序章 埋め火

第1話 “第二次大陸間戦争”勃発

 序章




          ~皇國西方軍・総統執務室にて、男と女の会話~






総統執務室にて、机に肘を付きながら眠りこけていた彼が目覚めると、美しい女が自分を見つめていることに気が付いた。

いや、見つめているというよりは、睨み付けていると言った方が正確な表現だろう。

黄金の糸の如く光輝く金の髪を靡かせた美女は、その意思の強さをそのまま体現したかの様な、黒曜石よりも黒き瞳に、明確な怒りの色を帯びて男をにらみ付けていた。

怒れる視線の先の男の名は“グレン・バルザード”


総統という要職に就きながら、未だ40代の彼は肩までの伸ばし、後ろで一つに結われたその髪の毛は、量こそ豊かながら一本残らず真っ白に染まっている。その傷だらけの顔面は、シワこそまったくで無いが無精髭で覆われていた。



「閣下...この非常時によくもまぁ・・・本当に夢の世界に旅立つのがお好きですのね?いっそのこと本当に軍を飛び出して自分探しでもされては如何ですか?応援致しますよ?」



会話早々に、女が強烈な嫌味をぶつける。



「ちっ、お前かよ・・・最低の寝起きだよ、どっか行け」



不愉快なモーニングコールをぶつけられたグレンは、不機嫌を隠そうともしない。



「閣下!」



その余りにぶしつけな態度に思わず女も声を荒げる。



女の名は“エミリア” グレンの部下と思われる、年の頃は20半ば程の金糸の髪を靡かせる絶世の美女と呼ぶに相応しい女性将校である。



「ああ・・悪かったよ、お前らが前線と西方軍令部を掛けづり回っ取る間に眠りこけてたのは、確かに俺が悪い・・・それでいいか?」



明らかに自分が悪いが、大人しく謝罪するのも癪だと感じたグレンは不貞腐れたような態度を見せる。



「ご自分に非があると感じておいでならば、もう少し部下に感謝の気持ちを見せても、罰は当たりませんよ?そもそも閣下には・・・」




「分かった分かった悪かった、申し訳なかったよ~以後気をつけさせて頂きます」




話が長くなる気配がしたためグレンは強引に話を打ち切った。



「それで?なんかあったか?」



エミリアは明らかに納得がいかないといった表情をしていたが、強引に切り替えることにした。



「・・・・・・西の大公国が動きました。連合軍を動員し、我が國の国境線を犯し侵攻を開始したとの情報が・・・」



エミリアは、手に携えた資料をグレンに渡した。それを見たグレンは、回りに控える軍人に指示を出す。



「あ~やっぱり来たか、案外のんびりだったなァ?この侵攻ポイントだと・・・西方軍第二軍団が網を張っているな、ヴェルトレン軍団長に指示を飛ばせ。俺も準備が出来次第に動くと伝えろ。アリア、お前は自分の師団を連れて先に応援に行け」



「はっ、デュランとランドにも至急伝えます」



アリアと呼ばれた女性将校は、指示を受けると同時に部屋を飛び出していった。



「見ろよ、健気だろ?アリアは。お前もアレぐらいの可愛げを見せた方が出世できるぞ?西方軍にいるうちはな」



“はっはっはっは”と乾いた笑い声が二人だけの部屋に響いた。



その完全になめ腐った態度に、エミリアの堪忍袋は限界を迎えた。



「可愛げで戦争が出来るかボケ!いいからさっさと支度しろ!お前、机で寝ながら勤務時間を過ごして國から給金貰うとか、國民と、西方軍と、何より目の前の部下舐めてんのか!立てや!動け!行くぞ!」



そうまくし立てるや否や、エミリアはグレンの襟首を掴むと強引に部屋の外に連れ出したのだった。



グレンよりも幾分背が高いエミリアに、半ば摘み上げられるような形だった。



親子ほどに離れた二人のこのやり取りは、傍から見ると酷く滑稽だっただろう。


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