第24話 灯台下暗し……そんでズッキューン?!





「満足しまちたか、グラちゃん?」


「ぎぇぷ」


 慈愛の籠った目でグラトルにご飯を与えている姉魔王ラストラと……


「暗いよぉ、狭いよぉ、ヌルヌルするよぉ……シクシクシク……」


 お仕置きでウツボカズラっぽい植物に囚われている妹魔王インヴィス


 そして……


「あの~」


「どうしたの渉さん?」


 蜘蛛の糸でグルグル巻きにされたまま放置されている俺。










 何故こんな状況になったかというと……


「じゃあ死んで」


「ちょっ?!

 お姉さん落ち着いて?!」


 インヴィスがぎゅっとベアハッグされてピクピクするようになったころ、とうとうラストラの殺意がこちらに向いた。


 その時俺は蜘蛛の糸インヴィスの所為で動くことが出来ずに絶体絶命?!


 ラストラは崩れ落ちるインヴィスをウツボカズラっぽい植物に放り込み、ドレスの袖から棘付きの蔓を何本もウネウネとさせながら俺に近づいてきた。


「違う?!

 誤解だ!!

 俺は妹さんを攫ってないですから!!」


「……そうじゃないのよ?

 分からない?

 貴方は私の……最愛の弟を殺したのよ?」


 うひゃん?!

 この人マジでアルテに似ているため、どうしても病みアルテ(※ 2話参照)を思い出してしまう。

 ……いや、よりいろいろと成長している分、なんかこっちの方が怖いんですけど?!!


「じゃなくて?!

 グラトル死んでないから!!」


「……」


 あ、おメメがパッチリ開いた……もの凄く……ヤバいです……


「ホントホント!!

 マジで生きているんだって!!?」


 ラストラが出している蔓がグネグネと重なり合って、デカい丸鋸みたいになったぜ!


 ギュイイイイイイィィィィィン


 って、もの凄い音がしている……


「グラちゃん、グラちゃん!!

 ちょっと来てくれないかな?!」


 隣の部屋で気絶しているビスチェの看病ごっこをしているグラトルを思いっきり呼ぶ。


 すると俺の頭上に、どういう原理か黒い穴が空いた。


「ぐるう?」


 そこからひょこっと出てきて「どしたの?」って感じで首をかしげるグラトル。


「後ろ、後ろ!!」


「ぐぅ?

 ぐらあああっ?!」


 いきなり見ると非常に心臓に悪いラストラを見て、グラトルが俺を盾にして背中に隠れた。


「ぐっ!

 ぐるうるるるううるる!!

 ぐらぐらっ?!

 ぐっ、ぐっ、ぐらああああっ!!!?」


 おい!

 何このヤバい女!!

 お前なんて時に呼び出してんの?!

 あんなん絶対無理なんですけど!!!?


 という感じの事をぐるぐる言いながら、グラトルは必死に俺の頭をペチペチ叩く。


「イヤあれお前の姉貴だから!!」


 ぎょっとしてラストラを見るグラトル。

 ラストラはグラトルをくわっと目を見開いてガン見している。


「がうがうっぐるぅう?!」


 違うっス!?

 俺あんな女の人知らないっス!!


 みたいなことを言って、グラトルは首をフルフルしている。


「ぐ……グラトル……なの?」


「ぐるっ?!」


 人違いです?!


 と言っているらしい。


「そう……違うの……」


「あ?!」

「がう?!」


 折角光が戻っていた眼が、急速に光が消えていき、手に持つ?丸鋸は、聞くだけで身の危険を感じさせるようなヤバい音を出している。


「ぐらっ!!」


 お久しぶりです姉上!!


 いち早く危険を察知したグラトルは、そんな感じの事を言いながら、普段は四足歩行?にも拘らず、何故か後ろ足で立って敬礼している。


「グラトルっ?!」


 目に涙をためながらグラトルを抱きしめるラストラ、そしてやはり放置される俺……









 そして冒頭に戻る。


「そろそろこの体勢がしんどくて、ほどいては頂けませんかね?」


「あらあら、ごめんなさい。

 でも私じゃ出来ないの」


 ラストラが横を向いたので、俺もその先を見る。


「お姉ちゃん……ごめんなさい……ぐすっ……」


 食虫植物ウツボカズラっぽい植物の中で、十分反省しているようなインヴィスが居た。


「ヴィス、あの糸を消してあげて?」


 ニョキっといった感じで、インヴィスの顔だけ出た。


「……これでいい?」


 パラパラと粒子になる蜘蛛の糸、ようやく俺は自由になった。


「反省しているの?」


「うん、ごめんなさい……」


「分かりました。

 私を吹き飛ばして隠れていたことを許します」


 そして、インヴィスの事を許したみたいだ。

 これで姉妹仲良くめでたしめでたし。


「でも……」


 ん?


「何でグラトルが元に戻ったことを黙っていたの?」


 ふえぇぇ……部屋中に冷気が吹き荒れる……どうやらまだ終わっていなかったようだ。

 俺はこの後、ヴィスが言っていた陰湿なお仕置きというのを見せつけられた。





「だ、黙っていたわけじゃないもん!?」


「でも隠れ続けてたわよね?

 もっと早く言ってくれていたら、私ももっとグラトルと触れ合えたのに……

 本当にいけない子なんだから、ふふふっ、このこのぉ~」


「えあ”っ、ひゃ、ひゃめてぇ」


 姉がオイタをした妹の頬をつついている。

 先ほどのセリフとこのシチュを合わせると、とても仲のいい姉妹の風景が見られる……そう、フィクションならば!!


 だが現実は……


「え、エゲツねぇ……」


 確かにラストラは指でインヴィスの頬をつついているが、どう見ても人差し指の第2関節くらいまで、頬肉が口内にメリ込んでいる。

 インヴィスはその所為で口を閉じることも出来ずに、痛みに耐えている。


 試しに自分の頬をつついてみたが、第一関節の時点でギブアップだった……お、女の子の頬は良く伸びるんだなぁ(白目)。


「ふぇ、ひゃ……あぁぁ……」


 しばらく頬をぐりぐりしていると、ラストラが何かに気付いた。


「あらあら、涎を垂らしちゃってまぁ……拭き拭きしましょうねぇ?

 あら?

 ダメよヴィス、女の子なんだから身だしなみに気を付けなさい?」


 そして、ピンセットの様なものを取り出し。


「はい、お姉ちゃんがキレイにしてあげますからね?」


「やめっ、許してお姉ちゃん!

 あああああああああああ……」


 ラストラは容赦なくとあるモノをプチプチと引き抜いていき、インヴィスは顔からいろいろな液体を出していく……

 そんな地獄絵図を見せつけられている俺とグラトルは、部屋の隅で抱き合って震えていた。


 それと彼女インヴィスの名誉のために行っておくが、彼女は現代日本のイケてる女子並みに容姿に気を遣っていた。

 それはこちらがドン引きするほどの時間を使って、早朝から身支度していたのだ。



 ラストラの言う身だしなみはとても完璧な女の子だったということを証言しておく。

 だから……これはもう……陰湿なんてレベルじゃねぇ?!!

 ここまでエグイことを出来るのか……

 人類と魔王との感覚のギャップが身に染みたぜ……








「ぁ……ぁぇ……ぁっ、ぁっ……」


 絵面だけならどう見ても事後です。

 本当にありがとうございました。


 確かに陰湿かつ、激痛も与えた上に、外見上に全くケガ(メッチャヌルヌルしてるけど……)はないが、心に致命傷を負ってもおかしくないと思う。

 特に女の子からしたら……


「それじゃあグラちゃん、もう遅いしいお姉ちゃんと一緒に寝んねしましょう?」


「ぐらっ!」


 仰せのままに姉上!

 そんな感じでまたしても即、敬礼のポーズをとるグラトル。


 こんな状態の妹を放置して、なんと恐ろしい姉であろうか?!





「それじゃあ姉弟きょうだい水入らずでどうぞ!

 俺は別の部屋で寝ますので!

 勿論インヴィスさんとは別の部屋ですので!!」


「それではお言葉に甘えさせていただきます。

 渉さん、グラトルを救ってくれて本当にありがとう」


 本当に心から感謝してくれているのだろう。


「いえいえ、それでは」


 でも先ほどの地獄絵図を作った女性であることは間違いなく、俺は即座にインヴィスを抱きかかえてビスチェの横に寝かせて、その部屋にあったソファーに寝転んで夢の世界に逃げ込んだたびだった







 翌日の朝……


「渉ちゃん……見た?」


 インヴィスが死んだ魚のような目でそう問いかけてきた。

 (見た目)小さな女の子がそんな目をしてはいけないと思う……だから安心させるために、あの時の事を記憶の奥にしまい込むことにした。


「何も見てないよ。

 それに可愛い女の子に鼻毛なんてあるわげぇっ?!」


 とても強烈な腹パンを食らう羽目になった。

 因みに10から先は覚えていない……





 二度寝(物理)から覚めて、昼前くらいに全員で集まって会議することになった。


「さて、次の目的地だが……」


 どこがいいかな?


「渉ちゃん、早めに謝った方がよかったんじゃない?」

 

「イヤだよ!

 メッチャ怖いもん!」


 もしキャロルに見つかったとしたら……そう思うと身震いする。


「キャロルってこの女の子かしら?」


 と、なんか水晶みたいなのをラストラが取り出し、そこに映像が流れる。


「これは討伐軍?」


「そうよ。

 これは貴方たちがグラトルと戦ったときの映像よ。

 私にしか声は聞こえないけど、この先頭に居る女の子がキャロルと呼ばれているわね」


「間違いない。

 暴力聖女キャロルだ」


「その呼び方は酷くない?

 今度キャロルちゃんに会ったら報告しようかしら?」


「ビスチェさん、何が欲しいんだ?

 出来る限り要求をのむのでやめてくださいマジで!?」


「この間の魔法で出したアイスってやつがまた食べたいわ」


 彼女の言う魔法というのは、アルテにこの世界に来る時にもらった料理魔法の事だろう。

 この間、描写の無いところで孤児院へ持っていった料理を出した魔法だ。

 

 だが、この魔法の使い方というのは、最初は誰でも勘違いする。


 過去に俺が食べたモノがリスト化され、空中に浮かんだタッチパネルで選んぶ。

 もしくは、俺が想像した料理が有無を言わさず目の前に現れる……と最初は俺も思っていたさ……


 でも実際は、俺がタッチパネルで選んだ料理(デザート含む)は、実はアルテが不思議空間で受信しており、俺が拠点に帰った時に、まさかのアルテの手作りとして食卓に並ぶのだ?!


 この間は作ってもらったのを収納魔法に入れていたにすぎない……


 そう……つまり、料理魔法を使うということは、厄介な女神アルテと会わなければいけないのだ?!



「先方の都合もありますので、もう少し待っていただけますか?」


「……仕方ないわね」


 よし!

 これでまだしばらく会わなくて済むな……問題の先送りというのは、社会でも必要とされるものなのだよ。





 閑話休題。


「今この娘はノワールという国に入ったところね」


 俺達は水晶を覗き込む。


「あ、これはあかんやつですわ」


 誰からともなくつぶやいた。


 そこには完全フル装備の女の子がしてはダメなさついのこもった目をしたキャロルが居た。


「ワタル……」


「あきまへんビスチェはん!?

 あんなんの前に出ただけでワイ、殺されてしまいますわ!!!」


 何故か関西弁になりつつも必死になる。

 何に対して必死になっているのかは俺自身分からないけど……


 とりあえず、このままヴィーナス方向に逃げるか……


「……いや違う……?」


 俺は周りを見る。


『?』


 皆突然俺に見られて首をかしげている。


「なあ、ラストラ……ラストラの能力で人の認識をされないようにすることって出来る?」


「ええ、簡単よ?」


 後はインヴィスもいる。


「よし、一度マンボーの街に戻るか!」


「?! 大丈夫なのワタル?」


 ああ、ラストラの力で俺だと認識されないように出来るし、万が一認識されたとしてもインヴィスから誤解を解いてくれるという言質は取ってある。

 それに潜伏先こじいんにもあてがあるしな……


「だから頼むよ二人とも?」


「ええ、分かったわ」


「私もいいよ」


 しかし、一度インヴィスは裏切っているからな……一応釘を刺す。


「頼むぜインヴィス?

 仮に牢屋に入れられたとしたら、俺は拠点に帰る。

 すると、俺がいなくなることで、この世界とグラトルの接続が切れて、グラトルも精霊界に強制帰還する。

 そして、俺はそんな奴のいるところには戻ってこないから、もう二度とグラトルとも会うことは出来なくなるからな?」


「?!

 そ、それはだめっ!!

 きちんと誤解を解くから!!」


(もう二度とグラちゃんと離れたくない!!

 それに私の所為でグラちゃんと会えなくなったら、お姉ちゃんがどんな暴走をするか……っ?!)


「グラトル、これからはずっと一緒よ」


「ぐらっ」


 俺と魔王姉弟の利害は一致した。

 特に互いに裏切れば、酷いことになる俺とインヴィスの結束はかたく、ガシッと握手した。


「……」


 ビスチェがしら~ッとした目でこっちを見ていたが、俺は気にしない!


「じゃあ、私の蟲に乗って……」


「いや、それには及ばない。

 俺の転移魔法を使う」


 一度行ったことのある所ならば、魔力を使って飛んでいけるという代物だ。


「という訳で、孤児院へのお土産を買って、村に挨拶してから出発だ!」


 と、予定を話す俺にビスチェが問う。


「すぐに向かわないの?」


「……時間を掛ければ、キャロルがもっと聖教国から離れてくれるだろう?」


「……」


 こちらを見るビスチェの唇が何とも言えない形になって沈黙する。

 プルンとしていて思わず触りたくなるなぁ~とか雑念を抱いていたら、蹴られた。















 はい、という訳でマンボーに転移してきました!

 準備をしている間に、特に何もトラブルはなかったので、無駄な描写は省いています!!


 と、誰にする訳でもない言い訳を心の中でして、俺はまず孤児院へ向かう。

 一応認識阻害をラストラにかけてもらってから、イリアさんに会いに行く。

 彼女にまで幼女誘拐犯という認識をされていたらさすがにへこむし……


 そんなことを考えながら、目的地に到着すると、彼女は孤児院の周りを掃除していた。




「あら?

 ワタルさん、お久しぶりですね?」


 あれぇ?

 即行でバレたぞ?


「え、ええ……お久しぶりです。

 あ、これ子供たちにどうぞ……」


「まあ、ありがとうございます。

 あの子たちも喜びますわ!」


 すると、子どもたちも顔を出し、マナなどの少し大きい子がお菓子を運んでいった。

 

「……そ、それにしてもよく私だと分かりましたね?」


「??」


 イリアさんは何のこと?

 といった感じで首を傾げている。


「事情がありまして特殊なスキルを使って、誰も私だと認識出来ないはずなのですが……」


「……あの誘拐事件の事ですか?」


「……はい」


 俺は逃げ出そうとした。


「何か事情があったのでしょう?」


「え?」


 思わず足が止まり、彼女を見ると、イリアさんは優し気な瞳でこちらを見ている。


「ワタルさんが事情も無しにあのような事をするはずがありません」


 ズキュウーン!!

 今までの人生ではあり得なかったほどの衝撃?!


「貴方のように慈悲深い方を信じずに、誰を信じろと言うのでしょう?

 それに、この孤児院にも可愛らしい子供たちが大勢いるでしょう?

 この子たちに何もなさらないのに……ましてや優しくして頂いているのに、その女の子に酷いことをする訳ないじゃないですか?

 だから私はワタルさんを信じます」


 家族以外(※ ただし幼少期のみ)の女性にこれほど純粋な好意を向けられたことが無い……だからこそ、胸が高鳴る。


 悔しい、でも喜んじゃう!


 もし俺の顔面が真面で、尚且つ現実の恋人や嫁に興味があれば、この瞬間に彼女に交際を申し込んでいたであろう……


 ありがとう。

 この喜びを胸に、今日のオカズは君に決めた!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る