おうちにおかえり

第19話 白き魔王


 「涼しいわねぇ……」

 「ねぇ……」


 ぼく達は、今ちょっと各々の背中をくっ付けたりしながら……休憩中、なんだけど目の前の光景に釘付けになっていた


 サーバルさんが、「さばんなCQC」と呼ばれるかばんさん秘伝の拳を練習している


 「はぁ~……」


 目を閉じたまま呼気を整え、上段に構えればそれが始まりの合図だった

 

 「うみゃっ……!」


 光速の連激を繰り出し、空間を切り裂くサーバルさん

 肩から先がもう何がなんだか訳がわからなくなってる……


 想像でかばんさんが今、目の前に居るらしく攻撃を受ける?と


 「ぐほっ……か、かばんちゃん……やっぱり強いなぁ……」


 口から血を吐いた!?


 「サーバル!」


 「さ、サーバルちゃん、やりすぎなんじゃかいかな……!?」


 ぼくが、止めに入ろうとすると、手をスッとこちらに向け


 「へへ、へーき……へーき!!」


 口許が「にやり……」と不敵な笑みを浮かべた

 「ぺっ」と血を吐き捨てると、拳で雑に口を拭う


 あれ……?


 「ねぇ、キュルル……」

 「うん、もしかしてカラカルも?」

 「不思議ですね……」

 「ごくり……」


 見えているのは、ぼくだけじゃない!


 同じく、ダメージを受けつつも笑うかばんさん……


 聞こえる


  (サーバルちゃん、CQCの基本を思い出して?)


 サーバルさんに話し掛けるその声まで……ッッ!


 「うん、解ってるよ。かばんちゃん……」

 

 勝負は、一瞬……瞬きをするよりも速く決したッッ!!


 「うみゃあっ!」


 「嘘でしょ!?だって……そんなっ!!」

 

 センちゃんが驚くのも自明の利


 サーバルさんは、足払いを掛け、ぐらついたかばんさんを一息に地面へと叩きつけた!


 んだと思う


 多分……


 あまりにも疾やすぎてなにが起こったのかまるで理解らないよ!


 「かばんちゃん」

 (サーバルちゃん、強くなったね!)

 「えへへ……!」

 

 両者、互いに称え合う


 何者も居ないはず、だけどもサーバルさんは、かばんさんに「スッ……」と手を伸ばすと、ぐいと引き寄せ抱き合った


 不思議とぼく達は拍手をしていたんだ


 「おぉ、ジャパリパーク……」


 暫くすると、かばんさんは「ふっ」と消えてしまった


 「サーバルちゃん、今のは?」

 「これはね?とーっても、とーっても!集中すると出来るらしいよ?」


 これを「リアルシャドウ狩りごっこ」と言うらしい……


 「ごっこって付いてるけど、ごっこ……では無いわね?」

 「うん、ぼくもそう思う」


 と、ここで


 「カバンカラツウシンダヨ!」

 「つないで、ボス!」

 「マカセテ!」


 向こう側のかばんさんは、やっぱり今日もはぁはぁしていた

 

 [サーバルちゃん、良い汗かいたね!]

 「か、かばんさん、もしや……!」


 そう、なんと、ほぼ同時期にかばんさんも「リアルシャドウ狩りごっこ」をやっていたらしいんだ!

 予め約束していたかを聞いてみたところ……


 [うーん……なんとなく、ですかね?]

 「今だ!ってタイミング、なんとなく解るんだよー」


 今はぼく達と一緒とは言え、かつて共に旅をし、数多の修羅を潜り抜けたであろう「戦友」

 かばんさんと、サーバルさん

 二人の間には言葉なんてものは、要らないのかも……


 近況をちょっと報告しあう


 アムールトラさんは、ゴリラさんの教えもあり、大分おしゃべりが出来るようになったそう

 それと、簡単な文字の読み書きも出来るようになったんだって!


 通信の向こうでは


 [頑張れ!もう一レップスだ!!]

 「はいーっ!」


 がっしゃんがっしゃん、なにか激しい動きをしてるのが理解る


 そして、今日のお晩は、珍しくコノハ博士が担当してくれることになったらしい


 ぼく達はこれから、イエイヌさんの所に行くと報告をした


 それと、「ビースト」に関する情報も聞く事が出来た


 今、かばんさんの処には、キタキツネさんがお泊まりしに来てるらしく、その方の協力もあり解ったこと


 「ビースト」は自然発生したフレンズの亜種であり、かつて研究者達は「劣等種」として捉えていたが、それは「ある条件下」で暴走「狂戦士バーサーカー」となり手のつけられない状態になってしまっていた事


 一部の研究者はそこに目を付け、非人道的な実験を繰り返していた


 「うえぇ……っ!」

 

 そのあまりの下劣さに、その場で戻してしまったんだ……


 「あんた……!」

 「うん、大丈夫、だよ……」

 

 知らなくてはいけない

 ぼくは、続きを求めた

 

 かばんさん達チームとのファーストコンタクト時は、ボロボロの状態で倒れているところを発見された


 何に対しても怯え、その攻撃性の高さから幾度となく命の危険に晒されたと言う……


 孤独、不安、恐怖、これらの負の感情がトリガーとなるとかばんさんは教えてくれた

 そこまでしても、諦めなかったのは


 [辛そうなのに、助けないわけないじゃないですか!]と


 そして、[辛い、と言う難しい文字にちょこっとだけお助けすると……あとは、理解りますね?]


 「なるほど……」


 そして、今はジャングルエンの面々が、時には「お姉さん」や「先生」として日々を送って居る


 ちなみにキタキツネさんにとって

 

 「げぇむだよ!」


 らしい


 

      「べっくし!」


        !!? 


 「ほ、ホワイトタイガー!どうしてここに!?」

 「ふむ、噂をされた気がしてな?……ほう、我はそのような名なのか。気に入った」


 [キュルルさん、もしかしてそこに居るのって……]


 「ほう、これは面妖な……さてはお前、彼奴らの?」


 この前感じた時よりも、黒いオーラが強まっている!

 

 「ち、違うよ!!」


 何が違うのか解らない、だけどもぼくは、苦し紛れに嘘?を吐いたんだ


 「確かに、見た目格好ともに彼奴らとは違うな……」


 [はじまして、私はかばんと言います]


 「そなたが其奴等の親玉か?」


 [まぁ、大体そんな感じで合っています]


 今は黙ってて!袖を摘ままれて、そう言わんばかりの動きをバレないように然り気無くしてくる

 ここは、サーバルさんに従う事にした方が賢い……


 それからぼくと一緒のボス、ジョリーさんを通じてかばんさんとの会話が、始まった


 「して、我はそう言った存在なのだな?」

 [はい、実は私の処にもあなたと同じ方が居るんです]

 「左様か!?」


 この一言を聞いたホワイトタイガーさんは、より一層ボスへと顔を近づける


 「い……!」


 ぼくの腕を強く握りつぶすんじゃないか、それに牙を立てんばかりのその様子


 恐怖の余り、ぼくは何も行動を起こす事が出来ずにいた


 「ちょっとあんた!キュルルを、離しなさいよぉっ……!!」

 「おお、済まない、我は頭に血が上っていた。これでは賢い、とは言い難いな」


 指の形がくっきり残る腕、だんだんと痺れが痛みに変わっていく


 「うう……」

 「くっ……あたしには、こんなことしか出来ないだなんて……!」

 「な、何も出来ないんじゃないよ、大分楽になったよ、ありがとう……」


 腕をさすってくれる

 それだけでぼくには十分すぎるくらいだ

 

 「そうか、……生きていたか。代わってくれぬか?」

 [解りました、アムールトラさん]


 感慨深く、表情が丸くなってさっきまでの禍々しい雰囲気は無くなって行く


 「ふう……」


 やっと息を吸う事が出来た

 とてとて、近付いてくる足音がする


 [がお、はいはーい!]

 「おお、同志よ。久しいな」

 [ッッ!その、こえ、は……!]

 「そうだ、我だ。お前はアムールトラと呼ばれているのだな?」

 

 [がお……]

 

 「ホワイトタイガーさん、アムールトラさんとはどんな関係?」

 「話せば長い、時期件については話すとしよう……」

 [かんぜんたい、そのこ、そうよばれてた……]

 「それ以上は止めぬか!!」

 [ごめん、なさい。でも、そのこたち、あいつらとはちがう!……おねがい、こ、ころさないで!!]

 「……その様な事はもうしない。お前の元気そうな声が聞けて、我は安心したぞ」

 [アタシはもう、だいじょうぶ!……そろそろはかせがごはんつくってくれる。いくね!]

 「大分、明るくなったじゃないか。身体には気を付けるのだぞ?」

 [がおっ!]


 もう、一番星が輝きを見せるそんな時間


 「……時代は、季節の様に移ろうモノ、なのだな」


 片手を腰に当て、夜空を見上げながら、何か思いに更けていた


 「決めた、キュルルとやら、我は暫く世話になる」

 「Oh……」


 「……どうやら、我々はとんでもない依頼主クライアントと出会ってしまったようですね?」


 「センちゃん!?」


 「そーそー、きっとその子も寂しがり屋さんなんだろーねー。良いんじゃない?そんな目してるもん」

 「ぬう……そ、そんな訳では……!」

 「じゃあ決まりですね。探偵ダブルスフィアは心のスキマも埋めちゃいます!」 


 「なんでそうなるのよ!?」


 あらら、なんだか凄い事になってきちゃったよ……

 カラカルさんがツッコミを入れた処で


 [な、なんで……や、ねん!!あってる、かな?]

 「アッハイ」


 カラカルさんと、アムールトラさんによるダブルツッコミ!

 

 [やったあ!]

 

 どうやら繋ぎっぱなしだったようで……

 誰が「先生」なのかは、簡単に想像がつく

 向こう側では、「パァン!」と威勢の良い音がした


 「……確かにリスキーですが、ホワイトタイガー、あなたが最初からそのつもりなら今頃我々は無事では済まなかった事でしょう」

 「探偵に危険は付き物!たーだ、本来の依頼主のイエイヌちゃんがどう出るか……」


 「それなら心配は要らぬ!我はさいきょーだからな!はっはっはっは!!」


 「ホントに大丈夫なんだか……」


 カラカルさんがぼくの気持ちを上手い事代弁してくれた


 [え、えらい!こっちゃ!?]

 [エエでぇ!ビーストの名に恥じぬナイスツッコミや!!]

 [えへへ……]

 「オモシロソウダッタカラソノママニシテタノサ!」

 「えぇ……」


 「そうと決まれば善は急げだ!皆の者、我に続けぇ!!」

 「ホワイトタイガーさん、何処へ行くの!?」

 「知らぬ!はーっはっはっは!!」


 うーん、先が思いやられるな……


 ↓→←↓→↑→↓←↓→↑↓→←


 あれから、そこそこ歩いた

 ダブルスフィアチームをトップにぼく達は歩いている


 ホワイトタイガーさん、なんだかんだで大人しくしてる


 「大丈夫?見える?」

 「うん、ありがとう」

 

 夜の森の中、オルマーさんが発見していたショートカットルート

 ちゃんとした道じゃないから歩きづらい

 そして、見え辛い

 カラカルさんに手を引いてもらう

 とても心強い


 「我は、お前達を羨ましく思うぞ。結構!」  

 

 こんなお話になった


 暗い場所に閉じ込められていた

 時々、長い廊下を歩く

 外の世界を見る機会が有った時は、遠くの賑やかな雰囲気がとても眩しかった


 いつか外に出たくて、そのチャンスをずっと狙っていた


 と……


 「まぁ、昔話だ」

 「見えてきましたよ」 

 「続きは気が向いたら話すとしよう」


 センちゃんが指差す先、木々の隙間から見える

 建物がある

 その中、一件だけ明かりが点いている


 「行きましょうか」

 「うん」


 歩を進める


 「ホワイトタイガーさん、その強そうなのなんとかならないの?」

 「おお、我とした事が……これは失敬」


 黒いオーラが「スッ」と引いていく


 ホワイトタイガーさん自体、白を基調とした色使いに、おみみ、髪の毛やシャツ、ネクタイ、スカート、しっぽにアクセントとして、黒が混じる

 それがより白を際立たせる


 剥き出しの鋭い爪や、ギラ付く目


 その独特な出で立ちは、慣れてなかったり、初めて見たら警戒する


 明かりの点いたお家、窓から乱暴に一人誰か飛び出してきた!


 「はぁ、面倒な事になりそうね……」








  


 「そいつは危険です!離れて!!」











 「どれ、我が稽古を付けてやろう。ふふ……」

 「ダメだよ!ホワイトタイガー!!」


 サーバルさんの制止が間に合わない!


 「さぁ!胸を貸してやろう!思う存分ぶつかってくるが良い!!」


 大手を広げ、ノーガードのホワイトタイガーさん

 

 ぼく達の身の回りも、黒く濃い霧に包まれていく!

 

 まずい!本気だ!!

 

 「ぐっ……!」

 

 物凄い威圧感、押し潰されてしまいそう……

 

 「うあああああああ!!!!」


 この時点で勝負は解りきっていた……


 「く……っ!わたしは、そんなモノに屈しない!!」


 がっぷり四つ身組み掛かるも

 

 「このおっ!!」

 「どうだぁ!大きいだろう!お前、なかなかに強いじゃあないか!!」

 「ぐぬぬぅ!くやしいっ……!!」


 じたばた暴れるイエイヌさんを


   「ふはははははは!!!!」


 余裕で抑え込んだ!

 圧倒的な力を前に力無く項垂れる……


 「やっぱり、わたしは……」

 「そんな事は無いぞ。強者つわものに立ち向かうその勇気、敬服に値する!」

 「けいふく?」

 「お前は勇者だ。その振る舞に感心して尊敬する。と言う意味だ……ちと、難しかったか?」

 「じゃあ、あなたは魔王ですね」

 「魔王、だと……?」

 「まぁ、立ち話もなんですし、わたしのおうちへ案内します!ささ、こちらへ」


 と、言うわけで……


 「ご紹介にありましたように、わたしはイエイヌです」


 中へ案内してもらうと


 「……ちょっと、待っててくださいね?今、お湯にはっぱを入れたやつ用意しますので」


 お湯にはっぱを入れたやつ、「紅茶」


 イエイヌさんも、かばんさん農園みたいな感じで畑をやってるらしく、そこで摘んだ茶葉だそう


 良い薫りがしてきた


 この薫りは、カモミールかな?

 ふんわり優しい香りが鼻を擽ってくる……


 「おまたせしました!」


 程無くして運ばれてくる

 ぼくもお手伝い


 キッチンはしっかりとお手入れが行き届いてる


 「ごしゅじんさまが、ここに来てくれた時に出来るようずっと練習しているんです。これは追々お話ししますが、そのカギを握っているのは、あなたかもしれないんです」


 「……」


 気になるけど、後でお話

 今は待っておこうと思う 


 テーブルに置いて、みんな揃って……


     「いただきます!」


 事件はお茶会の後半、突然起こった!


 「ちょっと、あんた!いつまであたしのキュルルにべたべたくっついてるのよ!?離れなさい!!」

 「イヤです!せっかく探し求めてたヒトなんです!あなたこそ離してください!!すーはーすーはー!!」


 「いーたたたた!!」


 「カラカルよ、まぁ、良いではないか?」

 「だって……!」

 

 「カラカルさん、無理を承知でお願いします!キュルルさんを、今日だけわたしに……ください!!」

 「ハァ!?」


 「カラカルさん、凶器まくら投げ大会、しませんか?」

 

 突然、センちゃんがそんな事を言い出した

 確かに今「まくら」って言ってたけど、「にやり」と怪しい笑みを浮かべていたものだから、嫌な予感しかしない……


 「おお、たのしそー!わたしもやりたーい!!」


 「決まりだな。では、カラカルよこうしてはどうだろう?」

 「何よ?」


 ぼくに「おかしなこと」をしない

 ホワイトタイガーさんからイエイヌさんに、そう釘を刺した処で、渋々納得したカラカルさん


 さっきのお話をしてくれるかもしれない


 「あ、適当に空いてるお部屋使っちゃってくださいね?」

 「はいはーい!」


 ぼくと、イエイヌさんだけが残り、他のメンバーは出て行った


 お片付けが終わった後、ベッドのあるお部屋へと通して貰う


 「やっと二人きり、ですね?」

 

 月明かりだけが照らす、薄暗いお部屋

 イエイヌさんはぼくに寄り添い、暫く無言の時間が流れ……


 「キュルルさん、とってもいいにおいがします……」


 ぼくの手を取り、指を絡め、月明かりに反射したアイスブルーとオレンジの瞳が真っ直ぐ見つめている……


 「イエイヌさん、ダメだよ……ぼくにはカラカルが……」

 「今はあの子の事は忘れて下さい……!」








     ドゴオオオオオン!








 

 「なんだ!?」


 ぼくのあの時感じた嫌な予感は見事に的中した!


 「あ!キュルルさん、行ってはダメです!!」


 気が気では無くなり、外へ飛び出てみたら……


    「ふはははははは!」


 月夜に照らされ宙を舞踊る強者フレンズさん達、目にも止まらぬ速さだ!


 それぞれの「色」

 目からフレーク状の輝きが空間を染め上げ……


 騒ぎに便乗して駆け付けたらしく、見知らぬ武士フレンズさんも混じりお祭り騒ぎになっていた!



       ちゅどーん!


 「ひえっ!?」 

 「イエイヌさん、ぼくが悪かった!戻ろう!!」

 「はいいっ!!?」


 ぼくは身の危険を感じ、慌ててイエイヌさんとまた元居たお家へと戻った


 轟音が鳴り響く夜は、空の色が変わる時間まで続いたのだった……




 はっしゃおーらい!ジャパリパーク!!

 


 




 



 

 

 


 

 

 


 

 

 


 

 


 

 

 


 


 


 


 


 


 


 


 

 


 


 

 


 

 


 


 


 


 


  

 


 

 

 


 

 

 


 


  


 


 

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