ターゲットと接触しました

『いってらっしゃい、気をつけてね!』

 そんな奥さんのような薫子さんの言葉にニヤニヤしそうになりながら教会を出た。

 外はすっかり暗くなってた。

 黒猫の俺としては夜は動きやすいな。

 闇に紛れてなんの苦労もなく門を通過した。

 さてと、城の中は人が多いだろうからまずは外から探っていきますかね。




 少し歩くと庭っぽい所に出た。

 ガイアには電気なんてない。

 夜だと建物の外はかなり真っ暗だ。

 この庭っぽい所もかなり暗い。

 しかし俺は猫だ、夜目がきく。

 庭のベンチっぽいものに人が二人座ってる。

 一瞬、猫っぽく媚びた感じで近づいて、可愛がってもらいながら城の中に自然に連れて行ってもらう作戦を考えたが、ここはガイア。

 猫は俺しかいないんだったな。

 おまけにモンスター扱いされたし。

 日本のような猫作戦は使えないか。

 さてどうしよう、人もいるし他の場所でも見て回ろうかな。

 そう思ったその時。

「ほんとだ!猫だ!」

 やっべ、気づかれた!

 ベンチに座ってる二人がこっちを見てる。

 この暗い中、俺のこと見えたのか。

 どうしよう……、ん?

 今「猫」って言ってたよね?

 猫なんて単語、ガイアにはないはずだから……、この人日本人か?

 女の子二人だし、この二人がターゲットか!

 暗くて髪の色がわかんなかったから見落とすところだった、あぶねえ!

 気づいてもらえて運が良かった。

 なんて考えてたら、二人は走ってこっちに来た。

 そして抱き上げられた。

「きゃー!可愛い!やばい!可愛い!」

「ガイアにも猫っていたんだね!感動だよ~!」

 うお、めっちゃ肉球プニプニされる!

「やばい!ちょープニプニ!やばい!ちょー可愛い!」

 いやいや、やばいのはキミのほうだよ!

 この魔女っぽい格好をした子のテンションがやばい。

 猫好きなのだろうか?

 それよりも、俺は猫ではあるけど心は人間のままなのであって……。

 何が言いたいかというと、胸元に抱き寄せられると、その……。

 胸が……。

 やばい!すっごい照れる!どうしよう!

「召喚されて、つらい日々を送ってるけど、あなたのおかげで元気いっぱいになったよ猫ちゃん!」

「澪ちゃんってほんと猫大好きなんだね~」

「当然!猫とサッカーこそ私の人生!」

 おぉ、この子サッカーも好きなのか、気が合いそうだな。

 この魔女の格好してるほうが澪さんで、もう一人のほうが雫さんか。

 とりあえずこのままじゃ照れて死んじゃいそうだし、落ち着いてもらわないとな。

 できるだけ早く世界樹に連れて行かないと危険だろうし、人の言葉で話しかけてみるか。

「プニプニしてるとこ悪いんだけど、ちょっと落ち着いてもらっていい?」

「「――!?」」

 あ、めっちゃ驚いてる。

 そりゃそっか、猫がしゃべるなんて地球の常識じゃありえないもんな。

「ね、猫が……しゃべった!?」

「あ~、うん。

 ごめん、順番を間違えた。

 俺はこんな見た目だけど、心というか中身は人間なんだ。

 驚くのは無理ないけど、まずは俺の話を聞いてくれないかな?」

「「……」」

「とりあえず下ろしてもらっていい?

 俺男だからさ、胸元に抱きかかえられてると、ほら……、ね?」

「あ……、はい……。

 えっと、はい……」

 とりあえず下ろしてもらえた。

 ふー、ちょっと残念だけどしょうがない!

「人に聞かれるとまずい話があるんだけど、人気のない場所ってないかな?」

「えっと、ここは夜は誰も来ないし、大丈夫だと思う。

 だよね?雫ちゃん?」

「う、うん。

 この位置なら城の中に声も届かないと思う。

 あ、一応見回りの兵士は来るけど、その時は猫さんだけ隠れれば問題ないと思う」

「そっか、じゃあこのままここで話すね」

 いきなりしゃべる猫が出てきたのにわりと落ち着いてるなぁこの二人。

 これぐらいじゃ取り乱さないような日々を送ってるってことなのかな。


「まずは自己紹介から。

 俺の名前はジズー、一応猫なんだけど、中身は人間です。

 悪いんだけど、二人の名前を確認させてもらえないかな?」

「えっと、私は佐藤澪です」

「佐藤雫です」

 よし、ターゲットで間違いなしだ。

「ありがとう。

 ちなみに俺も中身は二十二なので、タメだし普通の言葉遣いで大丈夫だよ」

「え、なんで私たちの歳知ってるの?」

「そのあたりも含めてこれから話すね。

 まず俺は、君達二人が地球から来たというのを知っています」

「「!!??」」

 お~、驚いてる驚いてる。

 可愛い子のビックリ顔ってのも、なんかイイネ!

「結論から言うね。

 ガイアの女神様が君達二人を地球に帰そうとしてるんだ。

 地球に転移させるには世界樹がある龍の巣って所に行かないといかなくて、俺は君達二人を世界樹まで無事に連れて行くために来たんだ」

「え、女神様……?

 って、えっ!?私たち帰れるの!?」

「うん、帰れるんだよ。

 この一ヶ月、つらかっただろうし、絶望もしただろうけど、諦めないで!

 絶対に地球に帰れるから!」

 そう言うと、二人は泣き崩れた。

 ほんと、つらかったんだろうなぁ。

 一緒に召喚された男四人はあんなんだし、周り全員敵って感じだもんな。

 見知らぬ場所で、周りはみんな敵で、信じられるのは一人だけ。

 考えただけできついなー、泣いちゃいそうだ。

「あ、あの!」

「うん?」

 澪さんがまだ涙を流しながら声をかけてきた。

「ジズーさんは猫なんだよね?

 モンスターではないんだよね?

 ガイアの猫はみんなしゃべるの?

 っていうか、ガイアに猫っていないって聞いてたんだけど!」

 え?地球に帰る関連の質問じゃなくてそんなこと聞くの?

 実はめっちゃ余裕あるのかな?

「こんな愛らしい猫がモンスターなわけない!

 そもそも澪さんの言う通り、ガイアに猫はいないからね。

 俺がこのガイアで唯一の猫!

 そう!オンリーワンキャットだ!」

「「ポカーン――」」

 俺の頭の悪そうな言葉に、二人は口を開けて固まった。

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