウ)!おはよう!さあ、今日から授業開始ね。つまりいよいよ私たちの任務の開始でもあるわよ。一時間目の日本史の授業は早速私が修正を加えるわよ、楽しみね!」


「お手柔らかに頼みまっせ、あんさんはすぐになんでも後先考えずにバラすさかい、ホンマかなわんわ」


「ああ、ぼくも今日の授業はハラハラ覚悟なんだナ」

いつの間に来ていたのであろうか長身の保倉星(セイ)もあとからやってきた。




1時間目 日本史


「えー、私が今日から君達に日本史を教える、中居だ。スマップの中居君と同じ字だから覚えやすいだろう?実家は神戸市内でお寺をやっているから肝試しにチャレンジしたいやつは是非うちに来てくれ。凄いのが出るぞ!」


歴史の先生の中居が自己紹介を続ける。


先輩たちいわく、中居先生の授業は常識にとらわれずさらに壮大なロマンを語るので多くの生徒に人気があるという。


しかしロマンが暴走してあまりにも荒唐無稽な話しを展開するくせがあるので先生方からはあまり評価されていないらしい。


「えー、最初に授業とは全く関係ないが全員に質問をする。地球誕生から今までの時間を仮に東京タワーの高さだとすると我々人類の出現から現代までははどのくらいの高さだと思うか?わかるやついるか?」


「面白い質問ね」メグが微笑む。


「地球誕生?」


「東京タワー?」


「50億年が333mか、人類出現は約400万年前・・・」

クラス全員が一斉に紙に書いて考え出すがなかなか手が挙がらない。


「おい、桐山言ってみろ」

中居はクラス委員になった桐山を指した。


「は、はい。計算では30センチくらいかなと」


「概ね正解だ。いいか、人類出現から今までの期間の長さは東京タワーのてっぺんに本を一冊乗っけた厚みと同じだと思え。続いてその上に10円硬貨を乗せた厚みがイエス・キリスト出現以降の2000年間だ、明治維新からの150年間の厚みはさらにその上に切手を一枚乗せたくらいだ」


「へー」


「たったそれっぽっちか」


「薄―!」


「そうだ、これから私の日本史ではこの10円硬貨一枚の厚みを勉強することになる。しかし10円硬貨一枚の薄さの中での科学の進歩はどうだ?たかだか打製石器から磨製石器までの変化だけで人類は200万年以上の時間をかけている。ところがこの2000年間の人類の飛躍の変化率は車、飛行機、宇宙船、パソコンなどを見てもどう考えてもアンバランスだといわざるを得ない」


「確かにそうですね。もちろん科学力は加速度がつくからその分を差し引いて考えても納得のいかないスピード感ですね」

さきほどの桐山が発言した。


「だからゼカリア・シッチンをはじめとするちょっとイカれた科学者たちは必ずそこに人類に対しての何者かの『入知恵』があったと主張するのもわかるだろう?」


「宇宙人とかですか?」

どっとクラスが沸く。


「まさかー?」


「そう、宇宙人かどうかはわからないがその作業はまさに神の所業に近いな。ちなみにゼカリア・シッチンはアヌンナキという宇宙人の関与が20万年前から10万年前の間にあったのではと考えている。」


「やっぱ宇宙人か、じゃあ俺たちはそのアヌンナキとかいう宇宙人の末裔ってこと?」


「もし彼のその説が正しければそうなるな。しかも古代の人々はその当時に見たものを神話や土器の中に表現してなんとか後世に伝えようと涙ぐましい努力をしたのだ」


「例えばどんなモノですか?」

メグが元気よく手を挙げて尋ねた。


「例えば、縄文土器だな。人を象った土偶を含む縄文土器はその後に出てきた弥生式土器よりデザインが斬新で技術レベルも高かった。普通は後から出た文化のほうがレベルが高くなるのだが縄文と弥生では逆転しているんだ」


そう言って中居は縄文時代の土偶を映した大きな写真を全員に見せた。

そこには宇宙服らしきものを着て膝を抱えて座っている人物の土偶があった。


「一般に縄文時代とは15000年前から3000年前の間の期間と言われているがそんな古い時代の作品がこれだ。青森県で出土した合掌土偶と言う。信じられるか?現代の我々が普通に見てこれを何と思う?思ったままを言ってみろ」


「宇宙服」


「宇宙に帰りたいと思う宇宙人」


「妖怪」


「ウルトラマン」


笑い声とともに色々な意見が飛び交う。


すでに生徒全員が中居マジックにかかったようだ。


教室を見回して不敵な笑いを見せた中居はこう続けた。


「だろう?どう見ても宇宙人もしくは人間以外の生物を模しているよな。しかしだ!」ここで中居の声が一段と大きくなった。


「この合掌土偶の説明には『出産の無事を祈願する妊婦』だと!現在の古代研究者たちの発想とはこんなもんなんだ。まったく馬鹿馬鹿しいとはこのことだ!」


「そんな痩せた妊婦は居ませんよ」


「宇宙服の説明にはなってません」


「デザイン凝り過ぎー!」


さまざまな生徒たちの反応に応えるように

「だろう?今のみんなの反応が『まともな反応』だ。もう一度先生は声を大にして言いたい。縄文人は見たものをそのまま忠実に模して土偶にした。そして何とかして最大限の持てる技術を駆使して後世の我々に伝えようとした!」


「この先生いけるわね?」

メグは秀と星に目配せした。


「いけまんな」


「候補なんだナ」


2人とも親指を立てて答える。


「もう一枚写真を見てくれ。同じく青森県で出土した遮光器土偶と呼ばれるものだ。いいから見たままの感想を言ってみろ」


「宇宙人」


「カエル」


「水中メガネ」


「ロボット」


「ミニオン」


「うんうん」と中居は生徒の意見に満足そうにうなずいている。


「しかしこの土偶の説明はこうだ。『農耕社会において豊穣を祈る神』だとさ。神を表現するのにここまで凝ったデザインをする必要があるか?元になるサンプルがないと不可能だと先生は思うのだが・・・・」

中居エンジンがレッドゾーンに入ってきたようである。


「あら、あれは私が初期に地球に来たときに着ていた宇宙服よ。あまりにもダサいし重いからすぐに別のに変えたけど。とにかくあの宇宙服、汗かいたらかゆくてもかけないのよね。イライラしたわ。でもこうして見るとなつかしいわね」


「あ、あのデザインはぼくがしたんだナ。地球の重力と大気圧の差を埋めるために苦労したんだナ。あとメグが『太陽光線が眩しいから何とかして!』てうるさく言うからゴーグルもつけたんだナ」


「あんたね、恩着せがましく言うけどもっとデザインセンス磨くべきよ!」


「ホンマ、ダサいでんな」


「こら、そこの3人!静かにしろ!この壮大なロマンがお前たちにはわからないのか?」


「わかりまーす!ただデザインがダサいって話しをしてたんでーす」

メグが答える。


「デザインがダサい?現代っ子のお前が言うのもわからんでもないが考えてもみろ、これは縄文時代のモノだぞ。一生懸命デザインを考えた古代の人に感動と感謝だ!わかったな」


「はーい!作った人に感謝だってさ。星あ・り・が・と・ね」


「えー、次回の授業はフィールドワークだ。これは古くからの本校のしきたりで日本史の最初の授業ではこの校区内に伝わる有名な「オトメ伝説」についての3ヶ所の古墳めぐりを行うからそのつもりでいてくれ。以上!」


「え、今先生なんて言ったの?」


「次回はワイらの家にくるそうやで、課外授業で」


「ぼくらの家の話をしてたんだナ」



キーンコーンカンコン♬


終礼のチャイムが鳴った。あっという間の45分間の授業が終わった。


「起立!礼!」


挨拶が終わるや否やメグは廊下に出た中居の前に立ちはだかった。


「先生!最高!」


「あ、ありがとう、褒められて悪い気はしないが君は縄文時代が好きなのか?」


「当たり前でしよ、彼らは私たちが最初に教えた生徒たちなんだから!」


「私たちって?」


「カ・タ・カ・ム・ナよ。きっと先生なら分かるよね!」


「カタカムナ、君がカタカムナを知ってるとは嬉しいかぎりだな。神戸の六甲山系にあったとされる超古代文明だろ。学生のころからカタカムナ文明に惹かれてずっと研究をしていたので勿論知ってるよ」


「ピンポーン、大正解!」


「しかし君とカタカムナの関係は?」


「はい、今日はここまで!次回の課外授業を楽しみにしてます!」


「ああ、次回は古墳めぐりだ。結構歩くから覚悟しておけよ」


にっこり笑って親指を立てるメグは中居を廊下に残したまま校庭のほうに走り去って行った。


「はあー!予想通りにヒヤヒヤしたんだナ」


「ホンマ!のっけから飛ばし過ぎやろ!いきなりカタカムナ名乗りよってからに」


中居とメグのやりとりを聞いていた星(セイ)と秀(シユウ)のボヤきが続くのであった。

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