第26話 漂流8日目 8月25日



全員が一様に目がくぼんでいてあきらかに栄養失調がみてとれるようになりました。


それはそうです、毎日わずかな食料で過酷なカッターを漕ぐ重労働をさせているから当然です。


ただスコールによる水分の補給ができているのだけが唯一の救いでした。


水分の補給問題でこの日小林大尉がわたしに言いました


「松永、海面の40m下は真水があるらしいからそれを採取できるかどうか考えてみよ」


この言葉に漁師の息子だった隊員が

「私も父に聞いたことがあります。深い水は真水に近いと言っていました。」


この意見で私はカッター内に3本あった空のサイダーのビンにひもをつけて40mたらして引き上げようとしました。


ゆっくりとビンを引き上げるひもの先を全員が見つめて

「本当に真水があればいいなあ」


「毎日スコールに頼らなくてもよくなる」


「これで腹いっぱい水が飲めるなあ」


しかし結局作戦は失敗におわり真水を得ることはできませんでした。


結局2本のサイダーのビンを失うことになりましたが何か新しいことに挑戦することは全員に期待を与えることがわかったのです。


この日の昼間に誰かがつぶやきました。


「島が見えた!」


この声に全員が大喜びで外を見回したがはるか向こうの波の中に休息中のカモメが一羽上下しているのが見えただけです。


「あー、わしはカモメになりたい。カモメになれば飛んで日本に帰れるのに」


落胆した声のあとは全員に長い沈黙が続いたのでした。


この日、別のカッター内で急病人が発生しました。


その兵隊は高熱が出たようで体力が減る回漕はさせずにゆっくり船底にて休むように指示を出して様子を見ることにしました。

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