加速してゆく

 壊れてゆく。蝕まれてゆく。溶けてゆく。崩れてゆく。

 私だった何かが、少しずつ、けれども確実に、私でない何かになってゆく。

 近づかないで。踏み入らないで。認識しないで。記憶しないで。

 お願いだから、もう、忘れて。


 たった一人で匿名自助。

「死にたい」

 不思議と心が軽くなって、もう一度、

「しにたい」

 また少し、心が軽くなった。

 死にたいが加速してゆく。


 立体交差の上に立って、眼下を走る車たちを眺めていた。

 今この手すりを乗り越えて、

 決意を固めて、

 一歩足を踏み出して、

 重力に敗北して、

 固い地面に頭をぶつけて、

 走る車に体を轢かれて、

 ぐちゃぐちゃになって、

 血に染まって、

 この命を絶つことができたのなら、

 私は楽になれるだろうか。

 手すりを掴んだ。トラックが一台、向こうの方から走ってきた。

 鼓動が加速してゆく。

 

 けれど私は死ななかった。

 死にたくないのかそれとも、

 まだ生きたいのか。


 ひどい気分だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る