第25話【運命の出会い・・・なのか?】B面
結局、答えが出ないまま翌日になった。登校すると、すぐにあいつの心の声が聞こえた。
『おはよう。昨日は、アドバイスありがとう。このくらいの声ならうるさくない?』
俺は驚いた。今までの奴らのように俺を避けると思っていたのに、あいつは避けるどころか怒鳴るなと言った俺のために心の声をコントロールしようとしていたからだ。
『あいつは俺の言ったことを信じたっていうのか?信じたのに引かないのか?』
俺は、親戚以外の人間にこの能力を受け入れられた経験がない。人並みに恋心を抱いたこともあるが相手も同じ気持ちだと分かった時にだって、この能力のことを伝えた瞬間、バカにされるか避けられるかのどちらかしか経験がない。
あいつに恋心があるわけではないけど、この能力を伝えたのは俺自身でだった。これ以上関わってほしくなかったからだったのか、理解してほしかったのかは分からないがあの時は何も考えず伝えてしまった。結果的にどうなっても構わないと思っていたが、まさか受け入れてくれるとは思ってもいなかった。
授業が始まっても昨日までの頭に響くようなあいつの声は一度も聞こえなかった。まぁ、その代わりに色々焦っている心の声は聞こえて来たが、なんだかそれも面白く感じた。
『はぁ~、今日の授業、全然分からん』
『昨夜いろいろ考えていて予習しなかったもんなぁ』
『今日の授業は帰ってからしっかり復習しなくちゃ』
『最悪な日だ』
『劣等者にだけは入りたくないよぉ』
『やっと解放されたぁ♪』
『さてと!転入生ともう少し話しをするぞ!』
『えっ?もう帰ったの?』
俺は最後の方の心の声を聞くと急いで教室を出た。話すことなんてないし、何より本当に信じてくれたのか確信が持てなかった俺は、無意識にあいつを警戒していた。教室で俺が居ないことに気付いたあいつは急いで追い掛けて来るのも分かった。俺はつい、歩く速度を上げた。それなのに、あいつはすぐ後ろまで追いついていた。
『あいつ、走って来たのか?』
俺は、かなり動揺していた。そして、つい後ろを振り返ってしまった。思ったより距離が近くて焦ったが、俺以上にあいつの方が焦っていた。
『イヤイヤ、それは反則でしょ?いきなり振り向くとか。怪しいよね?絶対怪しがっているよね?どうごまかす?イヤ、ごまかしようがないよなぁ…』
と思いながら口をとがらせヒューヒューと音にもなっていない空気だけが聞こえた。
『あれ、口笛のつもりか?』
俺は思わず吹き出しそうになった。
『ごまかすのに口笛とか、私いつの時代の人だよ。漫画でも最近は見ないわ』
あいつの一人ツッコミにも吹き出しそうになった俺は、
「何やってんだ?」
とつい、声を掛けてしまった。
「別に何も。」
そう答えたあと、
『私ね、あなたと仲良くなりたいの。だから、心の声も頑張って小さく言えるようにする。このくらいで大丈夫?』
キラキラした目で俺をジッと見ながら、今度は心の中で伝えて来た。俺は、
『今日は全然気にならなかった。心の声ってコントロール出来るもんなんだな。ありがとう。って聞こえるわけないか。』
と伝えてみたが、
『どうして黙ってるんだろう?』
と困った顔のこいつを見て、
「だよな。やっぱ、俺の心の声は聞こえないか…」
と俺は言った。
「えっ?私にはそんな能力ないよ」
「だよな。すまん。いやぁ、もし出来るようになったら便利かな?って思ってさ」
「そうだよね・・・って、えっ?私と仲良くしてくれるの?」
こいつ、本気で残念がって、本気で喜んでる?
「仲良くってのは、付き合うってこと?お前、俺のこと好きなの?」
俺は自分で言ったくせに出て来た言葉に驚いていた。
『えっ?なんでそうなるの?仲良く=付き合うとか意味分かんない』
こいつはそう思った後、
「はっ?違うし!付き合うとか好きとかじゃないし!」
と否定してきた。もっともだ。俺だって、なんで自分であんなこと言ったか意味分からないし。
「じゃあ俺に興味があるのはなんで?」
「なんでだろ?昨日、少し話してくれて、家に帰ってから色々考えて、もしかしたらホントはもっとみんなと一緒に居たいんじゃないかな、でもみんなの本音が聞こえちゃうから嫌なんじゃないかな、とか。でも、だったら、普段喋らない私は、建前で喋ってる人とは違って、本音全開だからあなたも気が楽かな?って思ったりして・・・私も上から目線だな、あは。でも、興味とかとも違う気がするんだ」
こいつの言葉には何の邪心もなかった。心で思ったことをそのまま言葉にする人間には久しく会っていなかった俺は素直にこいつの言葉は嬉しかった。
「そっか。俺のこと、気持ち悪くないんだ。お前、変わってんな」
俺は、警戒が解けるのを感じた。
『あれ?なんか、笑顔が可愛かったりする?普段難しい顔してるから気付かなかったけど、意外と整った顔してるんじゃない?』
こいつはそう思うと、何かに気付いたかのように口を押えた。
「可愛いとか・・・てか、口押さえてどうすんだよ。面白いな、お前。」
俺は口元が緩んだのを感じた。
『私も口押さえるのはどうなの?って思っちゃってた。ついね・・・あは。』
「て言うかさ、私、〈お前〉じゃなくて、古村。古村沙希」
とこいつは言ってきた。
「ほんじゃ、俺も言うけど、ずっと〈あなた〉って言われてるんだけど?俺の名前は転入した日に黒板に書かれたから分かってんだろ?新村佑希」
『おっ?名前、教えてくれた。そうだよね。私も〈お前〉って言われてたからムキになって〈あなた〉って言ってたけど、お互い名前で呼んでなかったんだ。でも、なんて呼べばいいんだ?ニイムラ?ニイムラくん?ん?ニイムラ?この人が新しい村で、私は古い村?…なんか、気に入らない。てか、黒板見た時気付かなかった。ん?見てなかった?実は私、この人の名前知らなかった?あれ?ん?…』
「ストーーーップ!またパニックになってる…新しいとか古いとか笑える。じゃあ、名前でいいよ。ユウキだったら問題ないだろ?」
「うん…ん?ユウキ?サキ?…なんか似てる…」
「…じゃあ、どうすりゃいいんだよ。めんどくせえな。俺は古村って呼んでいいんだろ?」
「うん。じゃあ、私も新村でいい?」
『呼び方一つで何パニックになってるんだ?私・・・情けない。これだから男子と喋ったことない奴は面倒くさがられるんだよなぁ』
「なに?もしかして、彼氏いない歴=実年齢ってやつ?」
「えっ…あ、また私…てか、イコールじゃいけないの?そうだよ。悪い?」
『あぁ…自虐ぅ~…』
「いや、悪くないけど?」
俺はこれ以上、この話題を引っ張るのは何となく悪い気がしてそのまま歩き出した。古村は自然に俺について歩き出した。
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