第23話 ロマンスグレーと編みぐるみ

おや、お疲れ様です。


ええ、本当に。良い会でしたねぇ。賑やかで、温かくて。送別会は、送られる方のお人柄が出ると言いますけど、当たってますね。


あれ、帰りの駅、同じでしたか。


路線は?


はぁ、同じだったんですねぇ。今まで気がつきませんでした。


おや、あそこですか。良いパン屋がありますよね。時々買いに行きます。私は3駅先です。


そうそう、あの公園良いですよね。家が近いんですよ。ちょっとスーパーとかが遠くて不便なんですが、周りの環境が良くて。


えっ、これですか?


あはは、お恥ずかしい。妻が手芸好きでして。似合わないですよね、こんなの鞄にぶらさげるのは。


いや、そう言って頂けると嬉しいです。私が言うのもなんですが、結構器用なんですよ。実は自分の作品を販売したりもしていまして。


ちょっと味があるでしょう?手作りですから、一個一個表情も違うんです。


ばれましたか。ええ、私と妻をイメージしたものです。私は白熊なんだそうですよ。自分では犬だと思ったんですがねぇ。彼女は、御覧の通り猫で。


まあ仕事柄、かっちりした服装しかしませんからねえ。妻の前では、これくらいゆるんでいるんでしょう。


いや、惚気では決して・・・・・・!


いやいや、参りましたねえ。あんまり年寄りをからかっちゃいけませんよ。


まったくもう。


え?ああ、もちろん、もちろん。今度見本をいくつか預かってきますよ。気に入ったやつを、買ってやって下さい。彼女も喜ぶでしょう。


いえいえ、たいした手間ではありませんから。それに、好きな作品が広まるのは嬉しい物です。


ファン。


そうですね。ファン、という言葉はしっくりきます。私は、彼女のファンです。


はっはっ、同志になってくれましたか。嬉しいですねぇ。家に帰ったら忘れずに教えなければ。


ああ、ここでしたね。お疲れ様でした。また、月曜日。

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