ー始ー


(そういえばあいつ妙なこと言ってたな…)


集は男がプリンや派遣と言っていた事を思い出す。続いてお前がいる場所ではないという事も。


「さっぱり分からねえよ!腹減ったらまたスーパー行くからな!」


大の字に寝て、誰もいないが大声で宣言する。すると突然聞き覚えのある声が…


「お前忘れもン!」


顔に少しばかり重たい物が散らばる。小銭だ。

ー誰かから投げられた?ー

すぐに起き上がり後ろを向くと集は息を飲み、恐怖を覚えた。そこには先ほど出会った男が仁王立ちしていたのだ。鍵をかけていたはず。いや、追っても来ていなかったのに近場ではあるが家の場所まで分かっていたのか。


「なんでお前俺んちにいるんだよ!鍵はどうした!!」


集は目を大きく開けいかにも驚いている表情で大声で聞き返す。


「扉?ぶっ壊した。」


「おい!!」


座布団を投げて返すがキャッチされる。壊したと言えど音は聴こえなかったのだが…本当かどうか疑い、すぐに玄関へ走る。そこには粉々に砕かれた扉をがあった…。


「おま!ふっざけんなよマジで!」


「別に扉なんて世の中いくつでもあるだろ減るもんじゃねえよクソガキ。」


「意味不明な事いってんじゃねえぞ!」


腕で抵抗をするが男に頭を抑えられ近づけずに終わる。まるで祖父と子供だ。


「マジで弁償しろ!!マジで!」


集は顔を怒りで赤くして訴える。


「調子こいてんじゃねぇぞクソガキ!!いきなり出て来て何様だてめえは!!」


「いきなり出てきたのはお前だろ!!あとここ俺んちだわ!!」


大声で張り合いになっている。


「あ??ここお前んちなの?報告うけてねえぞお姫さん…とうの昔にここは文明を残して…いやそもそも無人になったはずじゃ…」


「報告?文明?お前何言ってんだよ。お前と初めて会ってから何も話がつかめねえんだよ。いきなり誰もいなくなるし。」


「なるほどな。お前は新しいタイプだな。」


「だから何の話だって。」


「いいか少年よく聞け。俺の名前はギャンブルダンプ。ダンプでいい。おめー何も知らなそうでここでは生きて行けなさそうだ。無力だし、知恵もなさそうだし。」


「名前は分かったからディスってんなよ。俺は明星 集。シュウでいい。」


ディスられるのは先生にいつも怒られているので慣れている。ひらりと悪口をかわして名前を言う。


「わりぃな。俺はこの世界の外から来た。俺はアシュラターム産まれの金貸しだ。今はロイ・ビスクで姫さんの護衛にもついてる。」


「聞いたこともねえ場所だし外から来たって異世界とかそんなラノベ的なあれ?」


「ラノベって何だよ。俺はこの世界を調査するためにここへ来た。うちの街では案外有名な場所だぜ。全属性の魔術書を取り揃えた魔導図書室や消えたクレオパトラの棺があるとかないとか言われててな。」


「いや俺は今までここ生きて来て聞いたこともねえけど…」


「お前は同じ場所にいるが違う所へ来た。んーそうだな。同じ場所同じ景色だがこの世界は違うんだよ。分からねえと思うが…とりあえずま、ようこそ異 世 界へ集。」


「異 世 界…お前のいるところも異世界…俺のいる所も同じだけど異世界…」


「集くんチビってる?」


すぐさま大人げなく煽るダンプ


「別にビビってねえし」


口を尖らせすぐに対処する。今回の声は幼い子から聞くとすれば怖さを感じさせないだろう。


「ここには力のある奴がちらほら出現しているらしい。」


「というとどんな」


「でっけえ蝶とか。」


「どのくらい?」


「ざっと1km」


「1km!?でかすぎだろそれで蜜とか吸えてんのかよ…」


「蜜とかの報告は受けてねえが、他にも戦闘機を見た。それと巨大な黒い怪獣も見たそうな…」


「何だよそれ…力がどうとかって話してたけどお前もそれなりのバケモノなんだろ?」


「俺はまぁそうだな。条件が色々あるが…」


「使い勝手悪そうだけど、暇だから何でも聞いてやるぜ。」


「俺は金貸しやっててよ、アシュラ・タームってとこは貧困地域だった。俺は幼い頃に両親を亡くして少年期は毎日借金取りに終われ鼻を折られたり血だらけになってたわ。」


「お前すっげえ壮絶な人生送ってンのな…」


「そうでもねえよ。あの地域では俺の方がマシだ。連れていかれる子もいたし、俺の友達は三人くらい居なくなった。」


「え…連れてかれて何に…」


「金を返せなかったんだ。だから…」


「だから…?」


「ゴブリンやドラゴンを退治するためにおびき寄せるための餌になったりならなかったり。」


集は心の底から怖かった。あまりにも恐ろしい話で地雷を踏んでしまったのでは無いかと考えてしまう…。


「まぁ、その話はいい。」


「(良くねえよ。友達だろ。ブラック過ぎるわ。)」


「俺はどうしても餌にはなりたくねえ。だが小さかった俺に抗うすべはなかった。自警騎士に勝てるわけがない。しかし俺は貧困地域の子供は近づいたらいけないと言われている街へたどり着いた。それが王国街ロイ・ビスク。またの名をロイヤル・ビスケット。その街はー」


「ちょっと待って後半ふざけたの?」


「何がだよ」


「いや、いきなりビスケットとかお菓子の話って…」


「いや王国のお偉いさんがな、菓子が好きなんだと。」


「あ、うん…」


集は最初ふざけているのではと考えてしまったが、ダンプは平気で説明をするので本当なのでは。いや、何でもありなのだと考えてしまった。


「そしたら外壁の隙間から女性が手を出して俺を誘った。何も分からずに近寄ったらあの女は家庭レベルの属性書を渡してきた。」


「属性書?」


「あぁ。魔法の使い方が書かれた本と言えば分かるか。その魔法の最下級だ。その女は[私はどんなに努力しても報われませんでしたが、あなたたちを助けるいいえ、謝りたい。]と言って去った。相手は俺達貧困地域の人間を馬鹿にしているであろう王国街の奴であることは確かだ。」


「ふーん。地域同士で複雑なのな。俺はそういうの見たことないけどな」


「属性書の中に記載されていたものは」


ダンプは指を出す


「火」


人差し指からロウソクの火より一回り大きい火が現れる。


「水」


中指から小さな水の渦が現れる


「雷」


薬指にパシパシと音を立てて青い静電気が現れる。


「すげー・・・」


思わず集は見とれてしまう。アニメの世界に入ったかのようだった。


「この三種類だった。ろくに教育を受けていない俺は属性書を読むために殴られながらも色んな人へ聞いて周った。」


集はそれを聞くと、生き残るために必死で勉強すらさせてもらえない小さな子供を頭に連想した。自分の今までの行いが恥ずかしく感じてしまう。建前ではなく、心の底から。


「やっと解読してオムレツをつくれるくらいには成長した。俺は火と水で商売を始めた。コップ一杯分の水と寒さをしのぐ火のついた枝を提供してな。」


「かっけぇ…」


小さな商売ながらダンプの努力やキャリアに憧れてしまう。


「ただメンタルは弱かった。コップ一杯も買えない親子。母の病を治そうと身体を売って稼ぐも温める火も、水も買えない。どんなに可愛くても俺達貧困地域の奴に払われる金なんてそんなもんだ…何度も苦しそうな顔を見た。俺の商売はコストがかからないと言えど長くは続かなかった。」


集は貧困地域の実態を聞いて泣きそうになるが堪えて真剣に聞き続けるのだった。

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