エピソード1「ナンパ」

俺の名前は後藤勇樹、ごく普通の大学3年生だ。都内から少し外れた大学に通う為、一人暮らしをしている。

毎日気が向いた時に大学へ向かい、気だるく授業を受け、週に一度バイトへ向かう。あとはダチ等と飲みに行ったり、クラブでアガったり、合コンで良い感じの子と遊んだり。そんな気楽な生活を送っていた。

ある日の昼下がり、授業がかったるくなった俺はダチに出席登録を頼んで大学を出た。

二度程電車を乗り換え、俺は渋谷に来ていた。理由は特にない。ただいつも来ている渋谷と新宿のうち、空いてる店が多そうなのが渋谷だと思っただけだった。

駅を出てふらりと付近を歩くうちに俺は久しぶりにナンパでもしようと思いついた。

正直言って俺は結構イケてる方の人間だと思っている。顔もそこそこ整っていて、身長は180近くある。そして髪型や服装などの身なりに気を付けている為、それなりにモテるのだ。

イケてることを良いことに俺は結構遊んでいる。大学やバイト先、合コン、ナンパで好みの女の子を引っ掛けては付き合わずして体の関係を持つのだ。かなりの確率で相手は俺に本気になるみたいなのだが、その時その時が満たされてしまえばそれで良い俺は面倒だと感じてその度に半ば一方的に関係を切ってしまう。こんな自分に対してなんて罪な男だと笑えてくる。

そんなこんなで最近もクラブで会った子と関係を切っていた俺は次の子を募集しているところなのだ。どこかに良い感じの子がいないか、適当に辺りを歩いていく。

10分程街中を歩き、早々に飽きかけていた俺は駅の方へと方向を変えながら近くにあった一件のカフェへ向かった。

カフェに入ると平日の昼でありながら中はそこそこ混んでいた。俺の様にサボってるのだろうかなどと思いながら俺はコーヒーを頼んで店の真ん中に置かれている席に腰掛ける。

コーヒーを一口飲み、「まず」と思った。そういえば俺はあまりコーヒーが好きじゃないんだった。

不機嫌気味になっている俺は無造作にスマホを取り出した。画面には通知が20件以上溜まっていたが全てを無視してSNSを開く。しかしSNSには何一つ面白いことがなく、何気なく「暇」とだけ呟いて顔を画面から離した。

たまたま俺が顔を上げた先、窓沿いの席。そこにひとり座るショートヘアの女の子。Tシャツと短パンからすらりと伸びた手足、大きな胸、横から見てもわかる程整った顔。まさに俺好みの女だった。

俺はニヤリと笑い、「渋谷で良い女見つけた」と呟くとスマホをしまって女の方へ近寄った。さり気なく向かいの席に座り、話しかけた。


「ねえ、君ひとり?」


ただ飲み物を飲んでノートを眺めていただけの女は驚く様子もなく俺の顔を見て微笑んだ。それを見てひとりでいると確信した俺は続けざまに質問した。


「君、可愛いね。名前は? 彼氏いる?」

「……真咲。恋人はいないわ」


女、真咲のゆっくりと動く唇は今まで相手してきたどの女のものよりもエロかった。口紅を塗りたくっているわけではない、内側からじんわりと血が滲んでいるような赤い唇に俺は釘付けになった。


「真咲ちゃんね。俺は後藤勇樹。真咲ちゃん、今暇?」


真咲はにこりと笑って頷いた。久しぶりに俺は「イケる」と思った。


「それじゃあさ、ここで話すのもあれだし、どっか行かない?」

「ええ、良いわよ」


よっしゃ! と俺は心の中でガッツポーズをした。今まで会ったことのないレベルの美少女をゲット出来たのだ。喜ばないわけがない。

すぐさま俺と真咲は店を出た。いつも使っているホテルまでの道のりを思い出しながら、下心を悟られないように俺は真咲に話しかける。


「真咲ちゃんって今いくつなの?」

「……いくつに見える?」


真咲は俺の方を見ながら小首を傾げ、意地悪そうに笑った。幼くも大人っぽいその表情に唆られる。


「俺が21だから……20歳? あ、するとも未成年?」

「年下であることは大前提なのね」

「だって真咲ちゃん絶対年下っしょ! めっちゃ可愛いし、髪伸ばしたら高校生にも全然見えるよ」


俺はそっと真咲の耳近くに手を伸ばし、毛先に触れる。細く柔らかい、綺麗な髪だった。若干猫っ毛なのか、セットをしていないにも関わらず髪は緩やかにウェーブがかかっていた。


「髪、伸ばさないの?」

「伸ばしたくないの」


真咲はこれといった抵抗をしないまま、話を続ける。


「お父様がね、許してくれないの。お父様に嫌われたくないし、髪が長いと益々自分が嫌になるから伸ばさないわ」

「ふーん、そうなんだ」


髪や耳に触れたまま、適当に相槌を打っといた。これ以上話をこの流れにしておくのはやめておこうと思ったのである。

真咲は案外面倒な奴かも知れない。しかしヤれてしまえばそれで良い俺はあまりそのことを気にしなかった。


「真咲ちゃんさ、今までにこうやって男と遊んだことある?」


髪や耳に触り飽きた俺は優しく真咲の肩を抱いた。その行動に対しても真咲は驚きも抵抗もしない。


「あるわ」


微笑みを保たせたままきっぱりと言うので俺の方が逆に面食らってしまった。

こんな可愛い子が……だがそれが逆に唆られる。もしかしたら、これからホテルに連れ込もうとしていることに気付いているのかも知れない。いや、ナンパされること自体、待っていたのか?


「結構遊んでる感じ?」

「ええ、もう沢山」


思わず真咲の肩を抱いている手に力が入る。興奮のあまりに汗が滲み、口角が変に上がってしまう。


「じゃあさ、これからホテル行こうよ」


真咲の耳元でそっと囁くように言った。俺がこんなストレートに誘うのは初めてだった。それ程までに真咲は俺の理性を掻き乱したのである。

しかし、そんな期待を裏切るように真咲は言った。


「嫌よ」

「……は?」


唖然としたあまり心の声が口に出てしまった。

俺の誘いが断られた? いつも男と遊んでいるような女に? ……いや、そんなはずはない。

そんなはずはないと自分に言い聞かせ、俺は平静を取り戻して真咲に聞いた。


「なんで? まだ早かった?」

「いいえ、ホテルに行くのは嫌なだけ」

「じゃあどこ行きたい? カラオケとか?」

「……彼処」


真咲が指差した方を見るとそこは一切人が通らないような薄暗い路地裏だった。

なんだそういうことかと俺は安堵した。それに加え真咲はこういう趣味の女だったというのがわかり更に興奮が高まる。

もう俺は自分の欲を抑えられなかった。荒い呼吸になりながら俺は半ば強引に真咲を路地裏に連れ込み、 キスをした。何度も何度もキスをした後に真咲の口内へ舌を滑り込ませる。その間も真咲は無抵抗だった。

今すぐ真咲のナカに入れたくなった俺は右手で真咲のTシャツの中を弄りながら、左手で自分のベルトを外してチャックを下ろした。

その時、強い衝撃が後頭部を突き抜けた。突然起こったあまりの衝撃に視界は歪み、力無くその場に倒れ込む。その時俺が最後に見たのは蔑むように俺を見る冷たい真咲の瞳だった。



意識が戻った後も俺は目を瞑ったまま、ボーッとしていた。

俺、いつの間に寝てたっけ? 固くて寝心地が悪いってことはまた俺は玄関で寝たのか? というか何してたっけ……。確か、大学行って、飽きて渋谷に行って、真咲と会って、それから路地裏で……。

そこで全神経が目覚め、飛び起きる。と、同時にここが路地裏ではない所にいるということに気が付いた。


「ここは、どこだ……?」


薄暗い部屋の真ん中で俺は倒れていた。窓が1つも無く、壁や天井はコンクリートが剥き出しになっている。くるくると回る簡素な換気口につられて目が回りそうになった。

俺はすぐに立ち上がろうとした。しかし、その意思と反して自分の身体は再び床に倒れることとなった。何かが両方の足首を掴んだような、そんな感覚がする。


「痛ってーな! ……な、何だよ、これ……」


舌打ちをしながら共に違和感のある足首を見てみると、どちらの足にも金属の輪っかが取り付けられていた。その輪っかはすぐ近くの床から生えるように設置されている金属の杭に繋がれており、いくら力を入れても外すことも壊すことも出来そうになかった。


「それ、鍵がないと取れないわよ」


突然、後ろから聞き覚えのある声がした。反射的に振り返るとそこには真っ黒い大きなソファーがあり、その中央に声の主である真咲が脚を組んで座っていた。ソファーの横には出入口と思われる扉がある。


「おい! これどういうことだよ!」


真咲の姿を見るや否や俺は怒鳴り散らした。しかし真咲はビビる様子もなく冷たく俺を見下ろす。その様子が更に俺を苛立たせた。


「さっさと外せよ! ……おい、聞こえてんのかよ!」

「会った時からそうだけど、うるさいわね。全く」


真咲は先程から持っていた携帯を操作するとすぐに扉が開き2人のスーツ姿の男が入ってきた。


「は……?」


そいつ等が持っていた物を見て俺は絶句した。

抱えるように持っていた大量の瓶。中には黒く蠢く何かが入っている。

……あれは虫か?

スーツ姿の男達は真咲を挟むように横に整列した。スっと1つの瓶を取り上げた真咲が中身を覗き込みながら呟く。


「取り寄せたのは私だけど、この虫も気持ち悪いわね。でもお前の為に取り寄せたのよ、勇樹君?」


こちらをチラリと見て真咲は微笑んだ。出会ったばかりの微笑みと大して変わらないはずの真咲の顔に俺は恐怖を覚えた。

目だけが、真咲の目だけが笑っていないのである。


「な、何をするつもりだよ……」


そう呟いた俺を見て真咲はくすくすを笑い出す。


「何を? そうねぇ、何をしましょうか」


ヤバい、こいつはヤバい。俺は確信した。

今すぐ逃げなければいけない……。そう思った俺はソファー横の扉へ行こうとするが足首の金属のせいで少しも動けない。

何度も何度も「クソ」と吐き捨てながら足首に纒わりつく金属を何とかしようとした。案の定、金属は何とかなることはなくただ俺の声が涙ぐむばかりであった。

そんな俺の様子を見て、真咲は笑っていた。清々しい程の笑い声だった。


「助けてくれぇっ……おい、聞こえてんだろ……」


俺は弱々しくスーツ姿の男達に縋った。しかしどちらも俺の声に反応するどころか、真っ直ぐ前だけを見て俺を見ることすらなかった。


「順平」


俺の縋り声を遮るように真咲は笑うのをやめ誰かの名前を呼んだ。するとスーツ姿の男達のうち、背が少し高い方が低くくぐもった声で返事をした。そいつが順平というのだろう。

順平と呼ばれる男は瓶を抱えながら器用にジャケットを脱ぎ、中途半端に壁に打たれた釘に引っ掛けた。

ワイシャツ姿になった順平は瓶を抱えたままスタスタと俺に近付いてくる。


「やめろ、俺に近寄るんじゃねえ!」


俺は両腕を振り回して抵抗を試みると、順平はぎりぎり腕が当たらない距離を保って立ち止まった。

床に座り込んでいる俺を見下ろす順平の目も恐ろしい程冷たかった。その目を間近で見てしまった俺はまるで蛇に睨まれた蛙のように怯んでしまい、腕の動きが止まった。


「良いわ、順平。やっちゃって」

「何を」


言いかけた時、順平は無言で瓶を開けた。瓶の縁からはわらわらと虫が溢れてくる。

その瞬間、虫の正体がゴギブリであることに気が付いた。


「うわあああああああああっ!」


俺はこれまで自分が出したことのない程の悲鳴をあげた。それに反比例するかのように真咲は大きな笑い声をあげる。


「良いわ、良いわ! その悲鳴。順平、早く勇樹君にかけてあげて!」


高揚した顔で叫ぶ真咲に従い、順平はゆっくりと俺の上で瓶を傾けていく。その間も瓶の中からは何匹も出てくる。

徐々に横向きとなって床と並行に近付いていく瓶。俺は必死に訴えた。


「お願いだ、やめてくれ! 何でもするからっ、もう女遊びはやめるから……! だから……」


ゆっくりと床と瓶が並行になった途端、勢いよく瓶が傾き、中身がぶちまけられた。その一連の流れがスローモーションに見えた俺は咄嗟に耳を塞ぎ、下を向いて目も口もぐっと綴じた。

ペチペチペチ。軽くて固い物が落ちたような、そんな音が周りから聞こえたと同時に俺の後頭部やうなじ、背中に何かが大量に落ちてきた。最早何が落ちてきたかなんて考えたくもなかった。


「んー!」


俺は叫びたくなる気持ちを必死に耐えた。だって今口を開けてしまったら何かが入ってきそうだから。俺の頭皮や腕、更には服の中にまで。無数の何かは居場所を探すかのように俺の上を忙しなく歩き回っている。

確実にトラウマ行きとなる拷問を受けている俺を見て真咲は笑い続けている。何がそんなに面白いのだろうか。俺は真咲に殺意を覚えた。

……この女、絶対に殺してやる。

俺は自分の身体に纒わりつく虫を払って真咲の方を睨んだ。真咲は相も変わらずソファーの上で脚を組んでおり、順平と同じ格好になっていたもう一人の男がソファーに近付く虫を踏み潰していた。


「……殺してやる……」

「あら、威勢が良いこと。どんな状況でも威勢が良いのは男らしくて良いわよね」

「うるせえこのクソアマ! こっちに来い! 殺してやる!」

「真咲様に何という口を聞いてやがる!」


ソファー側の男が怒声を浴びせると同時に順平がとてつもない力で俺の腹を蹴りあげた。濁音と共に吐き出された唾液混じりの血液。腹に強い衝撃が与えられると数秒呼吸が止まるということを痛感した。


「この野郎がっ、貴様の方が殺されるんだよ!」


順平は蹴りを一度入れただけだったのに比べ、ソファー側の男の方は何度も罵詈雑言を俺に浴びせてくる。


「貴様何ぞ、この虫けら以下の存在なんだからな」


罵声を浴びせながら、足元にいる虫を力任せに踏み潰していく。


「亮平、黙りなさい」

「ですが真咲様……」

「これは私の大切な時間なの。良いから黙りなさい」


冷静な態度で真咲が言うと亮平と呼ばれた男は先程の様子とは打って変わって大人しくなった。それ程までに強い主従関係なのだろうか。


「お望み通り、そっちへ行ってあげるわ」

「え……?」


いきなりそう言うと真咲は突然立ち上がり、こちらの方へと歩く。足を付ける先に無数の虫がいようが、気にすることなく進んで行く。

この女は何を考えているんだ? 俺はたった今こいつに「殺す」と言ったんだぞ? なんで近付いてくるんだ……?

そんな疑問がぐるぐると頭の中を回っている間に真咲は俺の目の前へ来てしゃがみ込んだ。


「何よ、その顔。勇樹君から来いって言ったんでしょう?」


呆然としている俺の髪や耳に触れながら真咲は笑いかける。


「私と会った時、勇樹君はこうやって私に触れたわよね」


冷たい目とは裏腹に、俺に触れる手は温かかった。


「あ、あぁ……」


予想外の事が起き過ぎて、俺は間抜けな返事をしてしまった。


「ねえ勇樹君。お前にキスされた時、私、凄く凄く気持ち悪くなったわ。どうして男とキスしなきゃいけないんだって、どうして男に求められなきゃいけないんだって思ったわ」


この女は一体何を言っているんだ……?

先程まで優しく俺に触れていた真咲の手に力が入り、俺の頭皮に真咲の爪が食い込んでいく。


「本当はお前みたいに女とキスして女を求めてるはずだったのに……お前みたいな男と男と男と男と!」


真咲の微笑みは崩れ、鬼のような形相で叫び始めた。


「お前は良いわよねぇ? 身長もある男らしい体つきで。さぞかし女と遊びまくったんでしょうねぇ? 嗚呼ウラヤマシイ、その身体が羨ましいウラヤマシイ羨まシいウラヤマシいウラヤマシイ!」


あまりの形相に俺は再び真咲に恐怖した。顔を強ばらせ、頭皮に食い込んでいく爪の痛さに耐えることしか出来ない。


「憎たらしい、羨ましい。憎い。お前が憎い。死んでしまえシンデしまえ」


呪詛のような言葉を延々と叫び散らしたと思うと今度はまた笑い出した。その異常な光景を見て俺の恐怖は限界を迎えたのか、気付けはズボンのチャックの辺りが温かく濡れていた。

数分程経った時、突然真咲の笑い声がぴたりと止んだ。


「亮平、こいつを押さえつけて」


無表情で真咲が命令すると全身が硬直していた俺はあっという間に取り押さえられて両腕の自由を奪われてしまった。そこで俺はやっと我に返り、目の前にいる真咲に怒鳴った。


「おい、何をする気だよ!」

「順平、こいつの口を抉じ開けなさい」

「何を言って……うぐっ」


反論しようと口を開いた俺の顎を順平は力強く掴んだ。左手で顎を、右手で鼻辺りを掴み無理矢理に口を大きく開かせる。俺がどんなに抵抗しようが両腕を塞がれた状態では無意味に等しかった。

不格好な体勢の俺の前で真咲は近くを通りかかった1匹の虫を乱暴に掴みあげた。

その瞬間、次に真咲が何をしようとしてるのかがわかってしまった。


「ひっ。ひゃめてくれ、頼む……」


俺の乞いに真咲は一切耳を貸さず、掴みあげた虫を俺の口の中へと放り込んだ。

初めて味わう感覚だった。声にならない声で叫んだことによる振動と舌の動きに合わせてじたばたと暴れる少し弾力のある固い物体。口内から出ようとしているのか、その物体は羽根を広げたような気がした。

しかし物体が飛び立つことはなかった。何故なら俺の顔を抑えている男が無理矢理俺の口を閉じたからである。

羽音が口の中からする。小さい頃、玩具の扇風機のプロペラ部分に指を当てた時に感じた細かな感触が口の中で再現されたようだった。

俺は唯泣き、ろくに叫ぶことすら出来なかった。腹の底から吐き気が込み上げ、意識が切れかける。だが残念なことに気絶することはなかった。

鼻水もお構いなしに垂らしながら泣きじゃくる俺の姿と、そんな俺を見て喜ぶように笑う真咲の姿はまるで子供の様だった。

少しすると真咲は立ち上がりソファーに戻って行った。そして男達が持ってきた瓶をいくつか持って俺の所へ戻ってくる。


「順平、口を開けさせて」


真咲の指示を聞いた瞬間、一番に俺は身を捩って死に物狂いで逃げようとした。しかし俺なんかの力よりも遥かに男達の方が力が強く、逃げられない絶望を感じるばかりであった。

俺の口が開かれる。先程口内に放り込まれた虫だけがその場から逃げ出すことが出来た。


「ほめんなひゃい、ふぉめんなさい」


動かしづらい唇を動かして、俺は何度も謝った。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。誰か助けて……。

優しく俺の頭を撫でながら、笑顔の真咲は瓶の蓋を開けた。瓶の中身を零さないように、慎重に。瓶の口と俺をキスさせるかのようにピッタリと合わせた。

中身の全てが俺の口内に詰め込まれた。舌で抵抗するも数の多さにやられて何匹かが喉の奥へと落ちてった。

ニタニタと真咲は笑う。


「まだまだ瓶はあるからね」


自分の目から光が消えていくのがわかった。抵抗するのをやめ、自然と行われる喉の動きに身を任せた。やがて全てが俺の体内に入ったのがわかると真咲はおかわりを口内に流し込む。俺はそれを全て飲み込む。何度飲み込もうが真咲は何度もおかわりを流し込み、詰め込んだ。



繰り返すこと数十分、ようやく俺は意識を手放した。

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