城の目と鼻の先にある騎士団本部、そこは俺にとって安らぎの場所。

 今でこそ美少女な俺もかつては戦うおっさんだったから、こっちの方が落ち着くんだ。


 今日も訓練所では暑苦しい掛け声と共に木刀を打ち合う音が響いて……おー、やってるねえ。


「いいなあ、俺もたまには暴れてえなあ」

「姫、またこのような場所まで来て……」


 やべ、見つかった。


「スカルグ……」

「訓練風景、そんなに面白いですか?」


 後ろでひとつ縛りにした白藍の髪、勿忘草色のタレ目な三白眼、肌は色白と全体的に色素薄めのヒョロっとしたおっさんは騎士団の隊長、スカルグだ。


「……面白いよ。何なら加わりたいくらいだ」

「い、いけません! 万が一姫様が怪我でもしたらっ……」

「えー、けち」


 こいつやファイは付き合いが長い分、俺があんまりお姫様らしくないヤツだって知ってる。

 王子達相手みたいなかしこまった口調作らなくていいし、ちょっとは気が楽だ。


「確かに姫様の剣術のセンスは認めますが……」

「ならいいじゃん。素質あるぞ? 磨けば光るぞ?」


 ふふん、剣は前世から振り回してたしそこらに敵はいなかったからな!

 いわゆる体が覚えてるってヤツで、初めて持った木刀を振ってみせたらスカルグも俺の動きに驚いてた。


……ただし、


「その細腕では重い剣を満足に振れないでしょう?」

「ぐうっ」


 問題は、今の肉体は蝶よ花よと育てられたか弱い乙女のものだということ。

 筋肉つければ昔みたいな動きがもっとできるのかな、とじっと手を見る。


「まずは筋トレからか……ていうか、スカルグだって結構細いのになんであんな強いんだよ」

「何故かあまり肉がつかない体質なのです」


 スカルグは白い、ヒョロいとあまり強そうに見えないけど隊長なんて肩書がついてるのはその腕っ節の強さからだ。

 それはやっぱり、前世の……とスカルグの開いた服の胸元から覗く大きなばってん傷に視線をやる。


「……なあ、その傷跡ってずっと昔からあるよな?」

「はい。生まれつきのものらしいです」

「痛くねーの?」


 騎士として戦ってるだけあってスカルグの体は傷だらけで、顔にもひとつある。

 けれども一番目立つ傷跡は、胸のそれだ。


 その傷跡は……


『貴様のような男と戦って散るならば本望……楽しかったぞ、勇者……!』


 あ、今なんかよぎった。


 実はこのスカルグも前世の因縁があって、魔王の配下の骸骨騎士だった。

 俺の行く先々に現れ、幾度となく剣を交え、次第に互いを認め合うようになり……最後は一人の戦士として戦い、この手で決着をつけた。

 敵同士じゃなかったら、もしかして良い仲間や友達になれたりしたのかなあ……とも思った相手だ。


「痛い……そう、ですね。ごくたまに疼く時はありますが……何故か、姫様といる時ばかり」

「うっ」


 ごめんそれ前世のお前の致命傷ーーーー!


「ただ、不思議と不快な感じはしないのです。むしろ、私にとってとても大事な……勲章のような気がして」

「ううっ」


 な、なんだこれ、傷跡なんかないはずの俺の胸が痛い!


「ああ、そうだ。姫様は確か今日がお誕生日でしたね」

「んあ? そーだけどみんなよく覚えてんなあ」

「ささやかですが贈り物を」


 スカルグお前ほんといい奴かよ……

 そして出てきたのは上等な布に包まれた……その状態でもそれが何だかわかるシルエット。


「け、剣? でもお前いつも危ないって……」

「危険に自ら首を突っ込まれる貴方なら、逆に護身用に持っていただいた方が良いかと思います」


 うわ、すげえ嬉しい。

 ごめんなか弱い美少女で……って、


「あれ、軽い」

「特殊な魔法金属で羽根のように軽く、非力な者でも扱いやすいですよ」


 うわ、こんな上物、うわあ……


「ありがと、すげー嬉しい!」

「喜んでいただけて良かったです」


 しかしまあ、お姫様へのプレゼントが剣って……やっぱなんとなく面影残ってるんだなあ。

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