第10話 おつかいスタート

 通常なら、教室内にて朝礼が始まっている時間。

 鼠組の生徒たちは入学初日に配布された灰色のローブを身に纏い、学園の広場に集まっていた。


「まず2組の班に別れて貰う。出席確認と共に行うから、呼ばれたら返事しろ」


 生徒たちの前に立つ担任のグランが、出席簿を見ながら口を開く。


「第1班、エッダ・ソウヘイ・チロル・マーシャ」


(いや、1人ずつじゃねぇーのかよ・・・)


 出席確認って言ったら普通、1人ずつ名前呼んで確認するだろう。ホント面倒屋なんだな、この教師。

 まぁ、クラス全員合わせて 10人 しか居ないんだ。だいたい一目見れば居る数くらい判る。出席確認が要るかどうかも怪しい所である。


『 --- はい!』


 4人同時に呼ばれたため、クラスメイトのエッダ・ソウヘイ・チロル・マーシャは同時に返事をする。


「第2班、カイト・コウキ・ティア・ユレメ」

『--- はい』


 続いてカイト達の名前が呼ばれる。


(随分と静かな班・・・って、ユレメが居るか)


 1班に比べクラスの中でも、物静かな部類が集まったと思ったが。クラスの中でも1、2を争う明るい人物が同じ班に居た。


「ウチら同じ班やね! よろしく、ティッティ♪」

「・・・よろしく」


 表情がころころ変わるユレメに対し、ほとんど無表情のティアは本当に対照的である。

 あと「ティッティ」って、呼び難くないのか?


「この2班に別れ、帝国での<おつかい>を行う。行き帰りも含め、午後の授業が終わる頃には帰って来い」


 つまり今からだと、おつかいの時間は 8時間 ほど。随分と長いおつかいだな。


 だがこれは適切---いや、まだ足りないくらいかもしれない。

 マドニバルから帝国までの道のりは、迷いの森を抜けてから 約数十㎞ を越えて行かねばならないのだ。帝国で買い物する時間より、行き帰りの方が時間を要すだろう。


「移動方法は任せる。各自、全ての行動が 自己責任 であることを忘れぬように」


 いつも面倒そうなグランが、いつになく真剣な表情で口にする。

 これから行くのは おつかい だが、 ただのお買い物 ではないと釘を刺すように。


「じゃ行って来い、【俺は職員室に戻る】」


 それだけ言うと、グランの姿は一瞬で消える。恐らく【転移の魔法】。


(あんな短い詠唱で【転移の魔法】を使えるのか? ただ者じゃないな、やっぱり)


 ここ魔女集会学園の教師は皆、只ならない空気を放っているように感じたが---カイトの感は当たっていたようだ。


 そしてあれは、あの担任なりの教育指導なのだろう。【転移の魔法】を使えば、帝国への行き帰りなんて簡単だぞ? っていうことか・・・


「よし、じゃあ俺たちも行こうぜ。みんな俺に掴まってくれ」


 カイトが班員である、コウキ・ティア・ユレメに告げる。


「え? カイト君、どうしたのいきなり?」


 ユレメが不思議がってカイトに尋ねる。


「俺たちも【転移の魔法】で帝国まで行こうかなっていう事だけど?」

「え!? カイト君、【転移の魔法】が使えるの!? あれってスゴく想描が難しくて魔力も必要だって、ウチの主人が言ってたのに!」

「まぁ行ったことがある場所なら、ある程度想像できるだろ? それに俺は、魔力の量は取り柄の1つなんだよ」


 カイトはそう言ってユレメに苦笑を返す。カイトの魔力の多さは、カイトの主人サーリンが認めるほどの量なのだ。

 具体的にどのくらいかは教わってないが、とりあえずらしい。


「・・・・・・なんで私が、カイトと同じ班じゃないのよ」

「まぁまぁ、いまさら言っても仕方ないって」


 カイトたち第2班の方を、じっと眺めていたマーシャが小さく呟く。それを聞いていたソウヘイは、いつものようにマーシャを宥める。


「さて、俺たちも お願い しに行くぞ」

「・・・お願い?」

「俺たちもカイトの【転移魔法】で一緒に連れてって貰うんだよ、さすがに歩きは面倒だろ?」

「---! そうね、その手があったわ!」

「いや、どんな手だよ・・・」


 マーシャの言葉を聞いて、ソウヘイも呆れ顔で答える。だが、そんなことは長くは気にせず第1班を引き連れてカイト達の前まで行く。


「カイト! 俺たちもいいか?」

「あぁ別にいいけど、この人数は初めてだからな・・・」


 カイトが腕組みしてどうしたもんかと考えていると、カイトの右腕に無理やり腕組みしてくる生徒が1名。


「・・・カイト、やっぱり貴方は凄い」


「・・・ティア。別にここまで引っ付かなくてもいいんだぞ?」


 無表情なのは変わらないが、何所か楽しそうなティアがカイトに向かって口を開く。

 そんなティアにカイトは一度腕を降ろしてから声を掛けるが、ティアは腕を放す気はないらしい。


「あ、あんた! 何でカイトと腕なんか組んでるのよっ!」


 そして、それを見つけたマーシャが真っ赤になりながら怒った様な声を上げる。まぁ実際に怒っているんだが。


「・・・私はカイトと同じ班、マーシャはカイトとは別の班。・・・それが答え」

「答えになってないっ!」


 またも始まった言い争いに、クラス全員が呆れるのだった。




「それでは皆さん、気を付けて行って来て下さいね」

「うむ、帝国はも多いと聞く。十分に用心してくれ」


 今回は居残り組であるアシスとリゼットに見送られ、カイト達8人はそれぞれ 円になって手を繋いでいる。


「はい、行って来ますね」

「2人にも、何かお土産買ってくるねぇ~!」


 エッダとチロルが居残る2人の言葉に返事をした所で、カイトは詠唱を始める。


「【俺たちが望むのは、遠い地にある帝国へと向かうこと。ただそれだけを望むのだ。そんな俺たちには何一つ障害はなく、一瞬でそれを叶える力があると証明しよう。その証明に、一切の迷いも抱かずに】」


 前より少し長めの詠唱で、より多くの魔力を流す。

 カイトの詠唱が終わると、8人の身体を眩い光が包み込む。

 その光が消えた後、カイト達が居るのは学園の広場ではない。

 空まで届きそうなほど高い城壁に囲まれた、大陸一の栄華を誇る国---


 ----- へと、辿り着いていた。




 エアニファル帝国------通称、帝国。


 迷いの森とほぼ同じ大きさである、大陸の4分の1を領土とする大国である。実際のところ迷いの森を出てから広がる平地はすでに、帝国領地なのである。

 この国の特徴といえば流行や技術の最先端な場所ってことの他に、マドニバルとは違い が住んでいる 場所ってところだろう。


 天女や天士は、魔女や魔士とは違いを使う者たちの事だ。女性の天法使いを天女てんにょ、男性の天法使いを天士てんしと呼ぶ。


 魔女や魔士の始祖である<ドニバルス>と同じく、唯一神<ゼルス>より生まれた<アニファルス>を始祖とする者たち。そのため、根本的には同じ起源を持つ者同士である。


 つまり、

 ---原理もまったく同じモノなのだ。


(・・・・・・まぁ「どっちも同じモノだろ?」なんて言ったら、袋叩きに遇うんだけどな)


 この天女や天士と、魔女や魔士は めちゃくちゃ仲が悪い 。・・・それも、お互いで殺し合う程に。


 だから帝国には魔女や魔士が入れないように結界が張ってあり、迷いの森には天女や天士が入るとが施されている。

 ちなみに、それが<迷いの森>と呼ばれる所以だ。


 ってな感じで、帝国には天女や天士が居て その加護というなの力 を与えられた騎士たちが守護する国である。



「それじゃ、ここからは班に別れて行動するか」

「そうだな。お互いに買う物も決まってるし、行くとしようぜ」


 カイトの言葉にソウヘイが答え、それぞれの班に別れて行動を開始する。

 カイトたち第2班の買う物は、小麦粉と調理実習で作る<マドニバル風カレーライス>の具材となる野菜だ。ソウヘイたち第1班には主役となる肉や、味付けに必要なスパイス類を担当して貰っている。

 それとアシスとリゼットのお土産は、第1班がリゼットの分を、第2班がアシスの分を任されていた。


「買い出しが終わったら、またこの 西城門前 に集合な」

「おっけー、おっけー! さっそくおつかいスタートぉ~!」


 今度のカイトの言葉に答えたのは、チロル。この男は何処に居てもこの調子である。

 そんなチロルたち第1班が西城門の通り口に向かうなか、カイトたち第2班は再び【転移の魔法】で移動する。カイト達の目的である野菜類が売っている商店街は 南城門通り口 からの方が近いのだ。


 ・・・ここから、班行動の開始である。




「・・・そう言えば、城門内にはどうやって入るの?」


 南城門通り口前へと辿り着いた、カイトたち第2班は通り口へと繋がる道を歩きながら会話する。カイトたちの他にも行商人や冒険者、旅人たちなんかがこの道で列を作って歩いている。

 理由は簡単、城門を通るには検問を受けて通行許可を貰う必要があるのだ。帝国も警備体制がしっかりしている法治国家であり、おいそれと危険因子を入国させるようなことはしないのである。


「・・・確かに、ここの警備は厳重。・・・どうするの、カイト?」


 帝国に来るのは初めてだと言っていたユレメとティアの質問は、もっともなものだ。ただでさえ仲の悪い魔法使いの使いを、快く門の中へ居れてくれるとは普通思わないだろう。


「あぁ何というか---裏技? みたいなのがあるんだよ。その裏技を使うために、この 灰色のローブ が必要なんだよ」


 カイト達4人が等しく着用している灰色ローブ。この顔以外はほとんど全身を覆っているローブが、俺たちの正体を偽ってくれる。


「「・・・裏技?」」


 ユレメとティアが2人揃って首を傾げるなか、行列が進みカイト達の順番がやって来た。


「次は、お前たちの番だ。前に来い! ---その格好は、の生徒たちか」


 検問を行っていた男性兵士が、カイト達を見るなり口を開く。


「「・・・ゼルアニファ学院?」」


 ゼルアニファ学院とは、帝国領内に住む子どもたちの学び舎の事だ。6歳から初等部、中等部、高等部を経て18歳まで通うことの出来る帝国の教育機関である。帝国では一般的に、18歳から成人として認められる。それまでに必要な教育を施すのが、その学院なのだ。


「この灰色ローブは、ゼルアニファ学院の生徒たちが外出用に使う物なんだ」


 ここまで黙って付いて来ていたコウキが、ユレメとティアに補足を行ってくれる。

 つまりカイト達は、ゼルアニファ学院の生徒たちに変装しているのだ。


 これがマドニバルに住む子どもたちが、帝国内に入る裏技である。魔女や魔士の使いとして帝国内に行く際は、この灰色ローブが必需品となるわけだ。


「学院の生徒なら、通して問題ないだろう。これからも、勉学に励めよ」

「そうだな。よし、お前ら通っていいぞ!」


 奥に居た別の男性兵士の言葉に頷きながら、検問を行う男性兵士はカイト達に城門内へと入る許可を与えたのだった。




「・・・・・・凄い」

「うっはぁ~! これはホントに凄いなぁ~、まさに最先端の国って感じ!」


 そう声を上げたティアとユレメの前に広がるのは、石畳でしっかりと舗装された広い公道と綺麗な街並み。商店街が所狭しと立ち並び、たくさんの人で賑わっている帝国の姿であった。


「ここはいつ来ても、すごい人の数だな」

「外部から来ている人間も多い。そのためだろう」


 今度はカイトとコウキが口を開く。この2人は帝国に来たことがあるため、さほど驚かない。

 そしてティアとユレメは初めて見るため、とても驚いている物がある。ここからでも見える城下街の中心に堂々と建造され、あまりにも大きく立派な建物。皇帝陛下が住んでいるという、エアニファル城だ。

 まぁカイトは、あの城が帝国の建国時に築城された、由緒正しき御城ってことぐらいしか知らないのだが。


「景色を見て回るのもいいが、そろそろ おつかい を始めるぞ!」


 ここは代表してカイトが、おつかいのスタートを宣言する。

 その言葉を聞いて、第2班は行動を開始した。






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