第7話 修羅を行くけもの達 ~後編~


 カラカルさんを先頭に、待ち合わせの場所へ向かう途中、ぼくは、緊張していた……と言うよりも……


      

       誰も喋らない



 葉っぱが風で擦れたり、吹き抜ける風がイヤに響く……


 「連れてきたわよ」


 よりにもよって、待ち合わせの場所はさっきまでケンカしてた場所

 倒れた木が切り株になっていて、イリエワニさんとメガネカイマンさんはそこに腰掛けている


 「待ってたよ、遅かったじゃないか……」


 なんだろう?雰囲気が変わった?

 

 「キュルルさん、でしたっけ?あなた、ヒトだと聞いています……」

 「教えてくれないか?ヒトがどう、あたい達、フレンズを……操って……居たのかを」


 はぁ、とカラカルさん一息……


 「キュルル、大丈夫よ。ま、あたしはあんたがなんだって構わないんだけど……」


 「べ、別に取って喰おうだなんて思っちゃ居ないさ……」

 「ただ、私もそうですけど、親分が言うように、ヒトってそんなに恐ろしいけものなのかどうか……」

 「もし、必要ならあたいでやってくれたって構わない!」

 「い、イリエワニさん!?」


 「メガネカイマン、あたいがもしダメになったら……その時は……」

 「イヤですよそんなの……そんなの、あんまりですよぉ……!」


 「イリエワニ、それはせんでええ……あんた、それがどないなるっちゅうのホンマにわかってンのか?」


 「……」


 さっきまでの間柄なら今頃、食って掛かる事だったかもしれない

 だけど、イリエワニさんは、無言でぼく達を見つめるだけだった


      「うちがやる」


 「ねーちゃん!ウチがやる!!」

 「クロ、気持ちは有難い。せやかて、一度吐いたツバはうち、飲み込まん主義やさかい。ここは、ねーちゃんに任しとき……!」

 「ねーちゃん……」


 あれ?確かここは、打ち合わせに無かったはず……


 不安そうなクロさんをなだめ、ぼくと対面する

 

 「キュルルさん、うちはどないなっても……」


 「そんな簡単に自分の事犠牲にしちゃダメだよ!!」


 「サーバルさん、その気持ち、有り難く頂きますわ。けどええねん、さっきラッキーさんに教えてもらったさかい、これは、うちにやらせて?」


 あくまでも一芝居との事だったんだけど、打ち合わせした事と、全然違う事に戸惑う……

 回りに悟られないよう、これが今のぼくの精一杯…… 


 「じゃあ、始めるね」

 「キュルルさん、頼むで……!」


 ぼくは、ポケットから蔦で木の実をくくった物を取り出し、ヒョウさんの目の前に持っていく……

 ゆっくり、ゆっくりと揺らすと目から生気が……消えた……!

 こんなの練習の時はなかったよ!?


 「ヒョウの、様子がおかしい!」

 「イリエワニさん、もう少し様子を見てみましょう……」


 「今の、ヒョウさんは、眠っている状態に近いんだ……」


 「なんですって!?」


 そして、ヒョウさんは語り出す……


 「イリエワニさん、メガネカイマンさん、うち、もう限界や……ホンマは、うらやましかったんや」

 「ヒョウさん?」

 「ナワバリ争いなんて、お互い傷つき合うだけ、うちは出来る事なら笑っていたい。ケンカ最初に吹っ掛けたのうちやし、なかなか切り出せなかったんや……勝手なのは解っとる……」


 マズい!このままでは、醒めなくなってしまう!!

 

 「術を、解きます……」


 「ぱん」と手を鳴らすと、目に輝きが戻り、解けた事を確認して


 「これは、とても危険なんだ。相手を思い通りに操る催眠術と言うモノで……」


 「なんて、恐ろしい……」


 「これが、うちの本心や。スマンな、汚い手ェ使わせてもろて……」


 「……始めから、分かっていたんです私……こっちだって!毎日、仲直りしたかった……!!どれ程思い詰めた事か……!」

 「あたいもこの子と、どれ程苦しんだことか……今日こそは今日こそはといつも……!だけど、退くに退けなくなっちゃって……」


 「イリエワニさん、メガネカイマンさん、うちらと手ェ繋いでくれまへんか?」


 「い、良いのかい!?」


 「いずれ、何とかせんといかんかった問題や、早ければ早いほどええ。な?仲直りしよ?」


 (これは、あたし達おじゃまなようね?キュルル、サーバル、はけてましょ?)

 (そうだね)

 (あー、わたしのど乾いちゃった!お水飲みに行こうよ!)


 結果、良い方向に行ったから良かったものの、「本当にこれで良かったのか?」とぼくはとても、複雑な気分だった……


 ↑←→↑←→↑←→↑←→↑A+A+B


 「メガネカイマン、こっち来てみぃ!」

 「私、木登りするの……実は初めてなんです」

 「大丈夫や!ウチがバッチリ教えたる……っいよっと、さ、ゆっくりでええねん。木の上、ごっつ気持ちええでぇ……」


 クロさんがメガネカイマンさんに、木登りを教えている

 慣れない手付きで木の窪みに手を掛けたり足を掛けたりしながら上を目指している真っ最中


 コマンドーさんとはまた違うボスからじゃぱりまんをたくさんもらって、ぼく達は切り株に腰かけ、お喋りをしている処


 「うち、イリエワニと川遊びしてくるけど、あんたらも良かったらどうや?」


 「みんな一緒に行こうよ!」

 「ちょっとサーバル、またあんた勝手に決めないでよね!?ま、行くけど?」


 「ぼく、もうちょっと休んでるね……」


 「じゃあ、キュルルちゃん、具合良くなったら来てね?約束だよ!!」

 「サーバルさん、ごめんね……」

 「早く良くなってね……じゃあ、みんな待ってるからわたしいくね?」

 「うん、気を付けてね」


 それからぼくは夢を見た


 大きなお家


 色々な物が有って、なに不自由しなさそうなんだけど、そこに居るのはぼく一人だけ……歩き回って何かを探すんだけど、見つけたい物が見つからないんだ……

 それが、なんなのか分からない……

 とても、怖くなってお家から出ようとしてみたんだけど、出口が見つからなくなって、ぼくは、とうとう泣き出してしまった

 誰を呼べば良いのか、どうすれば良いのかまるで分からなくなる……

 部屋の隅に座り込み、外をずっと眺めていたんだけど、いつまで経っても窓の外は真っ暗闇のまま……


 ねぇ、どうすれば良い?

 誰か、教えてよ!

 ねぇ

 誰か

 ……

 

 「……ちゃん」

 

 え?

 だれ?

 

 「……ルさん!!」


 どこだろう?

 たくさんある部屋のどこからか声がする


 「……ル……ちゃん!!」


 あそこだ!

 あそこから声がする!!


 声がした部屋の扉をぼくは、開いた


     「キュルル!」


 苦しい

 そして、みんながあんな所に

 なんで、逆さま……?


 ……え?


 疾しる衝撃、これが現実なのか分からない


 目を醒ましてちょっと

 やっとぼくは、今どうなっているのか理解した!


 「オンドレェ!!キュルルさんを離せや!!ゴラァッ!!」

 「ねーちゃん!シバいたれぇ!!……キサマァ!ドツキまわしたるぞ!!!」


 ぼくは、人質にされていた!!

 身体が動かない!!

 もがこうとすればするほど、意識が遠退いていく……


 「早くしないと、キュルルちゃんが……キュルルちゃんがぁ!!」

 「くっ……弱点がキュルルの側だからキツいわね……!まだ、あんたには……連れてきたい場所……たくさん有るんだから!!」


 みんな闘っている……


 ぐっ……ぼくは、なにも出来ないだなんて……!!


   ポコ……

   ポコポコ……

   ポコポコポコポコポコ!!!!!


 「うおおおおらあああああッッ!!!!」


 林の中から誰かが飛び出し、攻撃を仕掛けてきた!!

 助走の効いた猛烈な右ストレート!


 一部が吹き飛んだらしい


 ぐらっと、一気に視界が傾いた!?


 「親分!?」


 「遅くなって済まない。お前達!!再生される前に一気に畳み掛けるぞ!!」


 「……あたいは手加減なんて器用なマネは出来ないよ!これでも喰らえぇ!!」

 「痛いですか?じゃあ感じなくなるまで……ブッ壊してやりますよ!!」


 「うわぁ、二人ともえっげつないですわぁ……」

 「クロ!感心してる場合やない!!……来るで!!」


 みんなの目から、輝きが動きと共に尾を曳きながら、この空間が光に包まれていく……!


 「今だ!殺るなら今しかない!!」

 「サーバルさんっ!」

 「カラカルっ!」





      行けッーッッ!!







 イリエワニさん、クロさん、メガネカイマンさん、親分さんが、二人を弾き飛ばし、ぼくの視界から消えた

 それと同時に、視界が180°ズレた!


 「行くわよ!サーバルっ!!」

 「キュルルちゃん!今助けるから!!」


 ↑←→↑←→↑←→↑←→B


 「ここは……」


 白い天井、ぼくはベッドの上で寝ていたみたい

 

 「お家……?」


 今までの出来事は、夢、だったのかな……?

 誰もいないお部屋

 とたんに、ぼくは怖くなって思わず


    「だれかぁっ……!」


 掠れた声で誰かいないかと呼び掛けてみたんだ

 

 やっぱりこの「お家」、夢の中で見た夢の中と同じなんじゃ……


 そうだ


 このお部屋には扉がある


 何もしないよりはマシかも知れない

 ぼくは、ふらつく身体を引き摺りながら、扉に手を、


       掛けた……


 「うわぁ!」

 「ちょっと、あんた!?」


 扉に押され、跳ね返されてしまう

 もう少しで頭を打ってしまいそうになっちゃったんだけど……?


 「夢、じゃなかったんだ……!!」

 「ケガは無い?」

 「うん……」

 「はぁ、全く……世話が焼けるんだから……」


 また、夢の中だって構わない!


 そう、ぼくの目の前には、カラカルさんが!!


 「みんな、あれからとても疲れちゃって今は寝てるの。朝が来たら……って何よっ!?」


 ぼくのほっぺが微かに濡れ始めた


 分からない


 それから、どれ程の時間が経ったんだろう?

 

 「カラカルさん……これは、夢の中……じゃ、ないよね……!」

 「なに、訳の分からない事言ってるのよ!?安心なさい、ほら……」


 カラカルさんは、ぼくの手をしっかり握り、胸に手を当てた


 「わかる?今、あたし達は生きている。それが何よりの証拠よ?」


 「……!!」


 「んもう、最近……泣き付かれてばっかりね……」


 「ごめんなさい……」


 「良いのよ、後、あたしあんまり湿っぽいのは苦手なの」

 「どこに行くの!?」

 「はぁ……大丈夫よ、あたし達はどこにも行かない。今から叩き起こしてくる!!」


 「えぇっ!?」

 「さぁ、行くわよ!キュルル!!」 


 腕を牽かれながら、まっしぐら!

 カラカルさんまっしぐら!


 「かばん!キュルル起きたわよ!!」

 「それは何!?」


 腕に何か着けていて、それに向かって話し掛けている

 

 [キュルル、オレダ!]

 「コマンドーさん!」


 今は、この姿がコマンドーさんみたい 


 「セツメイハアトダ!オーケー?」

 「オッケー!」


 長い通路を走り抜け、ぼくは還って来たんだ!


 「キュルルさんや!キュルルさん、やっと目ェ醒ませたんや!!」

 「もう、大丈夫なのかい?」


 「うん、心配かけてごめんね?」


 大きなお部屋

 この人数には、とても広い


 誰か、欠けている……そして、声を掛けてくれるこの方達も、うっすらとしか、思い出せない……でも、どこか懐かしい感じ……


 一体、ぼくに何が起こったんだ?


 「お?この足音は、かばんさんとサーバルさん帰ってきたみたいや!」 


 「かばんさん?サーバルさん?」


 「やっぱり、一度食べられてしまったからですかね……」

 

 食べられた!?

 

 眼鏡を掛けた、緑色の服装をした方、そう一言

 そして、その横にいた灰色の方が近づいてくる

 

 「いいかいキュルル、良くお聞き?」

 「はい……」


 ぼくのほっぺをそっと撫で……


 「あんたは一度、セルリアンに喰われちまったのさ……」


 セルリアンに食べられてしまう事は、場合によって、それは「死んでしまう」そう……

 ぼくは、偶然にも早い段階で助けてもらい今に至る


 「みんな、ぎょーさん頑張ったんやけど、結果はこのザマ……ウチらは敗けてしもたんや……」

  

 それに、ぼくを襲ったセルリアンは、ぼくが助けてもらった後、あと一歩の所で姿を眩ましてしまったと……


 「まさか、石が二つもあっただなんて……あたし、こんなの始めてよ……」


 「敗けてなんか、いないよ……」


 「何やてぇ!!あんた、自分がもう少しでダメになってしまう所やったんやで!?それに……あのクソッタレ……!!」

 「ねーちゃん、一回落ち着こ?な?」

 「す、スマン……」


 「現に今、こうしてぼくも、みんなも生きている。生きてさえいれば、敗けじゃないんだ」


 今日と言う日は、闘いの真っ只中の日

 それはもちろん、明日を笑って迎えるため

 ぼくは、生きているんじゃなくて、生かされているんだ


       誰にでもなく

       誰かのために


 カラカルさんの、胸の鼓動がそれをぼくに教えてくれた


 「ただいま!」

 「サーバル、遅かったじゃない」

 「えへへ、ごめんね?」


 「サーバル……さん?」

 「あ、キュルルちゃん、おはよう。もう大丈夫なの?」

 「お、おはよう!!うん、多分……」


 「サーバルちゃん、ちょっとキュルルさんとお話ししてくるから、準備の方、お願いしてても良いかな?」

 「分かった!さっき教えてくれたやり方でやってみるね!」


 黒いジャケットの中に、赤いシャツ

 半ズボンの格好をした方

 この方がかばんさん

 帽子を被っていて、ぼくと色違いの羽がもう一つ着いている


 「キュルルさん、少し、別のお部屋に……」

 「分かりました」


 「キュルル……」

 「カラカルさん、みんな、ちょっとボク、行ってくるね」


 ↑←→A←→↑←→↑R←→↑B+A


 案内されたのは地下室

 とても難しそうな設備がたくさん置かれたお部屋

 そして、難しそうな顔をした二人が何か調べものをしたりしている


 部屋の片隅は休憩室と呼ばれるお部屋になっていて、ぼくはそこに通された


 「はじめまして、アフリカオオコノハズクのはかせです」

 「助手を勤めています、ワシミミズクです。今、紅茶を持ってくるから暫く待っているですよ」


 暫くすると……


 「良い薫り……」


 「少し、驚かせてしまったり、もし失敗しても多目に見てやって欲しいのです」


 「?」


 受け皿に、ぼく達の分の紅茶が乗っている

 それを、慣れない手つきで慎重に運ぶ方……


 「ビースト、アムールトラです」

 「!?」

 「大丈夫ですよ、今、この子は色々と練習中なのです」


 ダブルスフィアチームが言っていた「ビースト」

 まさか、こんな形で逢う事になるだなんて……


 「がんばるのですよ……」


 「ぐるる……」

 

 低く、地鳴りのような唸り声

 でも、何か言葉を発しようとしている事は何となくだけど理解る……


 ぼく達の座っているテーブルの高さに腰を下ろし、震えた手付きながらも


 「ぐるる……」


 「ありがとうなのですよ!おまえも、かばんにいれてもらうといいのです」

 「我々、待っているので、お前達の分も出来上がったらみんなで一杯、やるですよ」

 「ただし、あまりさめないうちにたのみますよ?」


 そう言付けされた、アムールトラさんは


 「がうっ!」


 力強く頷き部屋を出て行った


 「……があっ!?」

 「ああっ!?アムールトラさーん!!」


 あ、こけちゃったみたい……


 「あのこには、つみをつぐなわせているのです」

 「まだまだ時間は掛かりますが、何れは外に出してやりたいのです」

 「ときどき、はかいしょうどうがかおをみせることがあり、よだんをゆるさないじょうきょうなのですが……」


 それから、静かな時間、少しだけ過ごし


 「おまたせー」

 「かばん、遅かったですね?」

 「いつまでまたすきですか!」

       

 「キュルルさん、気にしないで?これ、いつもの事なんだ……」

 「あはは……」


 かばんさんも色々大変そう……


 丸いテーブル

 この人数だと、少し小さいけど

 一人一人がとても近い


 「さぁ、おちゃかいをはじめるのです!」

 「お話しはその後……かばん農園の紅茶、とくと楽しみやがれなのですよ?」


      頂きます……!



 しゅっぱつしんこー!ジャパリパーク!!


 


 



 


 


 

 

 



 


 


 


 


 

 

  


 

 

 

 

 

 


 

 


 

 


  

 


 


 


 

 

 


 

    

 


 

 

     

 


 

 

 


 

 


 


  


 

 


   

 


 


 



     


 

 

 

 



 

 

 

 


  

 

 


 

 

 

 

 


 


   

 

  

 


 


    

 

 

 


  

 


 

 


 


 

 



  


 


 


 


 

 

  


 

 


 

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