手術当日(後)



 前に全身麻酔の手術受けたのは三歳のときで、そのときは子供用の匂いつきの麻酔を使用してたんだけども。

 これが未だに記憶に残るくらいトラウマになってんですよ。


 そのときに選んだのは苺味。

 当日、なんかとても臭い黒いマスク(シュゴーッて空気が通る変な音がしてる)を顔に押しつけられて、そのマスクからゴム臭いのと変な甘ったるい冷たい空気が押し寄せてきて、臭い臭い臭い!苺味なんて嘘だ!騙された!嘘つきぃー!って息止めて暴れてたのは未だに覚えてる。

 あのときも、気持ち悪い、吐く、ゲェッてする!って思ったんだよね。




 メッチャ名前を呼ばれてる感じがして目が覚めた。

 看護師さん達が三人くらい覗き込んで、なんか言ってる。

「終わりましたよ」と「気分はどうですか」はなんとなく聞き取れた。


 気分悪くはないけど、メッチャ眠いっす。寝たい……と言った筈。

「寝てていいよ」と誰かが言ったので、うぃーっすと頷いて目を閉じる。

 手術前に被らされた帽子を脱がされて、酸素マスクつけるねって言われてゴムがほっぺたにちょっとパチーンとして、まあいいや、と思って目を閉じた。


 しばらくして、頭の上の方でボスンとなにかが落ちたような音がする。

 そうしてなんだか息苦しくなってきたので、こりゃ酸素マスクのなんかが外れたな、と思ったんだけど、ナースコール押そうにも腕が痛くて動かせない(肘の内側に針が刺さってる所為だ!)

 まあ、いいか。誰か来たときに気づくだろう、と思ってまた寝てたら、やっぱり誰か来たんだけど、点滴のパック替えただけで立ち去った。


 それからたぶん三十分くらい、ただのマスク嵌めた状態でかふかふ浅い呼吸繰り返してたら、ようやく気づいた人がいたみたいで、直してくれたのだよ。やっぱり抜けてたみたいだわ。呼吸が楽になる。

 ついでに、目がズキズキ痛くて、その痛みが片頭痛出てるときに似てたから、いつもの癖で頭を冷やしたくなって、冷えピタを……冷えピタをください……と訴えて寝てたらアイスノン持って来てくれて、至れり尽くせりだなーなんて思いつつぐぅぐぅ。


 頭が熱い、目が痛いって言った所為か、看護師さんがO先生に連絡してたみたいで(一応主治医)アイスノン気持ちいいなーとウトウトしてたらO先生いた。

「大丈夫?」って言うから、目がチクチクする、睫毛入ってるって訴えたら、O先生は「それ糸」って言って帰って行った。

 おい、主治医……。


 何度か浅い覚醒を繰り返し、その間、無意識に左腕を動かそうとしては痛みに呻き、やっぱり点滴失敗してるんじゃないか、とK先生に対して恨み節全開。

 この肘の痛さっていうのが、曲がるのと逆方向に負荷をかけられて硬直して痺れてて、それを無理矢理戻そうとしてる感じというか。とにかくちっとも曲がらなくてピーンとまっすぐになってる感じだったのですよ。

 仕方なく右手で袖を掴んで吊り上げて、お腹の上に移動させてみる。それを戻して、またお腹に乗せてってしてたら、なんか動くようになってきた。

 同時に、意識もしっかり覚醒してくる。


 起き上がろうかな、と思ってたら、丁度夜勤の看護師さんが登場。

 手術中、口に人工呼吸器の挿管がされていたらしいので、嚥下障害がないかどうか確かめる、ということで、水を飲まされる。普通に飲める。

 そういや冷えピタくれって訴えてた頃、口の中が消毒液と胃液と血が混じったような変な味がしつつ粘々気持ち悪かったな、と思い出すけど、水飲んだら忘れた。もうなんともないし。


 完全覚醒したこの頃は夕方の六時半を過ぎたところで、夕食の配膳もすっかり終えてしまってたんだけど「ご飯食べますか?」と言われたので、食べるって即答した。絶食でお腹減ってたんだよ。

 でもご飯なかった。欠食オーダー出てたんだって。


 なんかまだ疲れてるし、起きててもお腹減るから寝ちゃうって答えて横になる。

「お茶とかご飯とか、言って頂ければ買いに行きますので。遠慮なく言ってくださいね!」と言われたけど、それはさすがに申し訳ないので寝てしまおう。


 横になりつつ、取り敢えずおっ母にメール。心配してるだろうし。麻酔醒めたけどご飯ないから不貞寝します、としておく。

 ついでにTwitterにも無事だと投稿(ツイ廃)



 この日の夜は、さすがにお嬢も来なかった。手術したんだから傍に行っちゃ駄目よってみんなから言われてたんだろうなーと思ったり。

 代わりに随分デカい音でテレビ見てた。うるせえ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る