ボクと狐ちゃんとテニスサークル1

入学式から数日たち、明日から授業が始まるという日、ボクは家でのんびりと本を読んでいた。本はいい。大好きだ。今は古本屋で買ってきた本を読んでいるが、これを全部読み終わったら図書館でも行ってみようかな、そんなことを思いながら紅茶片手にのんびりしていると……


ピーンポーン


まだ朝の8時というのにインターフォンが鳴った。この音、初めて聞いた気がする。通販だって宅配便ロッカーで受け取っているので、うちを訪れる人なんていない。なのでインターフォンを鳴らす人なんてまずいないかと思ったのだが……

変な人だと困るし居留守だ。そう思って無視して読書を再開すると


ピーンポーン


再度インターフォンが鳴った。

しかしボクは動揺しない。知り合いに家を教えてなんかいないし、ボクの家を訪ねてくる人なんて、変な勧誘とか、それ以上にやばいもの、例えばストーカーとかしか思いつかない。カメラを付けると反応したことがばれそうだし、無視して居留守を決め込むことにする。

何度鳴らされてもボクは動じないのだ。紅茶片手に読書を続けることにする。

そうして紅茶に口を付けると、今度はスマホが震えはじめた。

携帯番号なんて誰にも教えてないような…… と思いながら手に取ると、クーちゃんからの電話であった。


「もしもし?」

「あ、ショウちゃん!! 今家にいる!?」

「いるけど」

「いるならでてよー! チャイム何回も鳴らしちゃったよ」

「あれ、さっきからピンポンしていたのクーちゃん?」

「そうだよー!!」

「ストーカーかと思った」

「ちがうもん!!」


インターフォンの機械を操作してカメラを移すと、そこにはふくれっ面のクーちゃんが写っていた。






やっぱりストーカーみたいなものじゃないかな、と思いながら扉を開けてクーちゃんを家にあげる。普通なら家にあげたくないのだが、なんだかんだでクーちゃんのモフモフ感は嫌いではないし、どうしても警戒心が下がってしまう。


「いらっしゃい」

「お邪魔しますー」


今日のクーちゃんは今までの袴姿の女学生風と違って萌黄色のジャージの上下だった。なんというか、無駄にダサかった。


「どうしたの? その恰好?」

「今日ね、テニスサークルに行ってみるの。ショウちゃんと一緒に」

「いつの間にかボクがいくことが確定事項になっている」

「だって一人じゃ心細いし」

「だったら昨日話してくれてもよかったんじゃ」


クーちゃんとはなんだかんだ言って、毎日LINEで無駄話をしている。昨日だってチャットしたのだが、おいしいケーキ屋の話だけで、テニスサークルのテの字も出てこなかった。


「だって断られたら困るし」

「今日いきなり来た方が断られる可能性高くない?」

「そこはショウちゃんだから」

「どういう理由なんだ……」

「ほら、代わりに尻尾触ってもいいのよ」

「……」


クーちゃんがそういって後ろを向いて振り返りながら尻尾を振ってくる。クーちゃんの今回の服もちゃんとジャージのお尻のところに穴が開いていて、上から布が縫い付けられていてお尻や下着が見えないようになっている。こんな服を扱う専門店でもあるのか、お母さんあたりが裁縫してくれるのか、どっちだろうと気になった。なんとなく後者な気がする。

正直めんどくさいが、クーちゃんの尻尾を触っていいというのは非常に心惹かれる。あのモフモフ具合は極上であるが、動物は基本尻尾を触られるのを嫌うし、女の子のおしりを触るのはセクハラじゃないかという気持ちが捨てきれない。それを触っていい権利は非常に、非常に欲しい。


「しかたないなぁ。一緒に行ってあげるよ」

「やったー♪」


尻尾を見ないようにしながらクーちゃんにそう答えると、嬉しそうに尻尾を振るクーちゃん。なんにしろ尻尾モフモフはすごく魅力的だ。結局ボクは安請け合いするのであった。


「で、何時にどこに行けばいいの?」

「9時に大学テニスコートだね」

「9時ね……9時!?」


時計を見る。今もう8時30分過ぎなんだけど!?

慌ててボクは着替え始める。寝巻代わりのスパッツとシャツ姿からひとまず服を脱いで……


「今日も黒なんだね」

「みるんじゃなーい!!」


ボクの下着姿を見てそんなことを言うクーちゃんの顔面に、ボクは脱いだシャツをたたきつけた。

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