第23話 愛猫と添い寝する
「もう暗くなって来たから気をつけて」
セリュの言葉を受け、礼を言う。
「ありがとうございます。
みなさん、おやすみなさい」
そうしてペコリと頭をさげ、部屋から出る。
「ああ、おやすみ」
セリュの優しい声。
「おやすみー!」
スカイの元気で陽気な声。
「…おやすみ」
スノーも小声ではあったが、挨拶を返してくれる。
にっこり笑みを返してから、幸歌はパーティーメンバー達の相部屋を後にした。
部屋に戻ると、素早く福がベッドに飛び乗る。
「ふうやれやれ、ねーちゃんは世話がやけるなー」
なんて一人言?を幸歌にあえて聞こえるようにか、大きく口にしてから、ざりざり、と毛繕いを始めた。
勿論しっかり耳に入ったが、幸歌はあえて何も言わない。
昔からトカゲや鳥をあえて持ち帰って来たり、幸歌の面倒をみてるぽい意識のあった福である。
加えて今は、戦闘は福頼みという現実!
何も言い返せないではないか!
ぐぬぬ、と思いつつ、幸歌はあえて気にしてない風を装い、作業を始める事にする。
猫じゃらしの後に思い付いた、ある悪巧みを明日実行するために、作らなければならない物があるのだ。
リュックからなるだけ薄い布地の物を選び出して取り出し、大きなハサミでザクザクと切り出していく。
そんな幸歌を福は横になったまま、じっと眺めている。
途中手元が暗くなってきたので、いつも枕元に置いていた、USB充電のポータブル式ナイトライトを取り出して点灯した。
充電スタンドの上に置いてある間充電され、充電が切れるまでは、それ単体で明かりを灯せる、前の世界でも何かと重宝していたお気に入りの品だ。
卵型のフォルムも可愛らしい。
今は電気がないので、太陽光充電のポータブル充電器で充電するのも忘れない。
明日はこれも、太陽に晒して充電しておかなくては…。
そうして格闘する事、どのくらいか…不器用者の幸歌としては、かなり苦労したので、大分長い時間に感じられた。
なんとか苦心して納得いくものを3つ作りだした。
それを1つ持ち上げて、
「よし!」
と満足げな声を漏らす幸歌を、福はじーっと眺め続けている。
「つっかれたー!」
腰かけて作業していたベッドに、後ろ向きに倒れ込む。
「終わったの?」
福が問いかけながら幸歌に近づいて来る。
彼が何を求めているか察し、慌てて幸歌は起き上がった。
「待って待って、着替えるから!」
福に捕まり身動きとれなくなる前に、手早くパジャマに着替える。
クリーンの魔法は使って汚れは一切ないが、やはりお風呂に入りたいなあ、という思いは拭えない。
幸歌はお風呂をこよなく愛している。
甘えん坊で寂しがりの福をひとりにする心配がなく、追い焚きさえできれば、何時間浸かっていてもいい、と思えるほどだ。
勿論水分補給は必要だが。
ここは異世界、風呂天国の日本ではないのだ、仕方ない…そう一つため息をつき、ベッドに戻る。
掛け布団をめくり、布団の中に潜り込む。
そして
「おいで」
と福に声をかけた。
福は布団の波に軽く足をとられながらも、横になった幸歌の枕元へやってくる。
掛け布団をめくってあげると、その中に頭を突っ込み、入り込んでいく。
ある程度中に入ると、くるり、と振り替えって頭を枕の方へ向け、位置を調整。
枕の右に手を上げるようにしている、幸歌の右腕の上にどかっと横になった。
すかさず幸歌は左腕を差し出す。
福は軽く顔を擦りつけると、その手のひらに頭を押しあてけた。
今日は左手のひらに頭を包まれたような姿勢で寝る事にしたらしい。
福の寝姿勢が定まった事を確認してから、
「おやすみ」
と幸歌は、腕の中の愛しい存在に囁く。
それからナイトライトの天辺を軽く2回タッチして、明かりを消した。
そしてフカフカの背中に顔を埋めて目を閉じる。
肺いっぱいに吸い込む愛猫の匂いは、ほとんど無臭のはずなのに、いい香りがする気がする。
それは幸歌にとって幸せの香りだ。
今夜もその香りに包まれて眠れる事を、誰にともなく感謝した。
幸せな香りと暖かな福の体温。
モフモフふわふわな肌触り。
ほどなく幸歌は疲れもあり、あっさりと眠りの世界へ誘われる。
だから気づかなかった。
くうう、くうう、と寝息をたて、先に眠ったとばかり思っていた福が、小さな声で呟いたのを。
「もう僕のいない所で、ねーちゃんを勝手に死なせたりしない」
と。
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