だから君はモテないんだ!

 カカオがどうしてもとうるさいから、もらったチョコの送り主を探すという、このやりたくもない不毛なミッションを遂行すべく。僕は仕方なしにカカオなんぞと向き合いながら、まずは状況の整理を始める。


「なんだか出だしから、凄い俺のことを蔑ろにしてないか?」

「僕の正直な気持ちだよ。こうして付き合ってあげてるんだから文句言わないで」

「それもそうだな。それで、チョコをくれた奴なんだけどさ、俺の推理ではこのクラスの女子の誰かだと思うんだ」

「そりゃそうだろうね。他のクラスの子だったら目立つし。くれたのが実は男子だってこともないだろうし」


 これくらいのことは、推理とは呼べないだろう。


「でも、クラスの半分は女子だからな。そこからが絞り込めないんだよな。ホームズ、何か知恵はないか?」

「そうだねえ。まあ絞り込むことはできるかな」

「本当か?どうやるんだ?」

「君が登校してきた時には、チョコはすでに君の机の中にあった。誰かが前もって、入れていたと言う事になる。それができるってことは、チョコをくれた人は君より早く登校してきた女子の中にいるということ」

「ああっ、確かにそうだ。やっぱりお前、頭良いな」


 これくらい少し考えればすぐにわかるんだけどな。まあ良いや、話を続けよう。


「それと、僕は登校してきてからずっと、この席で本を読みながら君の席を見ていたけど、その間近づいた女子は見ていないんだよね」

「ということは、チョコをくれた奴は、ホームズよりも早く登校してたってことか?なあ、お前より先に登校していた女子、誰がいたか覚えていないか?」


 僕よりも早く登校してきた女子ねえ。記憶力には自信があるからわかるけど。

 今日僕はいつもより早く登校したから、それよりも更に早く来ていた女子となると、本当に限られてくる。朝この教室に入った時に中に誰がいたか、一人一人名前を上げていく。


「ええと、まずは明治めいじさんでしょ」

「明治か。明治だったら良いなあ。可愛いもんな、明治」

「話を聞いてる途中で、ニヤニヤしない。次に森永もりながさん」

「森永か。アイツの家駄菓子屋やってて、俺よくそこでお菓子買ってるからなあ。その姿を見ているうちに惚れたとか?可能性はあるな」

「お菓子を買う姿を見て好きになるかなあ?まあいいや。後は、御出歯ごでぃばさんだね。僕よりも先に来ていたのは、この三人かな」

御出歯ごでぃば……大分絞り込めたな。つまりこの三人の中の誰かが、俺にチョコをくれたって訳か。へへ、いったい誰なんだろうな?やっぱりそいつ、俺のことが好きなんだろうな」


 僕は肯定も否定もせずに、ニヤケるカカオのことをちょっと冷めた目で見る。


「まあ普通に考えたら、君と一番仲が良い女子がくれたってことじゃないの?」

「一番仲が良い女子……ん、と言うことは?」

「何か閃いた?」

「明治だ!そうか、明治、俺のことが好きだったのかあ。本当言うと前から、そうじゃないかって思ってたんだよなあ」


 幸せそうに笑みを浮かべるカカオ。だけど僕は首を傾げる。


「カカオって明治さんと、そんなに仲好かったっけ?さっきは森永さんの事を話してなかった?」

「そりゃ森永とも仲は悪くないけどよ、やっぱりその三人の中でなら、明治だろ。ホームズには話したことなかったけどさ、実は俺、よくアイツと目が合うんだぜ」

「それは君がよく、明治さんのことを見ているからじゃないの?」


 目が合うということは、カカオも明治さんのことを見ているということ。明治さん、フワフワしてて可愛いから、男子に人気があるのだ。カカオが密かに熱をあげていることも、僕は知っている。

 けど残念ながら明治さんがカカオのことを好きと言うのは、都合の良い妄想のような気がする。だけど一度そうだと思い込んだカカオは止まらなかった。


「間違いねーって。よし、今からちょっと確かめに行こう」

「確かめにって、まさか本人に聞くつもり?」

「そうしなきゃ分からねーだろ。って、その明治はどこ行った?」

「教室にはいないみたいだね。外に行ったのかな?」

「こうしちゃいられない。ちょっと探してくる。ホームズ、手伝ってくれてありがとうな!」


 カカオはお礼を言うと、一目散に教室から出て行っていまう。まったく騒がしい、そして軽率な奴だ。明治さんがカカオをねえ。多分勘違いだと思うんだけどなあ……






 そうして待つこと数分、飛び出して行ったカカオが帰ってきた。だけど教室を出て行く時にあった笑顔は、すっかりなくなっている。がっくりと肩を落として、トボトボとした足取りでこっちに近づいてきた。


「お帰り。明治さんは見つかった?」

「……ああ、見つかったよ」

「それで、なんて言われてフラれたの?」

「フラれてねえよ!いや、でも似たようなものか」


 カカオは膝をついて、僕の机に顔を埋めながら、何があったかを語りだす。


「教室を出て行った後、明治を探したんだよ。それでやっと見つかったと思ったらアイツ、隣のクラスの池面にチョコを渡してるじゃないか。しかもどう見ても本命の、気合の入ったチョコを」

「ああ、明治さんは池面いけめんくん狙いだったのか。池面くん、モテるからねえ」


 きっと明治さん以外にもたくさんの人から、チョコを貰うのだろうなあ。カカオと違って。


「くそ―、絶対に俺のこと好きだって思ったのに、池面かよ!と言う事はこのチョコをくれたのも、明治じゃないのか。くそー!」

「ご愁傷様。まあ僕としては、明治さんが池面くんにチョコを渡す瞬間を目の当たりにしてなお、『まだ可能性はある』とか、『二股かけられた』とか言い出さなかったことにホッとしてるよ」

「少しは慰めてくれよ!……いくら俺でも、そこまでポジティブにはなれねーって」

「まあそう気を落とさないで。君がチョコを貰ったって事実は変わらないんだから」

「はっ、そうだった!」


 ガバッと顔を上げて、目を輝かせるカカオ。さっきまでショゲていたのに、単純だねまったく。


「そうだよな。俺、チョコ貰ったんだよな、たぶん本命チョコ。相手が明治じゃないのは残念だけど、まあいいや。相手なんて誰でも良いや、貰えたってだけで、スゲー嬉しい―――いてっ⁉」


 饒舌になったカカオの脳天に、僕のチョップが炸裂した。


「誰でも良いなんて言わない。それってあげた人に、凄く失礼なんだからね」

「あ、ああ。そうだったな、悪かった」


 幸いさっきの失言は周りの子達には聞こえていなかったみたいだけど、もし女子が聞いていたらバッシングを受けていたに違いない。もうちょっと言動には気をつけて欲しいものだよ。


「全くもう……だから君はモテないんだ!」

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