パーシヴァルの回想

パーシヴァルの最古の記憶は、悲痛な竜の鳴き声から始まる。それは自分たちの巣であった場所を、人間たちが攻撃したときのことだろうと鉱夫は後から語ったそうだ。

 竜たちは竜たちだけの言葉を話す。その言語は複雑で、彼らの使用する音域は人間のそれを超越しているという。けれど、パーシヴァルは竜の言葉をほとんど話せないという。

 なぜなら彼は、人である鉱夫に育てれたからだ。



 荒い息遣いが妙にうるさくて、幼いパーシヴァルは眼を覚ましていた。まだ猫の大きさほどしかなかった彼の体を抱えているものがいる。自分の母は、いつも自分を背中に乗せるか咥えるかして移動していた。

 では、自分を抱いているのは誰だろう。

 気になってパーシヴァルは眼を開けていた。荒い息が顔にかかって、パーシヴァルは顔を顰める。

 玻璃の眼に映りこんだのは、一人の人間の男だった。無精ひげを生やした三十ほどの男だ。

「鉱石竜は、鉱山の守り神だぞ……。それを殺すなんて、どうかしてやがる……」

 男は暗い鉱山の道をひたすら駆けているようだった。どこからか、人間たちの大声がする。男は肩を震わせ、纏っていたズボンから布を取り出していた。

 それをパーシヴァルにかけてやる。後でわかったことだが、パーシヴァルの母にあたる竜は、古くから鉱夫たちに大切に祀られてきた鉱石竜の子孫だったらしい。

 それを金に目のくらんだ鉱山の主が殺したのだ。鉱山の主は、パーシヴァルも金になると売るつもりだったらしい。そんなパーシヴァルを鉱夫が匿ったのだ。

「ごめんな……。ごめんな……」

 布の中で、パーシヴァルは何度も男が謝る声を聴いた。そんなパーシヴァルを包む布を濡らす水滴がいくつかあった。

 雨かと、パーシヴァルは思ったらしい。けれどそれは、小さいころから鉱山で生き、鉱石竜を愛おしんでいた男の後悔の涙だった。 彼は、故郷である鉱山の竜を守れなかったことを何よりも悔やんでいたのだ。

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