病のキス

「うう~。具合悪ぃ…」


 誰もいない保健室で一人、呟くオレは何てサミシイヤツなんだ。


 でもしょーがない。


 保健の先生は用事があるとかで、一時間は留守にするらしいし、他の生徒はいないし…。


 オレはと言うと、ちょっと病弱体質で、この保健室はすでに常連だ。


 今日も貧血で、一時間目からダウン…。


 高校も2年目なのに、オレ、将来大丈夫か?


 まあ今はこのままベッドで寝てしまおう…。


「オイッ! 大丈夫か!」


 …と思っていたのに。


 同じクラスで保健委員のアイツが、保健室に飛び込んできた。


「倒れたって聞いて…」


 倒れちゃいねーよ!


 …ちょっとふらついただけだ。


 にしても、コイツ今頃来たのか?


 今朝来ていなかったから、安心していたのに。


「も~俺、ビックリしてさ。慌てて来たんだけど…」


 こっちへ来る気配。


 面倒だから、寝たフリをしよう。


「それでさ、…アレ?」


 シャッとカーテンが開く音。


「…寝てんのか?」


 聞かなくても見りゃ分かるだろ!


「寝てんのか。しょうがないな」


 ズズッとイスを引きずってくる音。


 …居座る気かよ。


「も~ホント、ビックリしたんだぜ? 俺がいない時に倒れるなよ」


 無茶言うなよ! 


 こっちだってこんな体質、イヤになってんだから!


「ホント、心配で目が離せないって言うかさ。俺、いっつもお前のこと考えてるんだ」


 知るかっ!


 …と言っても、そうなった理由はオレにあるワケで…。


 思い起こすこと高校の入学式。


 入学式には耐えられた。


 けれど教室へ向かう途中で耐えられなくなって、倒れかけたところで、コイツに支えられた。


『大丈夫!?』


 …その後、よりにもよってお姫様ダッコで保健室まで運ばれた。


 回復した後、礼よりも先にゲンコツをくらわせたのは言うまでもないことだ。


 その後、縁があったのか。


 1年、2年と続いて同じクラス。


 そして委員を決める時、コイツは保健委員に立候補する。


 …まあ理由は分かるけど。


「…俺、どーしよ? お前のことを心配しすぎで、これからのこと考えらんねーよ」


 知るか!


 お前の成績が悪いのは、オレのせいじゃない!


 怒鳴りたい気持ちを押さえ、目を閉じ続ける。


「……そんでさ。こんなに心配になるなら、いっそのこと、ずっと一緒にいようかと思ってさ」


 ぎしっ…とベッドが軋んだ。


「ずっと…お前の側に」


 顔が近付く気配。


 思わず目を開けると…目を閉じたアイツの真剣な表情が写った。


 だからだ。


 …キスを許したのは。


 熱くて、震えている唇を心地良く感じてしまうのは、きっとオレの体調が悪いからに違いない。


 ……ずっとこのままでいたいなんて思ってしまうのも、きっと……。


 唇を離したアイツは目を開けて、固まった。


「あっアレ? いつ起きてた?」


「…ずっと、だ」


「えっ? …あっ、寝たフリ!?」


 途端にアイツの顔が真っ赤に染まる。


「ずっズルイ!」


「何がだよ。寝ている病人に、勝手にキスする方がずるくないのか?」


「ふぐぐぐぐっ…!」


 言いつまるアイツの首と頭に手を回して、引き寄せた。


「んんっ…」


 …ああ、やっぱり気持ち良い。


「…えっ? なん、で…?」


「責任、取ってやるよ」


「えっ!」


「一生、オレの側にいろよ」


 そう言って頬を撫でると、ボロボロ泣き出した。


「うん…、うんっ! 大好き!」


「オレも好きだ」


 そうして再びキスをする。


 心が浮き立つような、甘いキスを。

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