キツの業

あるまたく

第0話 プロローグ

「キツネさん、これで……おねがい!」

「いや、無理だから。」

「そこを何とか! あ、お芋食べる? 教えて貰ったもあるよ?」


 こいつ、本当にあきらめねーな。4回断ってるのに、帰らないし。

 そっぽを向いた俺は寝床で丸くなる。大木に開いた穴は、小さな体には十分な広さで。敷き詰めた干し草は、問題の少女から物だ。


 ナデナデしてくるが、ダメなものはダメなのだ。うにゅ……そこそこ、ってダメだっての!

 尻尾で顏を押された少女が情けない声を上げる。


「キツネさんの作品は、評判良いんだよ? ね? 見てよ、この注文数! ……ね?」

「ね? じゃねーよ。お前が取ってきたんだろ。」

「おーねーがーいー。」


 うるさい。こいつが来る日は、帰るまで延々うるさい。

 キツネさんこと俺が少女に代理購入を頼んだのは、寝床の質を上げたかったから。

 森の奥地では干し草が手に入らない……あー、もう! うるせー!


「俺に必要なを当ててみろ。」

「えー? お肉は日持ちしないし……。」

「ぶっぶー!」

「まだ言ってないよ!?」


 まったく、寝られやしない。

 俺は立ち上がり、仕事場に併設した保管庫ただのあなに向かう。

 ついてこない少女を見ると、泣きそうな顔でこちらを見ていた。ウソ泣きだろうが、よくやるもんだ。

 アゴでこっちへ来いと伝えると、パアっと花が咲いたような笑顔で起き上がり、寝床の天井で頭を強打していた。……壊すなよ?


 ほふくで近づいてきた少女が保管庫を覗き見て、疑問符を浮かべている。


「空っぽだよ? キツネさん?」

「見ての通りだ。在庫なし。」

「……あえ?」


 ようやく現実を理解したらしい。いくら欲しくとも、在庫がゼロではおろせない。

 オロオロしだした少女には酷だが、首を横に振る。





 フラフラになりながら帰っていく少女に、10日後来るよう言うとともに見送り、巣穴に戻る。ん? 何か落ちてる……。

 少女が残していった布束ちゅうもんを前足でパラパラとめくり、確認していく。


「注文取りすぎだっての。青皿が3、赤椀が10……黄壺は良いとして、白ガラスもかよ。」


 この世界では赤い物の価値が低く、白い物の価値が高い。青や緑が庶民用、黄色は中流家庭が買うらしい。少女の受け売りだ。

 一様に配色された俺の作品は、評価が高いらしい。落とし穴の偽装くらいにしか使えない、と諦めていた能力が評価されたのは驚きだった。まぁ、おかげで良い寝床が得られたけどな。

 皿や椀、そして壺などを土から作り、色を塗るのではなく。

 持ち込まれた品に色を塗る、画家とも陶芸家とも違う、色付士カラーコーディネートという仕事。


 キツネの色付士、それが俺だ。

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