第14話 朝靄のDanger Zone!?

 「ふあぁ……朝だね……」


 まだ薄暗い時間だ

 空気の感じでもうすぐ、陽が昇り始める事がなんとなく理解る


 木に凭れて寝ていたぼく

 カラカルはいつの間にか寝てたらしい

 

 すぐ横にはサーバルさんも、静かな寝息を立てている


 今日の始まりは


    「コぉケコッコォー!」


 セキショクヤケイさんの威勢の良い掛け声から始まった


 遠くからってのは確か、だけど「キレ」の良い声は耳に真っ直ぐ飛び込んできて、微睡んでいたぼく、そして二人もどったんばったん!


 「うみゃあっ!……ビックリしたよー……」 

 「寝覚めは……あんまり良くないわね……」


 ぼくは、昨日寝る前に言われた事、やってみることに


 「カラカル、サーバルさん。おはよう」


 茶色のしなやかなしっぽを穏やかに揺らすカラカルさん……


 あ!心の中ではそのままで行こう!

 そう決めたぼくなのであった


 「あ、キュルルちゃん。おはよう!」

 「おはよう、キュルル」


 ぼく達三人は、ちょいとその辺を散歩してみることにした


 「ねぇ、キュルルちゃん?」

 「なぁに?」

 「わたしの事、サーバルちゃんって呼んでみて?」

 「どうしたの急に!?」

 「いいからいいから!」

 「さ、サーバルちゃん……?」

 「やったぁ!これからは、サーバルちゃんって呼んでね!……ダメかな?」

 「……分かったよ」


 なんだかやりにくいな……

 実は、昨日寝たふりしてて、「これはチャンス!」と内心思っていたらしい


 サーバルさん、なかなかやるね……


 そして、カラカルさんぼくの顔を「ふふん」と覗き込んだ


 「あはは……な、なんだか恥ずかしいな……」

 

 気を取り直して……

 

 朝のひんやりとして澄んだ空気はとても気持ちが良いもの

 うっすらと靄が掛かるミステリアスな雰囲気も良いスパイスだ


 「ふふふん、じゃぱりぱー!」

 「じゃぱりぱー!」

 

 鼻歌混じりの二人、ゆるゆる散歩道!


 すると……?


 「とおうッ!」

 「あら、レッドじゃない?」


 草むらから、レッドさんが飛び出してきた!


 朝の挨拶もそこそこに……


 「今から、朝御飯の時間にて候ゥ!もし良かったら御三方、如何ですかなァ?」


 「んじゃあ、ご馳走になっちゃおうかしら!」


 「では、暫し待たれィ……」


 そう言ってレッドさんは草むらに顔?を突っ込み……


 「着いてくるが良い!」

 「早ッッ!?」


 とりあえずほいほい着いていく事に、茂み掻き分けること、だいたい五歩……


 「おお!戻ったか!!」

 「ほーら、見てよこの色ツヤ!新鮮な卵だよ!!」


 イエローさんの頭?には、ほんのり赤みを帯びた卵がどっさり!

 キラキラ輝く湯気が立ち上ってる


 不思議だね


 「わたくしの自慢ですわ!栄養たっぷり!たんと、お召しになりまして?」


 ぼく達がいる事を知っていたから、「セキちゃん」こと、セキショクヤケイさんは昨日フードファイターと化していたそう


 胸を張って、「とん!」と叩きとても誇らしげ


 「ふっふっふ……」


 何やら含みのある不敵なイエローさん……


 「行くよ!ブルー!!」

 「任せろ!!」


      カチンっ! 


      シュバァ!!


 「熱ッッ!」

 「枯れ草!枯れ草!!」

 「ここだ!」

 「……ふー」


 「なんと!?」

 「うみゃあ!?」

 「にゃにっ!?」


 これは驚いた!


 イエローさんとブルーさんの合体技!

宙に踊り出た二人は電光石火の早業でお互いの「石」を擦り合わせ、火を起こして見せたんだ!


 「でもそれって……」


 「如何にも!しくじれば即パッカーン!」

 「息をしっかり合わせないとね!」


 「もうめちゃくちゃよぉ……!」


 やーれやれ、こんな不思議もまた日常

 カラカルさんと同じ意見だ……


 今日のメニューは、ゆで卵や卵焼きを作る事になった


 「うう……やっぱりそれ苦手だわ……」


 カラカルさんは火が苦手っぽいので少し離れる


 「カラカル」

 「なによ?」

 「ほら、ぼくと手を繋いで?」

 「……し、しょうがないわね」


 ぼく達のやり取りを聞いてたボスは


 「ハハハ、カラカルハツンデレサンダネ!」

 「ボースぅ?」

 「アワワワワ!」

 「あはは……」


 「カラカル、ツンデレ!」

 「サーバルまで!?」


 わいのわいのしてる時、ボスはちょこっと光ったあとこっそり教えてくれた


 ツンデレって天性みたいなものなんだって


 フレンズじゃないカラカルさんも、ものすっごく負けず嫌いだったりなんだとか


 「ああ、なるほど……」と賑やかな二人のやり取りを見て納得


 説明の最後に「オオメニミテアゲテネ?」って言ってた


      がさがさっ……


 「何奴!!」


 「ひょこっ!気になる!気になるよ!!」


 草むらから顔を出して、しっぽを猛スピードでブンブン振ってる!


 「見てるよ!めっちゃ見てるよ!!……ねぇ、そこのあなた!!」

 

 「へ?ぼく!?」

 

 とりあえず近くに行ってみた


      「おて!!」

      「what's!?」


      ぶおぉんっ!!


 その時間……僅か瞬き一回分……ッッ!!


 反射的に手を差し出したら、盛大に的を外されたものだからおったまげ!!


 「おおぅ……」

 「えへへー!」


 何事もなかったかのようにドヤ顔を披露してくれた


 「おはよう!わたし、ニホンオオカミ!あなた達、何してるの?」


 「今から朝御飯にて候ゥ」


 「あ、おじゃまリアンだー!一緒に遊ぼう!!」


 「一人増えても一緒!拙者達は一向に構わんッッ!!はーっはっはっはー……覇ァッッ!!」


 なんだか二人によるトークバトルが始まる

 ぼくと、カラカルさん、イエローさん、セキショクヤケイさんはそっと離れて様子を見ることに


 「なんか、会話噛み合ってなくない!?」

 「カラカル、ぼく頭がいまいち追い付いてないみたい……」

 「まーこれで追い付けってのはちょっと無理があるかもね……」


 突っ込んだら負けな気がした朝靄立ち込める森の中


 サーバルさんと、ブルーさんに目を移す


 「サーバル、火加減はどうだ?」

 「うん、良い感じだよ!」


 鉄板に手をかざし、入り具合を見てるみたい


 「サーバル……さすが、かばんと長かっただけあるわね……」


 ここでカラカルさん、顎に手を当て考え事


 暫くした後スッと二人の元へと……


 「あ、あたしも何か……出来ることはないかしら?」

 「じゃあカラカル、わたしの真似してみて?慎重にね?」


 サーバルさん、こんこん角っこで軽く叩き、卵がとろぉり……と


 陽炎立ち上る鉄板

 下の火もちらりと見えてる


 「うう……」

 「カラカル、頑張って!」

 「み、見てさい、あたしだって……!」


 サーバルさん、カラカルさんと目を合わせ、こくりと一度ずつ頷くと卵を一つ受け取り……


       こんこん……


 みんな無言で見守る


       ぱかりっ……

 

 丁寧に割られた、赤みを帯びた殻から外の世界へ、解き放たれた卵……


 今、まさに変身を遂げようとしているッッ!


 黄身が落ちていくスローモーション

 透明な白身の向こう側にはニホンオオカミさんが、わくわくしてる様子が見える


 ああ、キラキラとした輝く黄身が眩しいよ……

 

 カラカルさんの手から離れた黄身はやがてアツアツの鉄板の上へと


      じゅわぁっ……!


 ぷりぷりっと盛り上がる純情のラプソディ……

 

弾ける白身が「ぱあっ」と大輪の華を咲かせる


 「や、やったわ……!」

 「まだだ!まだ終わっていない!!カラカル、コレを手に取れ……」

 「よ、よおし……」


 ブルーさんから、ヘラを受け取り


 喉元が動く……


 もう一度、サーバルさんと目を合わせ……?


 焦げ付かないよう、ひっくり返す

 小指が立ちつつも、とても繊細なその奥ゆかしい技前ワザマエを、ぼく達に披露してくれる


       おお……


 一同、思わず感嘆の声を漏らす


 料理は「描くこと」に通ずる何かであるものなんだと改めて感じさせてくれる……


 透明だった白身はちゃんと白く変わってきた処で


      「オマタセ!」


 「何い……ッッ!」


 ここでボスから援護射撃が!


 「コノジャパリマンハ、チョットチガウヨ?フフフ……」


 今日の朝、ボス達は大忙し!

 

 「はっ……!」


 あっちこっちで草むらが僅かに揺れ動いているのが理解る


 カラカルさん、サーバルさん、ブルーさんの美技繰り広げられる目の前に目がいきがちだけど?


 「この薫り……パネットーネ種……!」

 「キュルル、キミナラ……ワカルネ?」

 「えぇ、勿論ですとも……」


 セキショクヤケイさんの奇跡の結晶を引き立たせてくれる、「名脇役じゃぱりまん」が控えている 


 食んだ時、ほんのり甘酸っぱい福よかな薫りが特徴的


 ここでセキショクヤケイさん、妖しげにウインクしながら懐から何かをチラつかせた!


 「コケッ……!」


 あれは……桜色の岩塩!


 ほぅ、なかなかのワルだね……


 一体、何が始まるんだ!?


    ざわ……


         ざわざわ……


       ざわっ…… 


 「で、出来たわっ……!」


 「おお……」


 「カラカル」

 

 イエローさんと、セキショクヤケイさん、そっとそばに立ち……

 

 「アレ」を受けとる

 

 「そのままじゃ、使えない」と説明があり、ぎゅっと掌で圧を加え……


 「サーバル」

 「うん!」


 砕かれ、サラサラになったそれをひとつまみ


   「おいしくなぁれ……」

   「おいしくなぁれぇ……」


 目を閉じた二人は同時におまじないを掛け、手から溢れ落ちた儚くキラキラ輝く砂塩は、肘を滑り落ち優しくバウンドした後、料理をより一層引き立てるべく鉄板へと


 ふわぁっと、いいにおいが辺り一面を覆い尽くす


 中まで火がしっかり通り、程よく焦げ目が入った目玉焼き?卵焼き?が完成!

 

 こんな時細かいこと気にしちゃいけない


 「はい、どうぞ!」

 「ありがとう」


 鉄の薫りが移り、じゃぱりまんにサンドされたおじゃまリアンスペシャルmeetsカラカルさん、サーバルさんエクストリームだ


 今日も、極上の食材を提供してくれたセキショクヤケイさん、おじゃまリアンの方々、ボス、「魔法」を掛けてくれたカラカルさん、サーバルさん、ブルーさんに感謝の気持ちを込めて……



     いただきま……

    

  その時、不思議な事が起こった!



 真っ先にアクションを起こしたのはニホンオオカミさんだった


 ぼくがお口に運ぶ前に、無言で膝から崩れ落ち感動のあまり泪したんだ


 「お、おいしい……っ!こんなのはじめてっ!!ふ、ふわわ……っ」


 膝が笑い、上手く立ち上がれずにいる


 なんでも、「料理」は初めてなんだとか


 「そんな、大げさねぇ……そんなわけ……しまっ……!?」


 そんなこと言いつつ、カラカルさんもガクッと力なく崩れ落ちた

 

 その後は説明不要ッッ!!


 みんな揃って余りの……あ、おじゃまリアン達は無事みたい……


 ちなみにぼくも倒れてて、横目で様子を見てたんだけどね


 「どおだい!みんなぁ!!」


 「ま、負けた……がくり……」




    生きてて良かった……!!


 


 そう感じた朝の一時なのであった


 ↑↑↑↓↓←←←→→→B


 「オーディション?」


 「あ、はい!今回、このペパプのライブは参加者の方々にご協力してもらい、お芝居をしたいと思いまして」


 ボスを通じて、ペパプの……


 「マーゲイはマネージャーさん、だよ!」

 「おぉ、ありがとうサーバルちゃん」


 うーん……やっぱり違和感あるね……


 マネージャーはステージの監督や、こうしたイベントの支配人と、凄い方の事をそう言うんだって


 (わたし難しいことは、あんまりわかんないや!……詳しい事は後でかばんちゃんに聞いてみたら良いかも?)

 (ふむふむ……)


 スケッチブックの隅っこに聞きたいことをささっと書き留めておく事にした


 昨日、プリンセスさんがお知らせをしたんだけどこの後、もう一度ボスを通じてお知らせするみたい


 「ねぇ、ボス?」

 「ナンダイ?」

 

 ここで一つぼくは提案をしてみた


 「ソウダネ、ボクタチモヤレルダケヤッテミルヨ!カバントソウダンシテミルカイ?」


 「お願い、ボス」

 「チョットマッテテネ」


 しばらくして


 [はあ、はあっ……はいっ!なんでしょう!!]


 「か、かばんさん!?」


 息を荒げ、ただ事では無いような感じ……


 [あ、今走り込みしているんです、はあっ……はあ……]


 なんでも、朝のこの時間

 日が上り落ち着きを見せた時間帯位に、かばんさんは、ゴリラさんとアムールトラさんを引き連れて走ったりなんやかんやしてると教えてくれた

 コノハ博士、ミミ助手はお留守番なんだとか


 [ごりらせんせいまってー!]

 [がんばれ!]

 

 うっすらとその様子を伺うことが出来た


 お顔を見ることは出来ないけどきっと三人は、いい汗を流している


 「お取り込み中みたいね……」

 「そうだね……」


 なんだか忙しそうだったから「夜連絡します」と伝え、お話を終わりにすることにしたんだ


 この事は、ぼくと一緒のボスは知らなかったらしく「ゴメンネ……」と


 ……言うことは?


 「まー、やれるだけやってみましょ?」

 「そうだね……ところで、サーバルちゃん?」

 

 ボスから聴こえたかばんさんの声をとても気になってたらしい


 「夜までがまん!」

 「あはは……」


 それからぼく達は、後片付けを手伝った


 「しかし、あんた達便利ね」

 「ふっふっふ、こんなのにスマートって言うらしいよ?」

 

 リュックサックに何かを入れるみたいな感覚らしい


 調理器具は、レッドさんの担当なんだって

 めっちゃグイグイ押し込まれてる!?


 「これで良し、と……」


 それを考えるとあの素早い身のこなしを見たら、とても力が強いんだなと思った


 「キュルルどの、そう難しい顔しなさるな。拙者は荷物持ち、ただ出来る事をしてるだけで御座る」


 ぼくは無意識にそんな顔をしてたみたいでレッドさんに、言われ「はっ」となった


 「わたしだって、最初は何も出来なかったんだよ?もちろんかばんちゃんだって……一つずつゆっくりやってこーよ!」


 にっこり笑うサーバルさん

 自然と身体がほぐれた気がした


 「ありがとう、サーバルちゃん」

 「そうそう!笑って笑って!!」


 ははは、かなわないなぁ……


 「あたしも、かなわないものなのよ……」

 「なんでぼくの考えてる事解ったの!?」

 「へ?自分の感想言っただけだけど?」


 「あはは!あなた達仲良しだね!!」


 「ちょっとぉ、ニホンオオカミ!あんまりからかわないでくれるー?」


 「カラカルだけに?」

 「レッドまで!?」


 「さ、いこいこ!しゅっぱつしんこー!!」


 ニホンオオカミさん、さっきまで静かだったのにグイグイし始めてきたよ!

 あ、でも目だけはずっと「気になる!」と語っていた


 拠点にしてた場所からライブステージまではそこそこの距離を歩く


 「おはよう!」

 「おはようございます」


 時々草むら越しで声がしたりしたから挨拶する

 

 けもの道は結構歩きにくい

 掻き分け掻き分け、ちょっとずつ

 

 はぐれてしまわないようにと、カラカルさんはぼくと手を繋いでくれてる


 「アトジュウカゾエタラミギニマガッテネ」

 

 ボスも歩く道の助けをしてくれ、顔に草が当たる事を除けばこれもまた楽しい


 「上はまかせて!」


 「しかし、サーバルどのはシノビの者で御座るか!?」


 「さぁ?あたしと会わない間にそんななってた」


 姿は見えないけど斜め後ろ、おじゃまリアンのメンバーが居る


 「ひょこっ!」

 「うわあっ!?」

 「えへへー!」


 何があるか解らない!?気が抜けない!!


 そんなこんなで……


 「ついたー!」


 草むらが晴れて、ライブステージに到着する事が出来た!

 たくさんのフレンズさん達が見てる


          わいわい

      

    がやがや



      ざわ……

            ざわざわ……


     ざわ……


 もうオーディションが始まってる! 


 「アンシンシテ!バッチリエントリーシテオイタヨ!!」

 「流石ボス!」

 「ア、ツギデバンミタイダヨ?」


     な、なんだってー!?


 「いきなりじゃない!?」


 着いて早々、心の準備が出来てない中、なんとぶっつけ本番!!

 

 「ちょっとボス!?」

 「ア、アワワワワ!!」


 

[それでは、エントリーナンバー7番!キュルルさんチームです!宜しくお願いします!!]


      やるしかない!!


      「勝つぞー!」


 三人、手を重ね合わせ誓いの儀式を


       「おー!!」





 はっしゃおーらい!ジャパリパーク!!


 

     


 


 


 


 


 


 


  


 


  


 


 


 


 

 


 

  


 


 


 


 


 




 


 




 


 

 


 


 



 


 


 


 


 

 


 


 


 

 


 


 


 

  

 

 

 



 

 

 


 


 


 

 


 

 

  

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