声を亡くした少女

深月珂冶

声のない娘

十年ぶりに会った自分の娘の芽以めいが「失声症しっせいしょう」になっていたのは衝撃だった。


元妻の由以子ゆいこに預けられ、一切の面会は遮断されていた。

何度か会おうと試みたが、 駄目だった。

だから、どんな状況で過ごしていたかも知るよしもなかった。


先日、由以子は再婚相手の月田豊つきだゆたかと共に事故死。

その結果、芽以の後見人は私になった。


事前に弁護士から芽以が「失声症しっせいしょう」と聞かされていた。

それは、由以子が再婚した辺りからだったらしい。高校一年生になったばかりだ。


「失声症」は発声器官に問題はないのに、あることが原因で喋ることが出来なくなる病だ。

名前の通り、声が出なくなる。

原因は主に心因的外傷しんいんてきがいしょう及び、ストレスからくるものだ。

だから、現在は高校を休学している。

原因は月田との再婚にあるように思えた。


十年ぶりの芽以は、私のことが解らないかと心配になった。けれど、すぐに解った。

どことなく、身構えた雰囲気で警戒する。

私の様子を察したのか、芽以は、紙に文字を書いて見せた。


『お父さん、すごく懐かしい。私は声が出ない』


俺は芽以を見る。本当に声が出ないようだ。


「弁護士から聞いているよ。色々あるけど、一緒に暮らそう」


芽以は首を立てに振った。芽以は少しだけ笑った。


こうして、芽以は私と共に暮らした。

失声症の治療のために、週二回はカウンセリングに通わせた。

勉強は、家庭教師を雇い、学業を行った。

幸い、由以子が事故死する前に通っていたカウンセリングに頼めることになり安心した。


あるとき、私は芽以に話しかけた。


「学校行きたいか?」

『うん。治ったら・・・・・・』


芽以は頷きながら、紙に筆談する。学校のことを思い出しているのだろうか。


「そうか。じゃあ、頑張ろうな」

『うん』


芽以は本当に頑張った。改善はしているか解らない。

ただ、最初に暮らし始めたときより、穏やかな表情になった。

このまま、上手くいけば、失声症は治るかもしれない。そう思えた矢先だった。



この時、私は芽以の地獄を何一つ解っていなかった。


声のない娘 (了)




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