とある晩餐の風景


 天井の高い、広く大きな白い食堂。

 絶えず響くのはナイフやフォーク、スプーンなどが立てる微かな音だけ。

 ここでは日に三度、王族が全員揃って食事を摂る。

 細長い白亜のテーブルに広げられた純白のテーブルクロス。

 その上には金の燭台と金の花瓶が置いてある。

 燭台には白い蝋燭。

 花瓶には純白の薔薇。

 どれをとっても選ばれている色は白ばかりだ。

 女中は王族の人数と同じだけ控えている。

 彼女たちは必要に応じて前進し、用を聞く。

 王子のスプーンはなかなか進まない。

 金色のスプーンですくった白いクリームスープ。

 口へ運ぶ度に舌が痺れる。

 王子の向かいには双子の姫たちが並んで座っている。

 時折、王子の様子を盗み見してはくすくすとわらっている。

 王や王妃、妹たちの空になったスープ皿が下げられる。

 彼らは次の料理が運ばれて来るのを待つ。

 しかし王子のスープ皿だけは下げられないままだ。

 スープはまだなみなみと残っている。

「お兄様、折角のスープが冷めてしまったのではありませんこと?」

 姫が問う。

 その姫に、隣に座る姫が耳打ちをする。

「それともスープがよほどお口に合わないのかしら」

「……いや、とても美味しいよ」

 王子は微笑んで見せる。

 しかし、それは無理に浮かべた笑顔だと、誰の目から見ても明らかだ。

「ただ、私は熱い物を食べるのが苦手だから……」

 王子はスプーンを口に運ぶ。

 運び続ける。

 舌の痺れはやがて咥内に広がる。

 喉の奥まで達する。

 胃が痙攣し、呼吸が困難になる。

 意識が遠退いて、やがて王子は床に崩れ落ちる。

 王妃は王子の異変に無関心だ。

 王が慌てて兵士を呼び込む。

 王子は直ちに運ばれて行く。

 全てを静観していた妹たちは口元の笑みを隠しきれない。

 姫が隣の姫に耳打ちする。

 姫は頷く。

 そして小さく呟く。

「これでネズミ駆除は安心ね。ブランはネズミの死骸を持って来なくなるわ」

 その言葉に、隣の姫はにっこりと頷いた。

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