授業四 朝チュン

 チュンチュン。チュンチュン。

 外からは鳥のさえずりが聞こえる。

 その心地良い音色で本能を抑さえ続けて疲労していた脳が動き出す。


 ああ、これが朝チュンか。

 なんか想像していたのとは違うな。

 結局解放されることは無く、完徹だ。

 きっと俺は今すごく血走った目をしていることだろう。

 一晩中青姉からする甘い香りと柔らかい感触の誘惑に耐え続けたんだ。

 ギンギンになったのが目で済んだだけ頑張っただろ?

 というわけで気持ち良さそうに眠っている青姉をそのギンギンになっている目で睨んでやります。

 まったく人の気も知らないですぅすぅと恨めしい人だ。

 「んんっ……。あれぇ、鈴?」

 じーっと睨んでいると、青姉が目を覚ました。

 「おはよう」

 とりあえず挨拶をする。

 「うん。おはよう」

 青姉は抱きついていた手をほどいて挨拶を返してくれた。

 や、やっと解放された。これで体が動かせる。

 「んー」

 身動きが取れず硬直していた体を伸ばす。

 あー気持ちいい。よし、それじゃあ殺される前に避難するか!

 「じゃあ俺は部屋に戻るから」

 「ちょっと待て」

 なにごともなかったかのように部屋から出ようと思ったのに、体を起こした青姉に服の袖を掴まれてしまう。

 「なぁ、鈴」

 「な、なに?」

 低く冷たい声で名前を呼ばれる。

 そのせいで緊張し、俺の返事は上擦った声になった。

 「これ、どういう状況?」

 「こ、これはその青姉のせいだよ」

 お、俺はなにも悪くない。だ、だから堂々していればいいんだ!

 「私のせい?」

 「ひぃっ!」

 眉間に皺を寄せてギロリと睨みつけてくる青姉は威圧感が半端じゃなかった。

 怖すぎてつい小さく悲鳴あげちゃったよ。

 「私のせいってどういうことだよ?」

 「び、ビールを飲んで酔った青姉が急に眠ったから、俺がこのベッドまで運んだんだけど、いきなり青姉にベッドの中へ引き摺り込まれてずっと離して貰えなかったんだよ」

 嘘を言う理由もないので俺は正直に今の状況に至った経緯を説明する。

 「……なるほど」

 「ね、寝てる青姉にはなにもしてないからね! だ、だから怒らないで!」

 「うーん」

 青姉は顎に手を当ててなにかを考えている。どうやって俺をボコボコにするか考えているんじゃ……。

 「た、確かに。うっすらだけど覚えてる」

 どうやら記憶を遡っていたらしい。

 青姉の頬が少し赤らんでいる。自分が晒した醜態を思い出して恥ずかしかったんだろうな。

 「……ご、ごめん」

 青姉は弱々しく小声で謝る。

 「う、うん」

 あまりの反省ぶりに、俺は軽口を言うことも出来ず、ただただ頷いた。

 「「……」」

 お互いに目を合わせられず、黙り込む。

 き、気まずい。

 夜の間にすでにすり減った忍耐力ではもう耐えられそうにない。

 「そ、そうだ。お、俺、一睡もしてないんだった。い、今から寝るよ」

 「ほ、ホント仕方ないやつだな。す、少しだけだぞ」

 驚くほど棒読みな会話だ。文字に起こしたら(棒読み)って書かれてしまいそうだった。

 「わ、わかった。少しだけにするよ。そ、それじゃあ俺は自分の部屋で寝て来るね」

 「あ、ああ、おやすみ」

 「おやすみ」

 俺達は早朝にも関わらず就寝の挨拶交わす。

 そして、俺は言葉通り、部屋を出て自室へ向かった。 


 「……はぁ」

 自室に入り深く息を吐く。

 昨日は色々ありすぎて疲れた。

 一人になって緊張の糸が解けたのか、急激な眠気に襲われる。

 俺は抗うことなく睡魔を受け入れ、ベッドへと倒れ込む。


 「青姉が先生かぁ……」

 小学校の頃以来会えていなかった初恋の人に再会したかと思えば、その人が俺専属の先生になる。

 「ふふっ、本当、これなんてエロゲだよ……」

 俺は笑って呟き、眠りに落ちた。

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